11、比べる


パタパタと軽い雨音に混じって、奇妙な旋律が聞こえてきた。


「てーぅてーぅぼーじゅーてーぅぼーじゅー、あーしたてんきーにしーておくえー♪」

「・・・何の歌だ?」

「あ、山姥切さん!ちょうどよかった、ちょっとべに様をお願いしてもいいですか!?」

「は、・・・あ、おい!?」

「燭台切さんにお風呂の火を見ておくように言われてたのを忘れてたんですよー!!」


「ごめんなさーい!」と言いながら風呂に向かって走っていく秋田の背中はもう見えない。
持ち前の機動力を存分に発揮された言い逃げに、伸ばした手はへなへなと力なく降ろされた。
唐突な任命に暫し茫然として、視界の端に映るべにに恐る恐る視線だけを向けてみる。
軽く首を傾げてこちらを見上げてきたべには、目があったことを察してにへらと笑うと(その瞬間俺の肩はビクリと上がった)、また手元に視線を戻してさっきの変な歌を歌い始めた。


「てーぅてーぅぼーじゅーてーぅぼーじゅー♪」

「・・・・・・」


今日は、“いやいや日”ではないらしい。
そのことに少しほっとして息を吐き、諦めてそっと近くに腰を下ろす。
正直一瞬、声をかけてしまったことを後悔したが・・・、機嫌のいいべにの傍にいるのは、中々に心地いいのだ。


「それにしても・・・風呂か。秋田が頼まれたことを忘れるなんて、珍しいな」

「あきちゃん?」

「あぁ」


最近は、少し前の暑さと打って変わって、雨続きで気温も低い。
この雨の中出陣してきた面々はすぐ風呂に入りたいだろうし、それが熱湯や水では目も当てられない。
秋田が帰ってくるまでそんなに時間もかからんだろうし、俺も今日は非番だ。
・・・べにの子守に専念するとするか。
廊下の先を気にするのを止めれば、自然とべにが熱中していることに興味がわく。
何やらティッシュを何枚も出しているようだが、何かを拭くでも、鼻をかんでいる様子もない。
・・・何かを、作っているのか?


「・・・それはなんだ?宇宙人か何かか?」

「ちがーう!てぅてぅぼーじゅ!」

「てるてる傍受?」

「ぼーじゅ」

「・・・棒術」

「ちがーう!ぼうじゅ!」

「ぼ、ぼうじゅ・・・?」


これ!と差し出されたのは、何枚かをひとまとめに丸めたティッシュを、さらにもう一枚で包んだもの。
何だろう。・・・肉まんか?


「まんば!おんなじ!」

「え・・・お、俺はこんななのか・・・!?」


そ、そんなに丸々としているつもりはなかったが、子どもの目は正直だと言うし・・・、・・・いや、もしかして、「お前はこの程度の存在だ」という、暗示・・・?は、はは・・・所詮俺など、ただの写しにすぎない・・・幼子のべにの目を通しても、その価値は知れる、ということか・・・


「すみません〜!いい感じにあったまって・・・ってわぁ!?山姥切さんどうしたんですか!?」

「所詮俺など・・・ゴミ同然・・・」

「えぇっ?」


パタパタと軽い足音を響かせて戻ってきた秋田が、俺のネガティブオーラを感じ取って目を白黒させる。
状況を理解しようとべにを見て、その手元を見て。何かを思い出したように、明るい顔で今来た方―――外を指さした。


「あ、そうだべに様!お外見てくださいよ!」


外?と顔を上げて、ふと気づく。
そういえば、いつの間にか雨音がしなくなっている。
そう思う間にぱっと立ち上がったべには、俺の隣をあっさり抜けて秋田の隣に並んだ。
そして秋田に促されるまま、空を見上げて―――晴れ間から覗く太陽と、そこから伸びる陽光に、「わぁっ!」と感激の声を上げた。


「すごい!すごいねー!」

「はい、てるてる坊主さんのおかげですね!」


・・・・・・・・・・てるてる、ぼうずだったのか・・・
・・・布を被っているところが、同じだと、そういうことか・・・
ようやく。ようやくべにが「おなじ」と言っていたことに合点がいって、後ろに降ろしていた布をぐい、と被りなおす。
・・・こうした方が、“それ”らしいだろ・・・
しかし。


「なっ・・・!?・・・なんだ!?」


強い力で被った布がはぎ取られ、思わず顔を上げれば、目を輝かせるべにと視線ががっちりかち合って。


「・・・おてんきのかみさま!」

「・・・!!」


ビシィ!と指を突き付けられて言われた言葉は、理解すると同時に俺の顔をカァ、と赤くさせた。


「お・・・、な、・・・は・・・!?」

「山姥切さんが“お天気の神様”・・・?・・・あぁ、晴れにしてくれたってことですね!」

「なっ・・・お、俺は、そんなこと・・・!だ、第一、てるてる坊主なら布を被っていた方が・・・!」

「きらきら!ん!ん!」


納得したような秋田の言葉に慌てて首を振っても、目の前の主の耳には届いていない。
一生懸命俺と空を交互に指さす様子に、ただただ疑問符しか浮かばなかった。
だが、流石は一緒に過ごす時間が長いというか、懐刀の人との近さと言うべきか。
軽く首を傾げていた秋田だったが、すぐにポン、と手を打つと、うんうんと頷いた。


「あぁ!山姥切さんの髪の毛の色が太陽と同じで、目の色が空と同じってことですね?」

「きらきら、おそら、まんば、ね?」

「はい、おんなじですね!」

「おんなじ!」


我が意を得たり、とばかりに満面の笑みを浮かべるべにと、秋田の笑顔がまぶしい。
それに中てられたかのように、俺の顔にはカカカカカと際限なく熱が集まっていった。


「なっ・・・ちっ・・・ばっ・・・!」

「あれ、どうしたんですか?山姥切さん、顔が真っ赤ですよ?」

「・・・・・・・・・もういい!」


耐えきれなくなってその場から逃げ出したが、・・・あぁ、もう。

余計なことを語る花弁なんて、べにの目に留まらぬうちに消えてしまえばいいのに・・・!



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