月に祈る子ども
まだ肌寒い冬、今日も起床
喇叭が朝を告げる。
幾ら窓が閉じていても薄手の服装では冷たい空気が肌を撫で、「寒い」と両腕を擦り身震いした。
この孤児院に来て記憶通りで在れば約8年もの月日が経った。誰よりも早く起きて、まだ眠いと愚図る私より幾分か小さな子達を起こすのは手馴れたものだ。
生まれて此の方、私の知っている場所は此の孤児院だけで、他の孤児院が如何いったものかは分からないが此処では"点数"が付けられる。
規則正しく大人の云う事を善く聞く良い子には点数が与えられ、規則違反をしたり嘘を吐いたら点数は減点される。減点されれば罰を与えられ、殴る蹴るなどの体罰を中心に酷い時には暖炉で熱された火かき棒を躰中に押し付けられた。
一度抵抗すればもっと酷い仕打ちが待っている為、抵抗する子どもは少ない。
そんな中でも私は点数が高い方だと自負している。時には理不尽な事で点数が引かれ新しく痣や擦り傷を作り、時には嫌な指示をされるがそこはグッと我慢して「はい」と二つ返事。点数も稼げるし、云う事を聞けば痛い罰は無いのだから。
けれど、あの子は違った。
あの子だけは私を含め他の子たちより扱いが酷かった。盗んでもいない飴玉を倉庫から持ち出したと誰かに嘘を吐かれ、孤児院の先生に乱暴に腕を引かれ何処かの部屋に連れていかれた。そして嘘を吐いたら子には加点される。私は慌てて「彼はやっていない」と先生に必死で訴えたが皆に聞こえないと知らん顔をされ、挙句の果てには点数まで引かれる。私はまた不甲斐ない自分を責め立て、彼の悲痛な絶叫が響く扉の前で顔を覆うのだ。
彼の
悲鳴は聞こえても、
私の
言葉は聞こえないのだ。
彼は新たに生傷を作り痛くて泣いていたであろう目元は赤く腫れ、心身ともにボロボロになって帰ってきた傷だらけの手を取り「如何してやって無いって云わなかったの?」私はその子に云った。
「僕がやってないって云っても信じてもらえない。でも大丈夫だよ」私を心配させまいとヘタクソな笑顔を作って彼はへらりと笑う。
自然と彼の手を握る手に少し力がこもる。どれだけ"大丈夫"と口で簡単に言葉を紡いでも、継ぎ接ぎだらけで触ったら忽ち崩れ落ちる程酷く脆く出来てしまった彼の心は癒えることを知らない。
何も出来ない私は何時も黙って彼を抱き寄せた。傷口を刺激しないようにそっと優しく。何も言わずただ抱きしめる私に初め彼は戸惑ったが、今となっては互いの傷を舐め合うように抱きしめ合うことが日常となった。だから、彼も私を抱きしめ返すのだ。
そんな彼の名前は中島敦。私の大切な、友達。
私達二人はお互いに親に捨てられた身で物心ついた時からいつも一緒だ。片方が泣いてしまったらもう片方が慰める。よく泣き虫で引っ込み思案な敦を慰めるのは私の仕事となりつつあるけど。ある時だって背の高い本棚が並ぶ書庫で二人で隠れるように絵本を読むのが何より楽しかった。
友達でありながら、私達はまるで兄妹のようだ。
▽ ▽ ▽
バケツの中の冷たい水は
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