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あの日の彼らはまばゆいくらいに輝き、人々を熱狂の渦に巻き込み、華々しくST☆RISHは誕生した。
いつしかそれは、伝説のデビューライブと呼ばれるようになり、彼らは夢に向かって歩き始めた。
__親愛なるおばあちゃん、この春で無事芸能専門学校である早乙女学園を卒業し
アイドルデビューした彼らと共に……
わたしもシャイニング事務所所属の作曲家となったのです。
「おはようございます。七海春歌です!」
春歌は事務所を訪れたものの、マネージャーであろうか……ある人は電話を取り、ある人は何やら作業をしていた。
春歌の挨拶で事務の人がこちらを振り向いて不思議そうに春歌を見つめていた。
「あ、あの……マスターコースの…」
不思議そうな顔で大人たちが見つめるなか、春歌はしどもろになり必死に説明した。
「ああ、マスターコースに進んだ子ね。悪いけど、この地図見て行ってもらえるかな?」
「は、はい!」
理解してくれた人がいて春歌は安心した。
事務の人に地図を貰い事務所をあとにしようとしたとき、ふと女性同士の俗に言う“ヒソヒソ話”が聞こえた。
[マスターコースってことは、あれね]
[しかも、女の子ってことはまた“御嬢”ね……可哀想に]
(御嬢……?)
そんなことを考えている暇は春歌にはなかった。
急いで、事務所をあとにし地図が示す場所へ向かう。
しかし、事務所の中庭にそびえたつ木に褐色肌の異国の衣装を見に纏っていた青年が
春歌を愛しそうに見つめていたことに春歌はまだ気付かない。
___所変わり、社長室では一人の少女が社長机の前で佇んでいた。フードを被っているが故、その表情を伺うことは叶わないものの不機嫌であるのは明らかである。
名を早乙女世羅。
ここ日本のみならず世界にもその名を轟かせた伝説のアイドル、シャイニング早乙女と苗字は同名であるのと同じ様に彼女は戸籍上彼の娘に当たる。
しかし、事実彼が妻子を持ったというスキャンダルはない。
つまり義娘、養女に当たる。
「…何の用だ?」
「もう、せーちゃん、冷たーい!もっとスマーイル!」
「…ったく、御嬢お前女だろ?もっとお淑やかにならねぇのかよ」
社長室の扉を開け見上げれば一目瞭然。見る者全てこれを見上げるであろう額縁。書道で〈愛故に〉と綴られている。
そんな不機嫌な彼女を宥めるかのように寄り添う二人は保護者と見間違えるかの様だ。
橙髪の長身のスーツ姿の男の名は日向龍也。
あのヒット作「ケンカの王子さま」の主演を務めた人気俳優。
そして、この奇抜な桃髪をした女性は月宮林檎。
こちらも人気の女優として活躍する女装アイドル。つまり、性別上男性である。
「よーーく来てくれましたネ!Ms.世羅!!!
そこに、座ってチョウダーイ!」
勢いのある独特な口調で派手な上にハイテンションという最早この時点で凡人には理解出来ないが、一応社長だったりする。
世の中にはどんな事があるか分からないという様に世の中にはどんな属性を持つ人間が居るか分からないのだと改めて思い知らされる。
「相も変わらず元気だな。…結構だ」
しかし彼女は如何やら見慣れている様で特に気にせず着席する事を拒否する。
すると、
「せーちゃーん!おっはよー!お兄さん朝から会えて嬉しー……」
「レイジ、煩いよ」
扉から何とも言えぬ美男子たちが訪れてきた。
''QUARTET NIGHT''。
今活躍中の若手人気アイドルだ。
彼らも彼女と等しく社長とは言い難いこの男に呼び出されたのであろう。と容易に想像できた。
「お前たちもか…」
最早当然とばかりに次々と起こる出来事に驚く隙もない。
一番にハイテンションで乗り込んできたのは
メンバーで唯一年長者・寿嶺二。
そんな彼に続いてきたのはまた、メンバー唯一謎に包まれている所謂ミステリアスアイドル・美風藍。
「ったく、いきなり呼び出しやがって」
「早乙女の命令ならば仕方あるまい」
続いて、ロックが得意の左右の眼の色が違うオッドアイの黒崎蘭丸。
そして、このシャイニング事務所唯一の外国人アイドル・カミュ。
何でも、シルクパレスの伯爵にして祖国の女王陛下の話し相手らしい。
異国の者がアイドルという職業に属しているのは普通だろう。しかし、伯爵という地位を持ちながらアイドルを掛け持ちとは世の反応というのも気になるのが事実。
「……ねぇー!せーちゃん、ちょっと何で無視すんの!?もっとお兄さんを構ってよー!」
「だから、レイジ煩いよ」
「アイアイひどーイ!!」
嶺二が世羅に詰め寄ると藍が持ち面に不釣りあいな言葉を投げる。
これは彼の人気の一つなのか否かは不明だが、人相的に許されるのであろう。
「ハッハッハッ━━!!よーく来てくれましタ!クァルテットナイトォーの諸君」
「おい、僕の質問には無視か」
シャイニーの歓迎の言葉とは裏腹に世羅自身は呼び出された事にはもう不満は無く、寧ろ何故呼ばれたのかが知りたいらしい。
「……まあまあ、細かいことは気にしなくてナッシング!!
