薄く開いたくちびるが、やたら色っぽく見えるのは、きっと気のせいじゃない。好きだ、という気持ちを自覚してからというもの、とにかく厄介なことばかりが続いている。
 恋愛マスター? 笑わせるんじゃない。俺は、恋愛なんて、これっぽっちも分かっちゃいないのだ。それなのに、マスターとは。鼻高々に宣言していた今までの自分が、恥ずかしくてしょうがなかった。

 と、俺が悶々とした思いでいるなんて、鈍感な彼女は気づくはずがない。
「それでね、流星が――」
 さっきまで話の中心が神ちゃんだったのに、いつのまにか流星になっている。自分のことを「ジャニーズWESTの一番のファンだ」と豪語するなまえは、悔しいかな、メンバーについてそれはそれは楽しそうに語るのだ。
 惚れたが負け、とはよく言うけれど、まったくその通りだと思う。誰が好き好んでほかの男の話なんて聞くか。いま一緒におるんは俺やろ。神ちゃんなんて、流星なんて、どうでもええやん。そう言えたらいいのに。いつもの俺なら、言えるはずなのに。
 たった二文字の「好き」すら伝えられない、臆病な自分に嫌気がさして、深く深くため息をつくしかできなかった。


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