6、理解したい
俺は、博多藤四郎。最近大阪城の地下で拾われて、子どもの審神者がおるこの本丸にやってきた。
俺よか早くこの本丸に来た刀達は丁寧にここんこつば教えてくれて、よか職場に来たもんやと自分の運に頷きよったわけっちゃけど。
最近、ちょっと困ったことがある。
今日は薬研と一緒にべにの遊び相手ばしよる日で、ちょっと薬研が席を外した時やった。
そん時たまたまカレンダーが目に入って、あー昨日は五月五日やったんやなーと何となく思って、ぽろっと口から言葉が飛び出した。
「せっかく端午の節句やったけん、こいのぼりくらい欲しかったっちゃけどなー」
「こぃ、のぼい?」
「そー、こいのぼり。でも主が・・・っとと、べには女の子やけん、桃の節句にひな人形の方がぴったりやか」
「べにはーおんなのこ!」
「それは間違いなか」
「そえでーはかちゃんはおとこのこ!」
「おう!男らしかとばい!」
「おとこーあしぃか?」
「んーと、かっこよかと!」
「かっこよかと・・・」
自信なさ気に徐々に小さくなっていく声は可愛かばってん、どげんしたらべにのわかる言葉で伝えられるんかわからんで首ば捻る。
いかんせんニュアンスで伝わらんけん、どれもこれもみんな説明せんといっちょんわかってもらえん。
みんなとおんなし言葉で話せたら、問題もなかっちゃろうけど。
「こいのぼいってなーに?」
「こいのぼり?そーなー・・・」
これがちょっと困ること。
なんか、わからんことよう聞かれるばってん、俺には答えられん。
や、答えても、わかってもらえんとが困る。
これは素直に、誰かに助けばもらう方がよかやろうね。
「ちょお待っとって。薬研ば呼び戻してくるけん」
「やだっ!はかちゃんおしえて!」
「えぇ?べに多分俺ん言うこと分からんよ?」
「そんなことないもん!べに、ちゃんとわかぅもん!」
「んー・・・そんなら・・・」
難しかぁ、と思いながら、言葉ば選んでこいのぼりについて説明する。
と言っても、こいのぼりの歴史とかを言いたいわけじゃなか、形とか、どうしてとか、そげんこつば言えばよかっちゃろうけど。
「こいのぼりっち言うんは、五月五日・・・昨日やね、に飾る鯉の飾りんこつばい。男ん子の元気に育つように、っち願って飾るとよ」
「・・・・・・」
ぽかん、って顔しよう。
ちょめちょめと唇が動きよるけど、どこが大事かわからんとやろうなぁ。
「やけん言ったろうが・・・今から誰か呼んで・・・」
「やー!!いまっ!」
立ち上がろうとしたら、手ばバタバタさせて暴れ始めた。
こらマズか・・・思い通りにならんけん、怒り始めよう!
ばってん、どげんしたらよかと!?
半ばパニックになりかけよったら、不意にトントン、っち戸ば叩く音が聞こえてきた。
全然気付かんかったことにたまがってそっちを振り向けば、開けっ放しの戸に片手ばかけて、薬研が立っとった。
「おう、どうしたお二人さん」
「薬研!ちょうどよか、主にこいのぼりんこつば説明してくれんね!」
「だーめぇ!はかちゃんのがいーのっ!!」
天の助け、とそっちに走り寄ったら、後ろからべにの悲鳴みたいな声が聞こえてきて。
ついには大泣きし始めてしまったべにに、悲しい感じの霊力が本丸を覆ってくのを感じて頭を抱えた。
「どげんせやんっち言うとね・・・!」
「・・・ま、席を外した俺っちが悪かったんだろうな」
そう呟いた薬研は、気にする風もなく部屋に入ってった。
通り過ぎざまべにの頭をポンポンと撫でて、部屋の奥の棚を開け始める。
「ん?こっちじゃなかったか?」とか言って何かを探しとるんばってん、べには泣き続けとるからたまらん。
「薬研、なんしようと?」
「ちょっと待ってな。確かこの辺に・・・あぁ、あった」
振り返った薬研は、色とりどりの四角い紙をパサパサと揺らしてみせる。
それが折り紙っちことはわかるばってん、それがなんち言うと??
「ほれ、これで何とかなるんじゃねえか?」
「・・・これで?」
「べにはこいのぼりがどんなもんか知りたがってるんだろ?」
ちゃんとしたの用意するには難しいからな、と言う薬研はつまり、折り紙でこいのぼりを作れって言うと?
確かに、百聞は一見に如かずやけど・・・
そこまで考えて、ふと、べにの泣き声が聞こえんくなっとることに気付いた。
恐る恐る、ちらっと盗み見てみると、まだひっくひっくしとるばってん、じっとこっち見とる目があって。
「・・・ハサミある?」
「きゃーっ♪」
「あれーべに、どうしたのそれ?」
「あのねー、はかちゃー!くえた!」
「へぇ、いいね!ボクも作ろうかなぁ」
「んふふー♪」
「・・・思ったより器用なんだな」
「・・・まぁ、器用に損はなかけんね」
折り紙を筒状にして、尾びれの形に切って、割りばしに紐で括りつけて、最後にちょろっと絵ば描いた。
それだけやけん、あんなに喜んでくれるなんて思っちょらんかった。
庭ば走り回って、即席こいのぼりばなびかせるべにを、半ば茫然と薬研と二人で縁側から眺める。
さっき一瞬雨になりかけた空は、今はもうからっとすっきり晴れていて。
「コミュニケーションっちゃ・・・難しかね・・・」
「・・・ま、少しずつ慣れていくこったな。べにもすぐ慣れるさ」
ぽんぽん、と肩を叩かれて、ちょっと今後の苦労が労われた気がした。
まぁ、来てしまったものは仕方ないけんね。
あげなこいのぼりでん、嬉しそうに自慢するべにの顔が見れるんなら・・・また、何か作ってみてもよかかもね。
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