Among the hate also like also hate
___それは唐突に起きた。
「嫌いです。怜治さんなんて大嫌い」
目の前に佇む少女は口を開いた。
しかし、その内容は嫌悪感に塗れており且つ、その瞳に薄っすら涙を溜めて明らかな自分へ嫌いということが見て取れる。
その瞳は青年を凝然と見つめているが、その手はぎゅっと彼女が通学している高校の制服のスカートを握り締めており、若干皺が寄りつつある。
正直、青年にとってはそんなことはどうでもいい事だ。
気になるのは彼女が言った自分に対する嫌悪の言葉。
''好き''と伝えているのかと必死に脳に訴えかけるも、日本語とは伝わり難い言の葉が数多くあるも流石に反対を意味する言葉を態々口には出すまい。
男、諏訪怜治は酷く困惑していた。
自分は彼女に何をした?
会えない日が続いているからか?
だから彼女は自分に向かって嫌いと言っているのか?
会えない日が続くというのは彼がもう一つの顔を持っているからであってそれは彼女もまた了承している…のだと思っていたが。
暫くの沈黙の間、破ったのは怜治だった。
「えっと…深雪?」
「はい」
「今の言葉は本当?」
「…はい」
ここまで素直に返されると逆にこちらが傷つく。
呆然と床を見つめていると''でっでは私はこれで''という彼女の焦った声が遠くのように聞こえた気がした。
それほど自分と居たくないのかと休日の西星学園のとある一室にて一人思う。
お話がありますと、珍しく彼女からメールを寄越したと思ったら思い掛け無いバッドエンディングを迎えることになってしまった。
「あ、怜治さんそろそろ練習…に」
恐らく怜治を呼びに来たであろう金髪と黒髪のコントラストの持ち主。
普段は彼の兄上の仕事だが生憎手が離せなかったのだろう。
しかし、只部長を呼びに行く…という任務だけでは済まされそうにもない。
明らかに負のオーラが彼の肉体から細胞の隅々まで覆い尽くす勢いだ。
遊馬は何かを察したのかジャージのポケットから俗に言うスマホを取り出しとある人物に掛けた。
そして暫くの呼び出しコールの間出たのは例の彼の兄だった。
「あ。兄貴?ちょっと来てくんね?怜治さんマジで死にそうなんだけど」
▽一方で方南学園
「と、いうわけで。深雪ちゃんどうだった?部長の顔は」
「ええ。正しく死の前兆を表すかの様な表情でしたね。本当にこれっきりにして頂きたいです穂積君」
クラブハウス棟の更に奥部に位置するストライド部の部室。
人気が見えないそよ棟でもそこだけは何やら盛り上がっていた。
先程怜治に余命宣告に匹敵する言葉の大打撃を喰らわせた張本人、藤原深雪は先刻神奈川から東京に戻ってきたのだ。
そして、事の発端を巻き起こした張本人の小日向穂積は深雪の指摘にも屈しず寧ろ楽しそうな笑みを浮かべている
「僕だけじゃないよ〜深雪ちゃん。歩君もたけるんもりっくんもヒース君も共犯だよ」
「だから一々名乗り上げるのも面倒だから責任者の貴方に言っているんですよ!」
「え〜」
「え〜じゃない!もう、見てて可哀想になりました。言った瞬間の怜治さんの顔を見たら…」
「お前が言ったのにな」
追い打ちをかけるかの様にヒースが深雪の肩に手を置きからかう。
そんなヒースに煩い!と一喝する深雪。
ここはいつも通りの様だ。
「それにしても、冗談にせよ傷ついたろうな諏訪の奴。何せあちら側としては愛して止まない婚約者様に振られた、しかも一方的に」
「諄いです。ウザいです。煩わしいです」
「おお!藤原殿の華麗なる罵倒三拍子!」
「さすが深雪ちゃん!恐ろしいね!」
「ああ…これで姉さんに穏やかな生活が戻ってくる」
歩と穂積はいつも通りに深雪をからかうも今回は愛弟まで乗っかってきたことに深雪は驚いた。
否、尊に至っては冗談が通じる様な人柄でもないし、絶対に彼は本気で言っている。
「尊は冗談…には見えないですね。皆さん言いたい放題で全く」
そう言葉の続きを述べようと思ったが、突如部室のスライド式のドアが乱暴に開かれた。
そして、そのドアから現れた人物に事前に部室内にいた者たちの視線がそこに一気に注がれた。
「ちわーす。深雪さんいらっしゃいます?」
「遊馬!?ってか何でここに?」
「ヤッホヤッホー☆呼ばれてないけどジャジャジャーンバンちゃん登場♪」
そう言って現れたのは本来ならば神奈川にいるであろう西星学園の遊馬に万太郎。
そして、彼らのお目当は深雪の様だ。
思い当たる節があるとしか言えないこの状況と彼らの様子に深雪は完全に逃げ場を失い且つ顔を最大限に引き攣らせた。
「バンちゃんどうしたの?っていうか深雪ちゃんに用って?」
