33、お菓子を食べる


「俺は包丁藤四郎!藤四郎の兄弟で、包丁みたいな形をしてるんだ!」

「うん。元気な子が来たね。僕は燭台切光忠。この子は主のべに。僕がしばらくは君の世話係になるから、どうぞよろしく」

「べにれす!よおしく、おねがいしますっ!」

「おー、よろしく!あ、ちなみに俺、人妻とお菓子が大好きなんだけど、主が子どもってことはそのお母さんとかっている!?」

「・・・め、珍しい組み合わせの好きなものだね・・・いや、この本丸に人間はべにだけだよ。でも、お菓子好きならいい日に来たかもね」


燭台切さんのちょっと引いたような感じにもめげずに「そっか〜・・・」と肩を落としたけど、続いた期待させるような言葉に顔を上げてみる。
俺のキラキラした視線を受けて、ウインクしてみせる燭台切さんはイケメンだ!






「みんなー、新しい仲間だよ」

「んー!」

「んっ!」

「・・・って、何してるの!?」


襖を開けたとたん驚いてる燭台切さんに、部屋の中を首を伸ばして覗いてみる。
おっきな背中のせいで全然見えないんだよね!
同じように反対側からべにさんが覗いてたけど、それは燭台切さんのこれまたおっきい手で目隠しされてた。
・・・んー、隠すほどの事でもないと思うんだけどなぁ。


「んー?はにっへ、ほっきーふぇーうはへほ?」

「ひょっほ、へんひうほははいへほ!」

「えええええ・・・・・!?ちょっと全く理解できないんですけど!」


とりあえず二人とも離れて!とすごい速さで突撃した燭台切さんが、ベリ、と二人の肩をもって引きはがす。
当の本人たちは「ちょっと、何すんのさー」「僕の方が長い。僕の勝ちだね」「はぁ?ノーカンだよノーカン!」とかはしゃいでて、何だか結構ゆるそうな本丸だなぁって嬉しく思った。
入り口のところで立ち尽くしてると、二人の近くにいた白髪の鉄面をつけた人が来い来いと手招きしてくれる。
有り難くべにさんの手を引いてそっちに行けば、机の上に置いてあった棒状のお菓子を勧めてくれた。


「やったー!お菓子だ!これ食べてもいいの!?」

「もちろんでございます!喉に刺さぬよう、お気を付けくださいませ!」

「いっただっきまーす!」

「いたーだきます!」

「・・・べには、これ」


あまぁいチョコレートが付いた細長いクッキーだったり、ちくわみたいに中にチョコレートの入った枝みたいなのだったり。
この本丸は主が子どもだからお菓子が多いのかな?だったら最高!
当の主がチョコのついてないお菓子を渡されてるのがちょっと不思議だけど、食べられるなら何でもいいや♪


「二人とも、今日は馬当番の日じゃなかった!?何でこんなにのんびりしてるのさ!」

「その質問の答えは二つございます!」

「うわぁ、びっくりした」


突然向こうの会話に参加したキツネさんにちょっと驚いたけど、キツネさんは気にした様子もない。
その代わり白髪さんの方がキツネさんを諫めるように抑えて、こっちに目で謝ってくれたのが嬉しかった。


「今日は11月11日、現世ではこれを棒状のお菓子の日、つまり“ポッキーの日”と言うようにしているそうです!ですので、棒状のお菓子を多めに用意してみましたところ、たくさんの方がこちらで休憩していってくださいました!」


キツネさんの調子はあんまり変わんなかったけど。
得意げに尻尾を揺らす様子にまあいっか、と二本目のポッキーに手を伸ばせば、「もう一つの理由は、燭台切も察しがつくでしょ?」と話しながら向こうからも手が伸びてきた。


「今日は急ぎで終わらせたんだよ」

「そろそろ帰ってくるころだから、出迎えてやろうと思ってね」

「・・・まぁ、その気持ちは分かるけど」


微妙な顔の燭台切さんは「燭台切殿も、どうぞどうぞ!」とキツネさんに誘われて、しぶしぶだったけどようやく部屋に入ってきた。


「あぁ、紹介が遅れたね。そっちに座っているのが鳴狐。こっちが」

「加州清光でーす」

「僕は大和守安定」

「・・・宜しく」

「あ、俺は包丁藤四郎だぞ!よろしくー!」


ようやくみんなの名前がわかって、三本目のお菓子に手を伸ばす。
う〜ん、チョコはついてないけど、この塩っ気もたまんないなぁ!