まずは、こちらを見てチョ!」
社長机に名簿が置かれた。
その名簿には見覚えのある面々の顔写真と共に彼らの人物評が書かれていた。
その名簿を神妙な面持ちで覗き込む一同。
「?これ…先日デビューしたユニットじゃないか」
「そうだよ。セラ、もともとシャイニーから話されてあったでしょ」
それは初耳だ。
まさか自分以外全員承知の上で来たということか。
当然という納得の意に反面、知っていたら来ないと分かっていて呼び出したという事実を突きつけられて呆れの意が込められた溜息を吐く世羅。
「……何なのコレ?才能の欠片もない顔しているんだけど」
藍が両手に名簿を眺め毒づく。
「っち、ふざけんな何で俺が面倒見なきゃならねぇんだ」
蘭丸が眉間に皺を寄せ吐き捨て、
「早乙女の命令ならば仕方あるまい。早々に潰せば良いことだ」
カミュも似たようなことを言っていた。
全員、見た目で判断し過ぎではないかと内心思うが世羅と彼らでは専門が違うが故、その判断も異なるのだろう。
「まあ、その彼らはお前達に任せる。僕は専門外だからな」
「せーちゃん、早速諦めモードに入ってるよ…」
嶺二が泣きそうな顔をしている。
しかし、事実この紙面上とライブでしか見た事ない彼らだが、アイドルを目指して早乙女学園に入学したと聞く。では、編曲家である自分は明らかにお払い箱である。
「じゃあ…何で僕は呼ばれたんだ?」
と、心中で呟いた筈が如何やら漏れてしまった様で周りにも聞こえてしまった。
それを聞きつけた林檎は何やら厭らしい笑みを浮かべこちらに近づいてくる。
「ふっふふふ♪気になるかしら?せー・ちゃ・ん?」
「その名で呼ぶな。…まあ別にそんな気になる事でもないが」
改めて聞かれると何とも言えない羞恥に駆り立てられる。
まるで芸能界新参者の彼らに興味があるみたいだからか。
何と無くだが、昔からこの男の前では素直になってはいけないと本能が言っている。
「えー、そこまでせーちゃんが気になるって言うならどうしようかしら〜?」
「…お前」
隣で龍也が視線で林檎に投げ掛けた。
「あまり、からかうなよ」
「僕はこの時間を大層無駄だと踏んでいる。早く教えてくれないのであれば即刻退室させてもらうが?」
「…っ、分かった、分かったから!もぅ、少しぐらい冗談に付き合ってくれてもいいじゃない」
「悪いな。そういう相手が欲しいのなら他を当たってくれるか」
そう冷たくあしらえば林檎は大きく溜息を吐き、件の話をする前に少し重たそうに両手でファイルを持ちこれも同様に社長机に置いた。
一つ目と比べると厚みは減ったがそれでも収納されている資料の量はこちらも負けを取らないぐらいだ。
世羅はそのファイルに訝しいげな感じで視線を落とし、暫く見つめた後、再び視線を目の前でサングラスを光らせ尚且つ不敵な笑みを作っている''義父"に戻した。
「一応聞くが…これは何かな」
「せーちゃんが担当する女の子♪」
嗚呼…自分は今自分の義父でもある社長に質問したつもりだったのだが横槍で直球な言葉が返って来た。
その元凶である林檎に横目で睨み視線を戻す。
「…聞いていないんだが」
「ミーが
先刻さっき考えマシタ!ほんとぅは林檎サンが担当する予定でシタ…バットゥ!それではユーのコミュニケーション力がアップしないのネェ!」
先刻考えたって…
これほど自由な人間は居ないだろう。
重要な事を先刻思い付いて易々とプランを変更してしまう辺り破天荒にも程がある。
「僕にそんなものは必要無い。そんな理由だけで僕に押し付けるなど都合が良すぎる。林檎、担当を変われ。もうこんな計画うんざりだ」
明らかな怒りを隠そうともせずに資料を林檎に押し付け踵を返そうとするが、一歩踏み出したところで前に進まない。
世羅はその原因が分かっているのか深く溜息を吐いて振り返る。
