はるがすみ
[二]倉庫

かつての一時(PP/和狡)


「狡噛さん、お誕生日おめでとうございます!」
「・・・」
「あれ?反応悪いですね。狡噛さーん?」

他係とのミーティングを終えて自身が所属する3係の執務室へと戻った狡噛を迎えたのは、本物の火薬を少し使った今時珍しい紙製のクラッカーを持った天利だった。

今日は8月16日、狡噛慎也の誕生日。

「あぁ、いや、すまない。ちょっと驚いただけだ。誕生日なんてよく知っていたな?」
「それはもちろん、誕生日は一番最初にチェックする項目のひとつでしょ?初めて会った人の」
「狡噛監視官、執行官の権限を越えた情報取得の疑いですよ」
「何を言ってるんですかもー!狡噛さん、私そんなことしてませんからね。きちんと正規の方法を踏んで教えてもらったんですから」

狡噛に力説する天利の横から昏田が口を出した。その後ろでは花表が普段と変わらない冷静な目で、征陸が苦笑いを浮かべた顔で二人のやりとりを見ている。

「ここは、誰かの誕生日は必ずこうやって祝うのか?」
「こんなサプライズみたいにするのは最初だけかな」
「それに、3係だけです。さすがに刑事課全員を祝うのは無理ですから」
「こういうことがチームワークを良くするんです!でも昏田さんなんかは『生まれた日を祝われても嬉しくない』って素直じゃないこと言いうんですよ」
「誕生日プレゼントに色相改善サプリ貰ってどう喜べばいいんですかー」
「はいはい、昏田さんは少し黙っててくださーい。さ、狡噛さんこっちへどうぞ。軽くですけど飲み物も食べ物も用意してあります!」
「天利、その、気持ちはありがたいが・・・勤務時間中だ。何かあったら」
「狡噛さん、時計見えてます?あと1分で3係全体非番に入りますよ」
「しかし、」
「コウ、もし監視官の雑務を気にしてるんならその心配は無用だ。今ごろ和久が残った分もさっさと片付けてるだろうさ」
「和久さんが?」
「えぇ。その和久さんからは『もし狡噛君が渋ったら上司命令だと言ってください』と言付かっています」
「そう、なのか」
「こりゃ、もう降参だなぁ?コウ」

征陸に念を押された狡噛にもう断る理由はなかった。

「すまない・・・いや、ありがとう」
「ふふ。ではでは、狡噛さんの心配事もなくなったところで、さっそく始めましょうか!」

天利の一声で再び刑事課3係オフィスにクラッカーの音が響き渡った。
各々が好きな飲み物片手に食事をつまむ。食事の仕方一つとってもその人となりが出るな、などと狡噛が考えていると、皆がそれぞれの机から何かを取り出し始める。
誕生日といえば忘れてならない、プレゼントだ。

「はい、狡噛さん。私からは色相クリアパスタです。新しくペンネタイプが出たんですよ!ソース3種類とセットにしましたから、その日の気分で味を変えてくださいね」
「私からはこれを。私のデビュー作で、評価はあまり高くありませんでしたが今となっては入手困難、いえ、入手不可と言える貴重品です。感想お待ちしてます」
「次は俺でいいかい。ほれ、コウ、俺からはネクタイ・・・のカタログだ。最近の若いもんの趣味はわからんからな、自分で選べるほうがいいだろ。なぁに、当然金は払ってあるからお前さんは注文だけすればいいのさ」

これまた各々らしいプレゼントが狡噛の前に重ねられていく。そして最後の一人である昏田は軽くもったいをつけるように自分の背中に隠していたビンを取り出した。

「はいこれ。俺、昏田尚人オススメ高級ジュースでーす」
「ジュース?」
「そ、飲めばあなたの色相も綺麗なクリアカラーに・・って、いってぇ!」
「昏田さんまた嘘ばっかり。それお酒でしょ?」
「酒?」

