28、食べられるものが増える


「腹減ったー!」

「ねーねー、今日のご飯は?」

「あんさんら、自分が食事当番の時だけやけに集まり早うない?」

「気のせい気のせい♪」


出陣を終わらせて蛍と並んで真っ先に飛び込んだのは、国行と歌仙が昼食の準備をしている厨。
特に約束をしてるわけじゃないけど、何となく顔を見せに行く習慣がいつの間にかついていた。
国行も悪態をついてるけど、本気じゃないのなんかすぐにわかる。
ちょっと嬉しそうな顔見せてんの、気付いてんだからな!
・・・ま、今日は国行が当番じゃなくてもここに来てたかもしれねーけど。


「何炊いてるんだ?すげー美味そうな匂い!」

「そうでっしゃろ?今日はこの前姫さんたちが取ってきてくれはった栗ぃつこうて、炊き込みご飯ですわ」

「えーすごい!国行栗剥けたんだ!?」

「そこですか?炊き込みご飯とか凝ってるもん作って、頑張りましたな的なセリフはないんです?」

「炊き込みご飯なんて、材料突っ込んでスイッチ押すだけだってこの前燭台切が言ってたぞ!」

「はぁぁ〜・・・料理のできる人の言うことを真に受けたらあきまへんで」

「へいへい」


手を洗いながら生返事を返して、国行が中身をまぜっかえしてるお釜の中をちらっと盗み見る。
べにのスプーンにもいい感じに乗りそうな、食べやすい大きさに切られた黄色い栗に、あ、ほんとに結構頑張ったんだなってちょっと感心した。
俺らなら栗が丸のまま入ってたって食べられるわけだし、まぁべにのためだろうな。
国行って、べにのこと“姫さん”なんて揶揄するわりに、わかりにくいところで大事にしてんだよなー。
俺らの会話を聞いてか、クスクス笑いながら魚を焼いてる歌仙に「なんか手伝うことある?」と聞けば、「じゃあ、大根おろしを作ってくれるかい」と言われてよっしゃ!と腕まくりをした。
「何で自分に聞いてくれへんのん?」とか拗ねる国行は放っておいて(蛍が食器準備してくれてんじゃん)、これが美味いんだよなーと出来上がりの味を想像して口の中に涎が溜まるのを感じながら大根をショリショリと削る。
この本丸では俺も新入りな方だけど、結構な大所帯だからな。大根おろしの量もそれなりだ。


「大根おろしなんて、姫さん食べますか?」

「いや、食べないだろうね。でもまぁ、舌は育ててもらわないと」


雅じゃないからね、なんていつもの台詞を口にする歌仙に、後ろで聞きながら首を傾げる。
大根おろしを食べることが舌を育てることになるって、どういうことだ?


「?どうゆうことです?」

「前に保育書に書いてあったのを見たことがあってね。えぇと・・・小さいうちに色々な味を経験することで、大人になったとき、理解できる味覚の幅が広がる・・・だったかな」


食事の本当の美味しさを味わえるなんて、雅だろう?
国行が聞いてくれた内容は、俺が知りたかった答えで。
それを聞きながら、初めて食事をした時の、あの感動をちょっと思い出した。
食べ物が舌に触れた瞬間感じたビビビッて全身に電気が走ったみたいな感覚に、目が輝いてた、なんて蛍丸に笑われたけど。
例えば、これがもっと美味い!って感じられるようになったら。
思わず喉がごくりと鳴って、俺、こんな食い意地張ってたっけ?なんて思わず首を傾げた。
小さいうちに経験したら、ってことは、べには、俺よりももっと食べ物を美味しく感じられるようになるのかな?
だとしたら、その方が絶対いい!










なんてさ、心を込めて大根をおろしたのに。


「やーだ!いやない!」


見つけた瞬間口をへの字にしてぷいっとそっぽを向いたべにに、思わず食器を落としそうになっちまった。


「何でだよ!?美味いぞ!?」

「ちがう!うまくない!」

「あー・・・前に食べさせたとき、相当辛いやつに当たったからなぁ・・・」

「えぇ・・・!?」


きまり悪そうな表情で言う和泉守に、経験済みかよ、なんてちょっと“初めて”をとられた気がしなくもなかったけど。
自分の皿にも盛り付けた大根おろしを試しに食べてみたけど、今回のはそんなに辛くない。
自分で言うのも何だけど、他の奴に比べて子ども舌な俺が言うんだ、間違いない!


「べに、これなら美味いから!前のやつとは違うから!」

「えー・・・!」

「あー・・・んっ!うん、美味い!特にほら、魚と一緒に食べると、めっちゃ美味い!」

「・・・・・・ほんと?」

「ほんとほんと!一口でいいから食ってみろって!」


俺の勢いに圧されたのか、必死の笑顔に信じてみようと思ったのか。


「・・・・・・あー」


恐る恐る口を開けたべにに、魚に大根おろしをのっけて、ほんのちょびっとだけ醤油を垂らした、俺が思う一番美味いバランスの魚を食べさせてやった。
口に入れたべには、モグ、モグとしっかり咀嚼して、考えるように右上に視線をやり。


「・・・やっぱりや!」

「えぇー!?」


行儀良くもゴクン、としっかり飲み込んだ後で、思いっきりしかめっ面をして俺の前から逃げ出していってしまった。
周りはそんなべにの様子に笑うばっかで、助け舟も出そうにない。


「ま、そのうち食べられるようになるよ」

「歌仙まで・・・」

「無理に全部食べさせなくていいよ。逆に嫌いになってしまっては、元も子もないからね」

「うぅ・・・」


美味いのになぁ、とちょっとだけつつかれた魚を見ていると、「国俊が食べればいいじゃない?」とか蛍にまで言われちまった。
別に俺が食べたいわけじゃねえっての!・・・いや、食べていいなら食べるけどさ!?


「べににも美味いモン、食べてもらいたいだけなのにな〜・・・」

「・・・ま、何事も気長に構えまひょ。そのうち勝手に食べるようになっとるわ」

「俺たちなんてすぐに抜かれるんだから。お兄さん面できるうちにしておけばいいじゃない」


ポン、なんて両脇から蛍と国行に背中を叩かれて、そうだけどさ、と口の中で呟きながら自分のご飯を口に運ぶ。
いつか・・・とはいえ、できるだけ早く。べにと一緒にいろんなものを美味い美味いって味わいながら食べられるようになりたいもんだぜ。
こんなに美味い飯を、知らないなんて損でしかないんだからさ。


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