39、覚える


「ゆーきやこんこ、あーられーやこんこ!」

「今年は見事なホワイトクリスマスになりましたね」


覚えたての歌を元気よく歌いながら庭を走り回るべに様に、雪だるまの飾りを直しながら声をかける。
昨日みんなで作った雪だるまは、一晩明けて少し形が崩れていたけれど、へこんだ部分に雪を足していけば中々みられるくらいには戻ってくれた。
これで帰ってきたみんなが落ち込むことはないと一息つけば、雪を十分堪能したのか、べに様が鼻と頬を真っ赤にして息を弾ませ戻ってきた。


「サンタさん、くる?」

「はい、サンタさんはいい子のところに来てくれます!べに様なら大丈夫ですよ」


頬を温めてあげたいけれど、手袋をしていたとはいえ今まで雪に触れていた手は氷のようで。
そろそろ戻りましょう、と促せば、べに様も素直に玄関へと走り出してくれた。
最近ずっと走ってるなぁ、と鍛錬のように感じながらそれを追いかければ、入り口で腰を下ろして長靴を脱ぐべに様。
それを普通に置いて、普段ならまた広間に走り出すのだけれど・・・少し考えるように長靴を見て、もう一度長靴を持ち、端を揃えなおした。


「べに、いいこ?」

「はい!とってもいい子です!」


伺うように見上げる様子に、思い切り頭を撫でてあげる。
ちゃんとこの前注意したこと、覚えててくれたんだ、と嬉しくなって、嬉しそうなべに様にさらに嬉しくなった。


「・・・ところで、べに様は何をお願いしたんですか?」


そういえば、聞いていない。
僕が手伝えることならなんでも手伝うのだけれど、加州さんは今日出陣しちゃってるし。
ツリーの飾りつけや料理は手配してあるみたいだから、去年のようなバタバタにはならないのだろうけど。


「べにのおねがい?えーっとね、・・・みんな!」

「え?みんな?」

「うん!えっとねー、さだちゃんとかー、ソハヤとかー、むらまさとか!」

「へぇ・・・そう、なんですね」


欲しいもののお願いで、レア刀の名前を連ねる。
自分で少しだけ、声のトーンが落ちてしまったのを感じた。

少し前に、演練で少しだけ小耳にはさんだのだ。審神者は揃えたがる、と。
レアと呼ばれる刀はその名の通り、確かに手に入りにくい。だからこそと手に入れるために無理な出陣を繰り返したり、既存の刀をないがしろにする輩が後を絶たないと。
べに様も、そうなのだろうか。
自分たちだけでは物足りず、やはり同じような道をたどることになるのだろうか。


―――そう、一瞬でも思った自分を、叱ってやりたい。


「べににはね、あきちゃんも、みーちゃんも、みーんないるの!」

「・・・はい?」

「きよみちゅも、ママも、いちにぃも、なきぃも、やえんも、どーたぬきも・・・」

「・・・??」


一回一回確認するように腕を振りながら呼ばれるのは、本丸ですでに鍛刀されている面々の名前。
首をかしげる僕にうまく伝わっていないことを察したようで、べに様も首をかしげて口をつぐむ。
それから少し考えてぱっと顔を上げ、「じぃじ!」と嬉しそうに言われたけれど、やっぱりわからない。
どういうことだろう。挙げられた名前からしてレア度は関係ないのかと思っていたのに、三日月さんの名前をキーワードのように言われてしまったら考えが振り出しに戻らざるを得ない。


「いちにぃ・・・」


べに様も、どう説明したらいいかわからなくなってきてしまっていて、声に自信がなくなってきてしまっている。
べに様から出せる情報はここまで。ということは、ここから何とか答えを導き出さないと・・・!

“さだちゃん”は燭台切さんのよく話してくれる“太鼓鐘貞宗”。
“ソハヤ”は大典太さんの話に出てくる“ソハヤノツルキ”。
“むらまさ”もおそらく、蜻蛉切さんの言う“千子村正”。

この三振りに共通する、欲しがる理由。


「いないのね、さみしー、よ?」

「・・・あ、もしかして、よく名前を聞くから・・・?」

「・・・?ちがーう」


どうやら、ピンとこなかったらしい。
相変わらず首をかしげて眉間にしわを寄せる様子に、もう少しピッタリの言葉がべに様の中にあるのだろうとわかった。
そうするとはて、それはいったいどういう言葉なのか、という話になるのだけれど。


「あかし、くによしきて、むっこって・・・うれしーね、って・・・」


べに様も必死に言葉を探してくださっているのはわかる。
だけど、ぐるぐると思考が空回りして、眉間に力が入るばかりで答えが出そうにない。
だんだん機嫌が悪くなってきたべに様を気分転換がてらに促して、廊下をとぼとぼと歩き出した。

何だろう・・・べに様にとってのこの本丸にいる全員の存在で、名前の挙がった三振りは、そう思われている側。
つまりべに様と同じような立場の誰かがいるってことで・・・
でも本丸でべに様と同じ立場の人って・・・?そもそも、それをべに様がお願いするってどういう・・・?


「あっ!」

「えっ?」


お散歩しながら考えていたら、いつの間にか刀装を作る神棚の間まで来てしまっていたらしい。
不意に走り出した背中に慌ててついていくと、神棚の前で立ち止まったべに様は、息を整えてパン、パンと綺麗に柏手を打った。
そして、手を合わせたまま伸びやかな大声で。


「かぞく、たくさん、ふえますよーに!みんな、なかよく、なれますよーに!」


・・・そういうことか・・・!

多分、何度もそう言ううちに、フレーズとして覚えてしまったのだろう。
改めて聞かれるとどう言えばいいかわからなくなってしまったのだろうけど、この場所に来て反射的に思い出したのだろうか。
合わせた手に額を付けるようにしてぐ〜っと力を込めたお願いは、きっと神様にも届いている。
素直にそう思える様子に、そういえば今朝の出陣メンバーは、熟練組がずいぶん時代を遡っていたし、全隊出陣で資材集めが行われている。


“審神者は揃えたがる”


想いは、極論同じ。
でもその意味が。僕たちが、叶えてあげたいと思える心が。


「・・・新しい家族が、来てくれるといいですね!」

「うん!」


サンタさんが来てくれる、期限まではあと二日。
どうかこの優しい子に、とっておきのクリスマスプレゼントを。


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