○ ○ ○


田中の姉ちゃんの友人は、とても意外だった。何と言うか、意外な組み合わせだと思った。
牧野美緒という女の人は、そんなにヤンチャな印象を受ける見た目では無かったからだ。田中の姉ちゃんならさ、友達全員金髪だと思ってたのに。

教室の後ろの扉を開ければガラガラという音と共にみんなの視線がこちらへ集まった。
窓際の前から4番目、大地の後ろの席へ座る頃には視線はもう感じなくなっている。

「何お前、前の授業の宿題出しに行くとか言って弁当取り行ってたの?」
「ちがうちがう!これ田中の」
「どうりで見たことある訳だ…。でもなんでお前が?」
「さっき職員室行くときさ…」

「そこ、うるさいよ!」

怒られたことで話を中断して、慌てて大地が前を向くのに合わせて俺も背筋を伸ばした。


ー ー ー ー ー



「田中ぁーーーー!」

他学年の教室っていうのは、どうも目立つ。特に、いかにも"先輩"という風貌の大地が居れば尚更だ。
俺の声に「スガさん!」と目を輝かせた田中の視線は、既に手元の弁当箱に向いている。

「てっきりいつもみたいに姉ちゃんから先生伝いに来るか、無しかだと思ってたのに…。スガさんマジアリガトゴザイマスッ! 」
「いつもとかお前…てか既に机の上にパンが2つ3つあんぞ」
「スガさん良かったら食いますか!?」

お礼に!!と勧められたので、焼きそばパンを貰っておいた。廊下で待っている大地にもコロッケパンをおすそ分けしている。

「大地さんもありがとうございました!」
「サンキュ、次からは忘れんじゃないよ」
「ハイッ!!」

大地と2人でラップに包まれたパンを持って、自分たちの教室へ向かった。
お昼の廊下は騒がしく、購買の近くは特に賑わっている。田中、この戦争に勝ったんだな…なんて思いながら人の波にちらりと視線をやった。

「で、何でスガが田中の弁当箱持ってたわけ?」
「職員室の帰りに、田中の姉ちゃんに会ったんだよ」
「なるほど、それで預かった、と。」
「そうそう」

そこで、あっ、と思い出す。

「田中の姉ちゃんの友達も居た!」
「金髪?」
「じゃない!」

大地が俺と同じ事を考えていて安心した。


教室へ戻ると何やら騒がしく一部にみんなが集まっていた。その集団の中心には佐藤が居て、ケータイの画面を見せびらかしていた。そちらへしばし視線をやっていると、佐藤がこちらに気づいた。

「おっ、スガに大地!これ見てみろよ」

「じゃーん!美人ツーショットー!」そう言って佐藤のiPhoneが手渡される。画面に映っていたのは、田中の姉ちゃんと牧野美緒さんだ。

「え、これ田中の姉ちゃんじゃん」

大地がポロっとこぼしてしまい、男子は沸き立った。

「まじ!?バレー部の田中?ちょっと目つき悪いやつ?」
「え、あ、まぁ…」

佐藤は不思議そうに画面を見る大地ではなく、俺に食いかかった。咄嗟の質問攻めに曖昧な返事が出てしまうが、そんなことはお構いなしに周りは盛り上がる。

「まじかアイツ、こんな美女2人も姉に持ってるなんて…悔しい…」

「いや、こっちは田中の姉ちゃんじゃないぞ」

大地の台詞に何となく"やっちゃった感"を覚えて、とっさに「大地!」と呼び止めてしまう。

「もしかして、スガの言ってた金髪じゃない友達ってこの人?」

「まぁ…そう…てか!それ盗撮だから!」

口止めされた訳でも何でもないんだけど、だけど、罪悪感で話を逸らそうと必死になった。


『噂の2人』

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