白鳥沢での役割
若利君は面白い。強いからなのか、それともそういう性格だから強くなったのかはわかんないけど、若利君の考え方は普通とはちょっと違う。
だから観察していると面白い。
獅音とかは「あまり若利に迷惑かけるなよ」とか言うけど、弁慶はちょっと過保護なとこもあるからね。
「ねー若利君駅前に新しいお店できたの知ってる?」
「知らない」
「シューズショップみたいでさ〜。ちょっと覗いてみようかなって思うんだけどさ〜。でも今月金欠なんだよね〜。入ったら絶対買いたくなっちゃうからどうしようかなって・・・」
「その話は後でもいいか」
今日もいつものように若利君にちょっかいをかけていたら、珍しく話をさえぎられてしまった。
監督を見つけた若利君が「すまん、」と一言断ってそちらへと行ってしまう。
監督が若利君に声をかけることは多いけど、若利君から話しかけるのは実は結構珍しい。
何の話しだろ、と近くをうろうろしてみたけど、若利君の低い声は盗み聞きにくくて「サ・・・の、」とか「一人・・・のが、」とか、ほとんど内容はわからなかった。
一方で、じっと若利君の話を聞いていた監督の声は、普段から張っているせいか向きのせいか、ばっちりはっきり聞こえてくる。
「大野・・・?はて、そんな名前のやつもおったか。わかった、見てみるわい」
「お願いします」
でもそれだけではよくわからなくて、結局話し終わってこっちを振り返った若利君を首を傾げたまま迎えた。
「若利君が自分から監督のトコ行くなんて。何かあったの?」
「大野のことを使わないのかと聞いた」
「?大野?誰ソレ?」
「一年だ」
「へー。知らない。若利君が気にするってことは上手いの?」
「サーブが上手い。他が稚拙で試合には使えないが、練習に組み込めばチームのサーブカットのレベルが上がるだろう」
「へー」
「興味があるのかないのかどっちだよ」
英太君が俺の返事を聞いて突っ込まれたけど、いつものことだからそんなに気にしない。
興味があるから聞いてるのにねぇ?
それにしても、大野君かぁ〜。どんな奴だろ?
名前から“大野”っぽい顔の後輩を思い浮かべてみても、もちろんわかるわけがない。
でも目立つ奴なら若利君より先に知ってただろうから、多分地味な奴なんだろうな〜。
ん?そもそも若利君は何で大野君のこと知ったんだろ?
「若利君は何で大野君がサーブ上手いって知ったの?普段周りの練習なんて見てないじゃん」
「お前本当に言葉選べよ!」
「・・・たまたま、自主練しているところに出くわした」
「へー!ドライブ?フローター?」
また栄太君に怒られたけど、右から左で若利君の言葉に耳を傾ける。
自主練かぁ、てことは熱心タイプ?それとも隠れ熱心タイプ?
出くわしたってなんだろー、とかいろいろと想像しながら聞いていたのに、次の若利君の言葉は完全に予想外のものだった。
「どちらでもない」
「へっ?」
「どちらでもなかった。あれは、ドライブでも、フローターでもない」
「・・・どゆこと?」
「集合――!!」
はてなマークばっかり頭の中に浮かぶから素直に聞いたけど、コーチの集合の合図にそれ以上聞くこともできずにうやむやになってしまった。
何だろう。ドライブでもフローターでもないサーブって何なんだろ。めちゃくちゃ気になる!
後になったらもう忘れてるんだろうな・・・、なんてさっさと集合しに向かってしまった背中に未練がましい視線を送りつつ、自分も集合に走った。
「・・・なーんて言うから探してみてるんだけどさ。一向に見つかんないんだよねーその大野ってやつ!」
案の定若利君ばっちりすっかり忘れてるし!とぷりぷりと頬を膨らませる。
話し相手に捕まえた太一君はうんざりしたようにボールを構ってて多分ほとんど話を聞いてないし、「聞いてる?ちょっとぉー」と不満をもらした。
けど、「えぇまあ」と言いながら5つ目のボールに手を伸ばしていた太一君が、ふと何かに気付いたように顔を上げる。
「大野?それ、一年の大野圭吾のことですか?あぁ・・・まぁ、天童さんみたいなタイプ苦手でしょうしね」
「えっ何それ。太一君大野君のこと知ってんの?」
ていうか、さっきから「大野って言うらしいんだけどさ、」って言ってたんだけど!?
素知らぬ顔で「そうでしたっけ」とか言う生意気な後輩にかなり腹が立ったけど、とりあえず今はそれより大野君のことだ。
白鳥沢の選手層は厚い。それでも俺はよく覚えてるほうだと思うけど、他人に興味のない若利君にいたっては多分レギュラーくらいしか知らないんじゃないかな。
太一君だって「誰だっけ」って言うことが多いタイプなのに、その二人が知ってて俺が知らないなんて!
「ある意味目につきますから、大野は」
「えっ!?俺が知らないんだから絶対地味な奴だと思ってたのに!」
「どういう判断基準すか・・・。あながち間違ってはないすけどね」
ますます大野君の人物像がわからなくなってきた。
地味な奴なのに、目につく。若利君や太一君の話しぶりからして悪い意味ではなさそうだけど、俺みたいなタイプは苦手。というか避けられてるらしい。
何で!?俺話したこともない奴から嫌われてんの!?
ぎゃあぎゃあと騒いでも、「なくはないでしょ」なんて生意気なことをボソリと呟かれて唇をゆがめる。
なんだよクッソ・・・。一体どんな奴なわけ!?
「・・・まぁいいでしょ。牛島さんが監督に話したなら、その練習始まったら嫌でもわかりますって」
「!・・・まぁ、そうだねー」
ちょっとムカっ腹立ってきてたけど、太一君の言葉を聞いて何とか自分を納得させる。
つまり、サーブカットの練習で変なサーブ打ってるやつがいたら、それが“大野君”なわけだ。
よーし、待ってろよォ?絶対捕まえてやるからな!
「(ブルッ)・・・ぇ、な、何か、悪寒が・・・」
「!風邪は早めに治せ!練習に付き合うのはそれからでいい!」
「えっあっ・・・・・・・・・ゃ、やる、とは・・・」
「牛島さんとやっている内容、同じかそれ以上の質のものができないと意味ないからな!」
「・・・は・・・ハィ・・・」
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リクエスト:花猫様 ありがとうございました!
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