はるがすみ
[二]倉庫

ゆめのせかいで(PP/縢狡)


「あれ?」

ここはどこだろうと縢はきょろきょろと辺りを見回す。

「俺何してたっけ。いつの間にこんな所っつーかここ、どこ」

直前の記憶を辿ってみるが果たして何も掴めない。
目に映るのは滾々と湧き出る噴水とその周囲で談笑する人々。

「なんか俺だけ一人ぼっちって感じ?」

ここにいる理由もわからず立ち尽くす縢にはその平和な景色がなんとなくぼやけて見えた。その所為か自分だけが世界から取り残されたように感じる。

「縢」

すると縢の耳に唯一知っている声が入ってきた。振り向いた先には思った通りの人物。
縢の目に映る景色が途端にクリアになった。

「コウちゃん!」

見知った黒いスーツを着た狡噛が立っている。そういえば自分もいつもの仕事着であり、そんなところもここでは浮いて見えた。

「コウちゃんは何してんの?」
「何って・・おい、お前がここで待ち合わせたいっつったんだろ」
「俺が?」

少し呆れた風な狡噛の言葉に改めて周りを見るがやはり覚えのない場所。しかもここは明らかに公安局外だ。そんな場所に自分と狡噛が二人でいると言うことは。

「(なぁんだ・・・夢か)」

それならわからないことばかりな状況にも納得がいく。狡噛だけが出てきてくれたことも。

「今日はお前の好きなところに付き合うって約束だからな」
「デートだ」
「・・まぁそうだな」

しかし自分はこんな夢を見るほど幸せな人生なるものに憧れを持っていたのだろうかと、縢はふと疑問に思う。夢は願望の表れというけれどそれでは自分も相当に単純だったということか。

「この世界では俺たちも幸せになれるんだ」
「この世界?突然大袈裟だな。この世界も何も、俺たちがどう生きようとそれは俺たちが決めることだ」

その通りだと思う。どこが楽園かは誰かが決めるものではない。

「コウちゃん、俺は――」

*

「縢」

パチリと音がするように縢は目を開いた。目の前には狡噛の少し呆れた風な顔。

「コウちゃん?」
「やっと起きたか。勝手に来たのは俺だが、寝てる奴の相手はいい加減飽きた」

身を起こしてみれば、そこは見知った部屋。居るのは縢と狡噛の二人だけ。

「俺まだ夢の続き見てんのかなぁ」
「何寝ぼけたこと抜かしてんだ。誕生日迎えて大人になるんじゃなくてバカになったか?」
「ちょ、コウちゃんひでーよ!…って、誕生日?」

腕のデバイスには『12月3日』の文字。

「何をあげたらいいかわからなくて、それなら時間くらいと思ってな。今日はスパーでもゲームでも付き合ってやるよ」
「マジ!?さっすがコウちゃん!」

飛び上がるように喜ぶ縢に狡噛も自然と笑みがもれ、縢の頭を軽く撫でる。

「で、何がいいんだ。ゲームか?」
「んー、それもいいんだけど、ちょっとだけ俺の話聞いてくんない?」
「話?」

ソファの空いたところをポンポンと叩き狡噛にそこへ座るよう促す。

「俺はねコウちゃん。別に世の中に必要とされようがされまいがこれっぽっちも気になんない。それでも世の中から俺がいなくなったら寂しいとか悲しいとか思ってくれる人が一人、たったの一人だけでもいいからいてほしいくらいには思ってんの」
「縢?」
「まぁ聞いといてよ。で、自分が死ぬときは殺風景な施設で殺処分じゃなくて、んーと…うん、何かのためにちょっと無茶して格好良く散りたい、かな。その何かが人だったらその人が唯一悲しんでくれる人かも」
「…死ぬ予定でも立ってるみたいじゃないか」
「誰だっていつだって立ってるっしょ?」
「否定はしないが。誕生日にする話か」
「それもそーなんだけどさ。なんかコウちゃんには言っときたくて」

狡噛は少しだけ困ったように眉を寄せると、その視線を縢の顔から床に移した。

「…もしお前が死んだら、俺は悲しむより怒るかもな」
「あはは、コウちゃんはそうかもね」
「だからお前には生きていてほしい」
「…うん、ありがと。怒りでもいいよ。要は俺のことで誰かの気持ちに動きがあってくれたらなってことだし。あれ俺ワガママ?」
「そうでもないだろ。俺達は不自由な潜在犯だ、そのくらいのこと言っとけよ」
「だよね。よっしゃ、なんか楽しくなってきた俺。コウちゃん、今夜はまだまた付き合ってよ!」

*

「(なんで今思い出すかな俺)」

公安局局長だと思っていた何かにドミネーターを向けられながら胸の内で独りごちる。
狡噛たちと別れて今彼らにそれと知られずに消えようとしている。にもかかわらず自分がひどく落ち着いているのがわかった。

「(あぁ、そっか)」

俺の理想、叶ってんじゃん。
元より楽園だとは思えなかった世の中の正体はやはり楽園ではなく、そこから外された自分は今とても満ち足りた気分なのが少し可笑しい。

「(コウちゃんはやっぱり怒るかな。それとも泣いてくれちゃったりして)」

それはそれで嬉しいけど泣かせるのはちょっと辛いかも。

「いつか向こうで会えたら聞いてみないとね」

楽しみだなぁと呟く身体が光に包まれていった。



初:ぴくしぶ掲載2013.12.8
かがりくんのお誕生日直後に書いたもの。
お祝いぽくはないのが申し訳ないですが。かがりくん好きだなぁ・・・














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