天利に耳を引っ張られた勢いで落としそうになったビンを慌てて持ち直す昏田。狡噛はその中に入った少し色味のついた液体をじっと見る

「ま、そうですね。酒っつってもメディカルトリップとの更に間の子みたいなもんです。アルコール成分はあってないようなもんですよ」
「微量とはいえ、アルコールはサイコパスに悪影響を及ぼすと聞くが」
「ちょっとなら問題ないですって。昔は薬としても飲まれてたくらいですから、むしろ身体ににいいかも」
「確かに間違っちゃあいないが、監視官に無理強いはよくないんじゃないか、ナオ」
「そうは言ってもマサさんだって狡噛さんと呑みたいでしょう?」
「そりゃ否定はせんな」
「・・・そんなにいいのか、酒ってやつは」
「ん?まぁな。特に気の合う仲間と酌み交わす酒のウマさときたら」

何かを思い出すようにしみじみと話す征陸の様子を受けて狡噛はじっと考え込む。それから意を決したように昏田に自分のグラスを差し出した。

「・・・昏田、少しだけ注いでくれるか」
「お、さすが狡噛さん。そういうことなら改めて、狡噛監視官の生まれた日と酒デビューに乾杯!」

狡噛のグラスが勢いよく満たされていった。

*

「・・・すみません、和久さん。俺の判断ミスです。アルコールがあんなに効くものとは思っていませんでした」
「アルコールがよく効くというより、狡噛君がお酒に弱かった、と言うほうが正しいかもしれませんね。昏田君が用意したあれに入っているアルコール分はほんの1〜2%だったはずです」
「・・・すみません」

和久がハンドルを取る車内。助手席に座る狡噛が自分の不甲斐なさを嘆く。
昏田に勧められるままに酒に手を付けた狡噛はグラス一杯を消費するより早く酔いが回って倒れ込んでしまったのだった。
3係の面々が狡噛の酔い冷ましに慌てる中、遅れてやってきた和久は解散を告げると狡噛の気分が落ち着くのを待ってからこうして家へと送り届けているのである。

「謝るようなことではありませんよ。その程度だからと征陸さんも止めなかったのでしょう。しかし君が酔って倒れたと聞いた時は驚きました。私のいない所でお酒とは存外君も悪い子、ですね」
「・・・和久さん、」
「ふふ。けれど今日はおめでたい日ですからね。そのくらいは大目に見ましょう。こうして君を連れて帰る口実もできたわけですしね。さて、それでは僕からのプレゼントも受け取ってもらえますか?」
「和久さんも、用意してくれていたのですか」
「もちろんです。征陸さんがネクタイを送ると聞いていたので僕からは、これを」

運転をオートに切り替えた和久は後部座席に載せてあった大きめの箱に手を伸ばし、その蓋を開く。

「これは、スーツ、ですよね。こんなに高そうなもの・・・」
「君をこと考えて、君に似合うものをと選びました。着ていただけますか?」

眼鏡越しに優しく、それでいて望む答えは一つだというように微笑む和久。狡噛とて和久の好意を無下にするつもりは一切なかった。

「はい」
「そう、良い返事です。・・・・・・あぁ、そうでした。良い返事ついでにもう一つ、君に言いたいことがあります」

今しがたの微笑みを引いて真剣な顔をする和久に、狡噛も思わず身を引き締める。

「もう僕のいない所で初めてのことはしないでくれませんか」
「初めて、ですか?」
「えぇ。あなたに色々な初めてを教えるのは、例えそれが職務上のことでもそうでないことでも、僕でありたいのです。どうか約束してくれませんか?慎也君」

眼鏡の奥の和久が、もう一度柔らかく微笑んだ。



初:ぴくしぶ掲載2014.8.16
狡噛さんのおたおめに旧三係と和久狡で。
和久狡めちゃくちゃ萌えるんですが、あまり見かけないですよね。寂しい。
あと申し訳ないのですがいまだにドラマCDのキャスティングは・・・あの・・・














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