はるがすみ
[二]倉庫
It's my first time to..#2
「ギノの奴遅いな…。」
珍しく宜野座が狡噛を夕飯に誘った日から、一週間後。狡噛は校門の脇で宜野座がやってくるのを待っていた。
先日の食事に場おいて宜野座は狡噛に対し支主についての話を振ってきた。しかしどうにも要領を得ず、狡噛が疑問を投げかけると却って押し黙ってしまう有様だった。そして結局はいつも通り互いの研究内容について語り合うに終わってしまった。
それからというもの構内で宜野座に会って話を聞こうとすると、必ずはぐらかされてしまっていた。それでもやはり狡噛に何か伝えたかったのだろうか。今朝、教室にいた狡噛の元へやって来た宜野座は前回のように自ら夕飯を一緒にと提案したのだった。
そうして今日の講義が全て終わり、狡噛が待ち合わせ場所に着いたのが約束の時間の5分前。それからもう30分は経とうとしていた。人を待たせるのはその人の時間を盗むことになる、そう言っていた宜野座がこれまで約束の時間に黙って遅れたことはなかった。何か理由があってどうしても遅れる場合は、あの真面目である宜野座が例え講義中であろうとメールでその旨を知らせてくれたのだった。しかし今日はその連絡もなく、先ほどから狡噛が幾度コールをしてもそれに応えない。
何かあったのか。次第に不安を募らせる狡噛の端末が、着信を知らせるサインを放つ。慌ててスクリーンで発信者の欄を確認するも、そこに表示されたのは【Unknown number】の文字。訝しりながらも狡噛は通話コマンドを選択する。
「…はい。」
[もしもし、狡噛君?]
聞こえてきたのはやはりというべきか、宜野座ではない男の声。聞き覚えのないその声に、狡噛はますます疑念を抱く。
「誰だ…?」
[判らないのかなぁ…僕だよ、支主だよ。]
「支主?お前、なんで…」
答えた相手は支主一之だった。
彼が自分のナンバーを知っているはずもなく、また支主はこの一週間欠席が続いていた。噂では行方不明だとも言われていたが、それがこうしていま自分に連絡をとってきている。狡噛は不快感に眉を顰める。端末越しとはいえ支主はその雰囲気を全く気にしない様子で話し始めた。
[今から時間はとれるかな。会って話したいことがあるんだ。」
「生憎とこれからギノと会う約束をしているんだ。悪いな。」
[それなら丁度いい。宜野座君なら僕と一緒にいるよ。]
「ギノが…?」
おかしい。
宜野座が自分との約束があるにも関わらず支主の元にいるという。もし支主との間に何か急用ができたのだとしても、自分に連絡も寄越さないなんて。
「お前、いまどこにいる?」
[学校の北門を出て左にずっと行った先、使われなくなった倉庫エリアがあるのは知ってるよね?その中で一番奥にある建物の中だ。]
「…なぜそんなところにいる。本当にギノもいるのか?」
[嘘は言わないよ。なんなら声を聞かせてあげてもいいんだけど…残念ながら今は睡眠薬で眠っていてね。]
「お前っ…なんのつもりだ!?」
支主の発言に狡噛は驚く。支主は今なんと言った?睡眠薬?
うまく話を飲み込めない狡噛を無視するように、支主が言葉を続ける。
[とにかく来てよ。僕は直接会って話したいんだ。解ってると思うけど一人で来てね。この通話が終わったら端末の電源も切ってほしいなぁ。まぁ、君が余計なことをすることで怪我をするのは宜野座君だけどね。]
じゃあね、待ってるよ。そう言って支主は通話を切った。
あまりのことに狡噛の思考は追い付かない。ただ一つわかるのは、友人が危険な目にあっているということ。狡噛は混乱する自分を振り払うように走り出した。
(#3へつづく)
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