レシーブ練習


「大野!対人やろうぜ!」

「ぅえっ・・・!?あっ、い、嫌とかそういうのでは、なくて・・・!」

「わかってるって!何で影山とやらねえんだってことだろ?」

「っ・・・っ・・・!」


コクコクト必死に頷く大野に、「だってさー」と唇を尖らせる。
最近はいつも、思っていたのだ。


「大野、最近上手くなってきてんじゃん!おれも上手くなりたい!」

「・・・!?・・・・・・!?」

「出た、超理論」

「なんだよっ!」


ボールを拾いながらププ、と笑う月島に噛みつく。
月島は「なんでそれが大野とやることになるのかわかんない」とか肩をすくめるけど、だってそうだろ!
間違ってなくても、笑われるとちょっと恥ずかしいんだからな!


「上手くなった大野と練習したら、俺も上手くなれるかもしれないだろ!」

「わけわかんないし」

「でも大野、最近確かにスパイク後ろに逸らすことなくなってきたよね・・・」


前に比べたら断然、スパイクの正面に入れるようにはなってきていた。
でも、結局パワー負けして、後ろへと弾き飛ばすことが多かった。
それが、今ではどうだ。セッターの頭上とまではいかなくても、コートの中央のあたりには返すことができるようになってきているのだ。
その成長は誰の目にも明らかで、恩恵にあずかりたいと思うのは、俺だけじゃないんだからな!


「じゃあ王様は縁下先輩と対人するの?」

「おう!次代われってさ」

「ひっ・・・!?」


すごい形相でこっちをにらむ影山に、月島の後ろに隠れる大野。
縁下先輩も様子を察して苦笑していて、「ほら、影山いくぞー」とボールを投げて影山を集中させてくれていた。
縁下先輩がふさがっていれば、大野は一年と組むしかない。
それで俺が自分に向けてボールを投げそうになっているんだから、大野にもう選択肢はないようなものだった。


「ぼ、僕でよければ・・・」

「おう!」


ボールをパスして、大野がレシーブしたのをトス。打ち返されたそれをレシーブして返せば、今度は大野がトス。
山なりに頭上に飛んできたボールに照準を合わせて打ち込めば、肩慣らしの一本目はまるで当たり前であるかのように日向の頭上に返ってくる。
やっぱり、上手い。
“弱い”とか“軽い”と言われる日向のスパイクだが、それでさえ拾えなかったのが4月の大野なのだ。
肩慣らしにと軽く打ったとはいえ、完璧なレシーブ。
大野からの高めのスパイクをトスで返して、再び山なりに上げられたトスに、今度は本気で。


「っ、」

「おぉっ」


正直ちょっとコントロールミスって大野の正面に打てなかったのに、ちゃんとステップで移動して正面で受ける。
やっぱ正面に入るのって大事だよな!と大野の姿を研究しながら自分もキュキュ、とシューズを鳴らした。
ただ・・・レシーブは参考になるんだけど。
何ラリー目かで、大野がレシーブしたボールの勢いが殺せず、大きく上がりすぎて後ろへ飛んでいく。
「ご、ごめん・・・!」と大野の謝る声を背中に受けながらボールを拾いに行って、元の位置に戻って不満を零した。


「大野、もっと強いの打ってくれよ!物足りねえ!」

「うぐっ・・・!」

「普段王様とやってる人が、大野のスパイクに満足するわけないじゃん」

「はぐぅ・・・っ!」

「ん・・・そうなのか?でも、大野のサーブはもっと強いだろ!」

「サーブとスパイクは手首のコントロールも狙う面積も違うよ。文句があるならコートばりに守備面積広げてみたら?」

「はっうぅ・・・!」

「でもツッキー、大野はコースドンピシャで打ってくるよ」

「ちょっと黙ってて」

「大野ー、今日の練習は二人とやったらいっぱいだろうけど、明日の練習は俺とも組んでもらっていい?」

「えっ・・・えええ・・・っ!?」

「ちょっと。僕はどうなるわけ。あの二人のどっちかとペアとかごめんなんだけど」

「あ、ツッキーも一緒にやりたいって!」

「ちょっと!」


ぎゃいぎゃい、わあわあ。
遠くで縁下先輩が「影山ーこっち見ろー」と口だけな感じで注意してて、影山もこっちの話を聞いてるんだってことがわかる。
月島と山口が何か言い合いだして、それを大野がオロオロと眺めて。
そろそろ三年生が動き出しそうな気配を醸し出していたみたい(大野の後日談)だったけど、それよりも俺の限界のほうが早かった。


「・・・もー!大野!」

「ひぃっは、はぁっい!」

「今日は俺!・・・だけじゃないけど、今は俺!続きやるぞ!」

「はっはいぃっ!!」


みんな大野とやりたいのはわかるけど(何せ言い出しっぺは俺だしな!)、そのせいでせっかくの練習時間が短くなるとか絶対嫌だ!
怒気をはらんだ声に少し涙目になった大野がこちらに向き直ったことに満足して、手に持ったままだったボールを緩く放る。
トン、と大野の腕に吸い込まれたそれの軌道を確認しながら、額の前へと両手をかざした。


「次のがさっきより弱かったら、もっかい大野のスパイクにするからな!」

「はっはいぃ!」

「・・・あいつが王様だったっけ?」

「うーん・・・あっちでこっち睨んでる奴がそうだと思ってたけど・・・」


なんかこっち見て言ってるみたいだけど、気にしない!
今は、大野とのレシーブ練が第一だからな!
さっきよりずっと強く向かってきたスパイクに、ゾクリと口の端が吊り上がるのを感じた。


=〇=〇=〇=〇=〇=
リクエスト:小珠様 ありがとうございました!
データ破損のため、一部変更があります。
back