「今回の修行先は安土だったっけ?」

「そ。手紙に織田さんのとこって書いてあった」

「は〜。その感じで行くと、俺、沖田君のところだよね・・・うわ〜、緊張するな〜・・・」

「そっちはいいよ。俺なんてまだ“目途が立たない”だよ?覚悟も何も、決まってるっていうの」


この本丸に来たばっかりだから、多分前から居る人たちの会話はついていけない。
何だろ、修行って?滝に打たれたりすんのかな?・・・そーゆーのって、お菓子禁止!とか言われたりするんだろうな〜。
考えただけでうげ。とゆがむ顔をごまかすように、四本目。
ポキッと子気味良く折れる音が気持ちいい。


「・・・道具が揃うのに、また少しかかる」

「ん?そうだね〜。政府の出す特別な戦場に出ないともらえないことが多いみたいだし、それもかなり難易度が高いから」

「毎日午前・午後と出陣して、それでも足りないとか酷いよね。やろうと思えばできなくはない難しさなのがまた憎らしい」

「まぁまぁ。無理しなくていいって紺野さんも言ってることだし」

「・・・次は、鳴狐」

「・・・へぇ。いいよ。行ってらっしゃい」

「なにそれ、予約制?ならその次俺だからね」

「そのとき限界感じてたらね」

「むぅ・・・」


聞くともなしに聞きながら、五本目に手を伸ばした時だった。





「―――帰ってきたね」




―――静かで、でも、腹に響くような、―――強さ。

口に運びかけていた手が、止まる。
誰もが口を閉ざして、“それ”が来るであろう方向―――入り口に、集中していた。



「―――帰ったぜ、大将」



低い声。障子に映る影は自分とそんなに変わらないように見えるのに、気配がそれを許してくれない。

―――なに、これ。

“それ”がもったいぶるでもなく障子をスラリと引いて、その正体を露わにする。


「・・・どう?修行を終えた感想は」

「・・・生まれ変わった気分、だな。だが本質は変わらねえ。改めて、よろしく頼むぜ」


―――彼は、知ってる。同じ眷属だもん、見目が変わってても、気配で分かる。

―――でも。

修行先での出来事とか、久しぶりに会うらしいべにさんとのふれあいとか、楽しそうにする薬研藤四郎を遠目に見ながら、隣にいてくれる燭台切さんに声をかけた。


「・・・修行行って帰ってきたら、あんなに強くなれるの?」

「ん?そうだね。力をつけて帰ってくる彼らは、とても頼もしい存在だよ」


そう言う燭台切さんもどこか誇らしげで、何だか、五本目のお菓子を手に取ってる自分がすごく小さいやつに思えた。
・・・別に、お菓子は悪くないし。美味しくて、いいものなんだぞ!


「ところで、お前、包丁藤四郎だな?俺っちは薬研藤四郎。これから宜しくな」

「っあ、う、うん。こちらこそ、その・・・よろしく」


ニコリと微笑む薬研に、慌てて手のお菓子をお皿に戻す。
思わず背筋が伸びるのを感じて、もうこっちを見てない薬研に、何だか、悔しくなって。


「無理もないよ。修行から帰ってきた彼らは、一皮剥けたように強いから」

「・・・・・・」


・・・僕も強く、なってやる。

お菓子は食べる!でも、ちゃんと強くなる!
そしたらきっと、このよくわかんないモヤモヤはなくなるはず。


「(―――今日はポッキー五本分、強くなるぞ!)」


机の下でぐっと手を握りしめて、強くそう、誓う。

隣で微笑まし気に見下ろす燭台切さんが、静かに薬研の方を見たことには、気付かなかった。


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