「にゃはは〜。それがね、ちょ〜っとばかしこちらの都合でみゆみゆを引き取らせてもらわないといけないんだにゃ」
そう言って万太郎の視線は目の前の尊__を飛び越えて深雪へ。
それを察した歩は眼鏡を光らせ深雪にこう言い放った。
「おお!何か事件の予感!藤原氏、ここは彼らに従い同行した方が」
「冗談でもそう思うのでしたら貴方達全員共犯として吊るし上げて道連れにしてあげますよ」
まるで歩がそう言うのを予知していたかの様に間髪入れず寧ろ歩の言動を遮った。
それを聞いた穂積は涙ぐみながらも歩のジャージの裾を引っ張りせがむ。
「歩君、止めよう!今の深雪ちゃんには明らかに僕らへの悪意が見られる!このまま深雪ちゃんが同行しちゃえば本当に僕たちの名が吊るし上げられるよ!」
「あーあー、深雪さん。無駄な抵抗はやめなさーい」
「とうとう貴方も乗りましたか遊馬君!それに抵抗も何もしてませんし!」
「無駄な足掻きは止めなさい。こちらには諏訪怜治という直接的な証言者がいる上に、その彼は今ね、重大な病気に冒されているんですよー」
「完璧な無視だな」
深雪はこの王道サスペンスドラマの様な茶番に痺れを切らし始めた。
しかし、ふと刑事もとい遊馬から発せられた言葉に気に掛けた。
「あの、…その病気とは」
「お前も乗るんかい」
神妙な面持ちでそう問うとビシと効果音がつく様な鬼部長のチョップが頭に直撃する。
しかしそれよりも今は大嫌いという冗談で振ってしまった彼の身の安全の方が大切だった。
「 その病気は、藤原深雪欠乏症です」
「くだらん、帰るぞ姉さん」
その冗談としか思えない架空の症状に今度は尊が阿呆らしいと判断したのか、通学バッグを片手に深雪の腕を引っ張りその場を去ろうとする尊に
万太郎が立ち塞がる。
「…どいてください」
「いやいやそれは出来ないんだにゃ…真面目にレイちゃん今は寂しそーにみゆみゆの事を思ってるんだよ?」
「それはそっちの都合でしょう。そっちの都合で姉さんを巻き込むな」
「言葉を返すが、寧ろそっちの都合に巻き込まれたんだぞ?怜治さんは」
遊馬が尊に言い返した。
その言葉に確実に数名は硬直したであろう。
何といったって事実だからだ。
「嘘だろ?深雪さんが怜治さんを嫌いになったなんて」
せせら笑いながら発せられた遊馬の的を得ている発言に尊は言葉を返そうにもどう返そうか柄にもなく困惑する。
一回姉の深雪の方を見るも当の彼女も苦笑いを浮かべるだけだった。
「(ふ、藤原ぁ!なっ、何としてでも喋るな!)」
「(いやいや歩君、もう手遅れだよ)」
「深雪さん、本当の事を言ってください」
神妙な面持ちで問いかける遊馬に逃げ場が無いのだと悟る。
歩と穂積を見ても彼らは自分の身を犠牲するくらいなら他人を差し出す(この場については)ので求めたって無駄。
陸とヒースは関わりたくがない故に遠くのソファで黙ってこの状況を見守るという寧ろ不要な配役。
「私は…その…じょ、冗談で言ったつもりだったのでまさか、こんな大事になるとは知らず…」
そう告白すれば緊迫とした空気が過ぎ去っていった。
「やっぱり…深雪さんがウチ(西星学園)に来る時から可笑しいと思ったんだよなー。深雪さん自ら来るなんてあり得ないから」
「にゃははは♪でも嘘で良かったね〜。これでバンちゃんも一安心だにゃ」
「本当にご迷惑をお掛けしました」
「いやいや。多分あの人もこれを聞いてきっと安心しただろうね」
「…え?」
遊馬が言った言葉の真意が分からず困惑していると、突然扉から現れたのは制服姿の怜治。
その唐突すぎる登場に深雪も他の部員たちも動けずに硬直した。
しかし、怜治はそんなことも構わず深雪の前に近づいてきてはその高身長な身体を使い彼女を包み込んだ。
深雪の頭を撫でながら「深雪…」と切なげに呼ぶのを聞くと、本当にショックを受けさせたのだと思い知る。
「怜治さん…」
「良かった。本当に君に嫌われたのかと思ったよ…」
大袈裟な…と声が漏れそうになるが、今はそんな気持ちは引っ込める。
彼女の体温を確かめることで深雪が自分の腕の中にいるということを感じたかったのだろう。
そんな微笑ましい彼らの様子を見ていた一部ではそんなムードをぶち壊す勢いの発言をする者も。
「…こんなことになるなら押し切ってでも帰るべきだった」
「まあまあたけるん。今回は僕たちにも反省する点があるから大目に見てあげてよ、ね」
「お前は藤原の母ちゃんか」
嫌いも嫌いも好きの内
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