19、見立て遊びをする
「おーおー、でっけぇ入道雲だなぁ」
じーわじーわと蝉の声が降りしきる中、遠くの空で存在を主張する入道雲を見上げる。
首が痛くなりそうなくらい見上げて、あの雲がこっちに来るか、そのまま流れるか風の向きを考えてシャリ、とアイスを一口齧った。
ここ数日は暑さも控えめになってはきてるけど、相変わらず暑いっちゃあ暑いんだよなぁ。
一雨来てくれれば、もっと涼しくなっていいもんなんだけど。
「しぃおー!」
「おっ?べにじゃんか。お前も食う?」
「くうー!」
嬉しそうにあーと口を開けたべにに、そういえばこの前話し方に気を付けろって言われたっけと思い出してやべ、と一瞬動きが止まる。
でもひな鳥みたいに幸せそうな顔で口開けてるべににわざわざ言い直せってのも酷な話だし、まあいっか、と思い直してちっこい口にそのままアイスを突っ込んだ。
シャリ、と齧り取って、「んん〜!!」と頬に手を当てて冷たさを満喫するべに。
最近可愛さに拍車がかかってきたと思うの、俺だけじゃねえよな。
「しぃおー、どしたの?」
「ん?あー、雲見てたんだよ。あれ。おっきいだろ?」
「もくもくしゃん?」
「あ?・・・あー、なるほどなぁ。おう、もくもくさんだ」
もくもくさんねぇ・・・、なんとも可愛いネーミングだな。
一体誰がどんな顔して教えたのかをすげー知りたい。
・・・ま、俺もそれに付き合う辺り、人のこと言えねえんだけど。
「あれはもくもくさんの親玉みたいなやつでなー?あれがここまでくると、すんげー雨と雷が鳴るんだぜ」
「あめあめ?」
「そーそー、あめあめ。すっげーの」
「・・・もくもくしゃま!」
「・・・・・・ブッハ!」
ほんと、そういう発想どこで仕入れてくるんだか。
何やら少し考えたかと思うと、パッと顔を上げて自信ありげに宣言したべにに、思わず吹き出しちまった。
もくもくさんの親玉だから、もくもく様ねぇ。何の話を参考にしたのかはわかんねえけど、子どもらしい発想で面白いもんだ。
腹を抱える俺を気にするでもなく、きょろきょろとあちこちを見渡すべに。
俺も気を取り直してちっこい歯型のついたアイスを口に放り込んだ。
「・・・もくもくしゃん?」
「ん?」
小さな疑問の声にぼんやりと見上げていた空から下に目を落とせば、べには屋根でできた日陰で涼んでいる鵺を見て首を傾げている。
自分に声をかけられたのが分かったのか、鵺もチロリと顔を上げてべにと目を合わせるも、どういうことだとねめつけるようにこちらにそのまま視線を移してきた。
こいつは鵺だって、前に紹介したはずだけどな・・・
「まっくぉくぉすけのもくもくしゃん!わるいこ?」
「ん?」
「・・・わるいこ!」
べには突然ビシッと鵺を指差すと、なんか自己完結してがばっと立ち上がり、そのまま鵺を掴んで走り出した。
鵺はあってないような重さしかないからべににも持てるだろうが、それでも前は見にくいだろうし、鵺の毛を踏んでコケないとも限らない。
「お、おいべに!危ないって!」
「わるいこ、まっくぉくぉすけ、わるいこー!」
「だ・・・待てって!」
何が楽しいのか、笑いながら向こうに行ってしまったべにを追いかけて走り出す。
追いかけてきたのが分かったのか、ますます楽しそうに「きゃー♪」とはしゃぐべに。
何だってんだよ!?何でいきなり追いかけっこが始まってるんだ??
通りすがりの男士たちにも「わるいこ!もくもくしゃん!」とか言いふらしながら鵺を見せびらかしているし、きょとんとべにを見送った面々は続けて俺を見つけると「何したんだよー」と笑ってるし。
他人事かよ!下手な奴に見つかったら廊下走るなって怒られるのわかってんのに!
「おいー!待てーべにー!」
「きゃー♪きゃー♪」
・・・・・・。
・・・ちょっと待てよ?何かべに、めっちゃ楽しんでねぇ?
・・・・・・。
・・・何か周りの奴らも、全然焦った感じなくね?
よく見ると鵺も必死に身体を縮めてべにの視界をふさがないように、べにに踏まれないように頑張っているらしい。
・・・・・・。
「・・・こらー!べにー!せめて庭にしろー!!」
「きゃー!!♪」
「いけーべに、獅子王なんかに捕まるなよー!」
「鯰お前!煽るんじゃねえよっ!!」
ケラケラと笑う鯰尾に形だけ怒って、追い付くかどうか、ギリギリの速度でべにの後を追う。
たまにべにが振り返ったら、ちょっとスピードを上げてみたりして。
ま、誰かに怒られるまでは付き合ってやるか。
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