「離してよ、林檎」
「せーちゃん、黙っててごめんなさい。でもそうしなきゃ前に踏み出そうしないでしょ?」
林檎の言っていることが世羅には理解出来なかった。
前に踏み出す?何のことだ。
実際この話集合がかけられた時に事前に何を話されるか知っていたら世羅は今部屋に閉じこもっていただろう。
「…何の話をしているのか分からないのだが」
そう思ったことを口に出せば林檎は慌てた様子で謝罪を口にし、引き止める様に掴んでいた腕を離した。
本当に何だったのだろう。
まるで今の林檎は、女装アイドルの月宮林檎ではなく、男としての月宮林檎を見ている様だった。
しかし、そんな面影をまるで自ら消去するかのようにいつも通りに戻り無理矢理にでも資料を世羅に押し付けた。
「でも、少しぐらいは資料を読みなさい!折角あたしたちが一生懸命作成したんだから!顔写真だってとびきり可愛いのを選択したのよ?」
そこは関係ないだろうと内心突っ込みたくなったが林檎の般若の様な顔にとうとう負け、適当な相槌を打ってそのファイルを開いた。
後ろで嶺二が覗き込んでいるのは気にせずにこの紙面上の彼女の情報をひたすら目に通した。
「七海…春歌?」
「そう。この子が七海春歌ちゃん。ST☆RISHの作曲家よ。で、これからアナタが面倒を見る女の子」
林檎の説明に耳を傾けつつ、その誕生日や出身地に経歴に出身校などありとあらゆる個人情報が詰め込まれていた。
そして、当本人の顔写真に目を向けた。
確かに愛らしい笑顔を咲かせ周囲の彼ら、つまりST☆RISHを魅了している。
「…彼女が、ライブの…マジLOVE1000%を作ったということか?」
「そうよ」
深く頷く林檎。
どうやらその反応を見る限り林檎も彼女に太鼓判を押している様だ。
その返答にふーんと素っ気なく返す。
すると、後ろで控えていた嶺二が世羅に寄ってきた。
「ねえねえ!せーちゃんその資料お兄さんにも見ーせーて!」
「ん?ああ、良いよ」
そう言うなりその重みのあるファイルを両手を出しておねだりする嶺二の掌に乗せた。
対する嶺二は当然重量のあるそのファイルを掌だけで支えることなど物理学上不可能な為、世羅の予測通りよろけた。
「うわわ!もーぅせーちゃん危ないじゃーん!ていうかもう見ないの?」
「ああ、もう見る必要は無くなったから」
世羅の返答に不思議そうに小首を傾げる嶺二。
その意味にいち早く気づいた林檎は、焦った様に、怒った様に世羅の名を呼ぶ。
「せーちゃん!」
「資料は見たよ、林檎。…もう用は済んだか」
先程よりも数倍声色が暗くなったのを聞き林檎は思わず黙る。
その沈黙を破るかの様に世羅は踵を返し今度は本当に部屋を出た。
重い沈黙の中、世羅の足音だけが引き摺る鉛が発する音の様に嫌に響いた。
「…良いのか」
今迄口を出さなかった龍也が林檎に問いた。
林檎はその問いに答えるわけでもなく只俯かせていた顔を上げた。
その顔は最早アイドルの顔もプライベートの顔もあったもんじゃない。般若を軽く凌駕しついに阿修羅まで辿り着いていた。
「……良いわけないでしょ。絶対に認めさせてやるんだから!せーちゃんのバーカ!!」
「ムッフフフフ。大きな計画程トラブルは付きもーのぉ…これから面白くなってきまシタネー!」
そんな感じで大人達が騒ぎ立てているのを他所に世羅と同じく呼び出され挙句に放置された四人組は。
「せーちゃん怒ってたなー」
「ったく、こんな結果になるって誰かしら分かってたろ」
「奴め…絶対権力を持つ早乙女の命令を背くか」
「仕方ないでしょ、セラなんだから」
今この部屋に無き世羅への気持ちを思い思いに語る彼ら。
「まぁまぁでも、もっと前向きにいこーよ、ぼくは楽しみだよ!」
だって、''新たな才能に巡り合えるかもしれないじゃない?