BBQのおいしいところ


合宿も終わりに近付いて、烏野にとってはサプライズイベントとなったバーベキュー。
遠慮して肉にありつけていない様子の谷地さんをバーベキュー台まで案内して一息つくと、澤村先輩が「お、大野はしっかり食ってるな。感心感心」と声をかけてくださった。
それに思わず「いただいてますっ」と頭を下げれば、「俺が払ったわけじゃないから!」と慌てて手を振られてしまった。
何て言えばよかったかなぁ・・・と少し考えていると、手が止まったのを見て「ほら、いいから食えって」と気を使われてしまう。
いけない、と慌てて返事をして自分の皿に乗っている肉をかき込むと、「おっ、大野意外と食うなあ」とまた別のほうから声が聞こえてきた。
慌てて口の中のものを飲み込んでそちらを振り返ると、割り箸でピースを作る、


「ぼっ、木兎先輩・・・っ!!はっ、はい!イタダイテマス!」

「おう!じゃんじゃん食え!」

「お前が出してるわけでもないからな?」


呆れたように笑う澤村先輩が、「まぁ俺も、大野に食わせようとして持ってきたんだから人のこと言えないか」と片手に持った皿を掲げる。
その上に乗った大きなおにぎりに、これを、全部・・・?とさっき黒尾先輩に皿を差し出された時にも思ったことを考えた。
つまりは、自分の腹の具合である。
さっき黒尾先輩から肉が山と乗った皿を差し出されたときは、本当に十分食べた直後だったから水分でも入るか怪しかったけど・・・今なら、谷地さんを案内するのに歩いたおかげで少しは入りそうだ。
けど、そのようやくできた隙間も、今かき込んだ肉でほとんど埋まってしまった気も・・・それに、この大きさのおにぎり・・・お腹の空いてるときに入るか否か・・・
・・・いや、でも先輩の、しかも自分の学校の主将のおごり(?)を断るわけには!


「あっ、ありがとうございます!イタダキマス!」

「えっ?あっおい、大野!?」

「おお!いーじゃねえか!豪快だなぁ!」


澤村先輩の皿の上から特大おにぎりを受け取って、とにかく一口、と口の中に押し込む。
結構辛い気もするけど、気がするだけだ。為せば成る・・・はずっ!
口に入れただけで涙目になりかけれいることを自覚しながらも、何とか咀嚼して飲み込―――


「オヤオヤ〜?大野クン、俺があげた肉は食べられないのに、澤村クンからのは食べるんだ〜?」

「ムグッ・・・っ!?ゴフッ・・・!」

「!?水水!」


突然耳元で聞こえた声に、完全に心臓がひっくり返った。
変なところに入ってしまったご飯に今度こそ涙目になりながら、澤村先輩が差し出してくれた水で何とか流し込む。
その間もニヤニヤとこちらを見ていたらしい声の主に、咽て真っ赤になっていた顔から一気に血の気が引いていくのを感じた。


「く、黒尾先輩・・・ゴフッ、」

「そんなでかいおにぎり食べるなら、おかずがないと味気ないよな?」

「おお、そうだな!肉食え、肉!」

「ちょ・・・無理しなくていいんだぞ?」


ひょい、と差し出されたのは、さっきのデジャヴを感じる肉の山。
それを見ただけでもこみ上げてくるものがあったけど、各校の主将に詰め寄られて、さっきとは違う意味で息が止まりそうになる。
それでもなんとか「だ、大丈夫です・・・っ!」と応えて、左手の皿に追加される肉の山を受け取った。
そう。谷地さんのためにという大義名分があったとはいえ、さっきの他校の先輩すらもをかき分けてバーベキュー台まで進むという進軍にも似た動きは、確かにぼくの中のカロリーを相当に使っている。
だからきっと、このずしりと重たい右手のおにぎりも、左手の皿に乗った肉の山も、さらにその上に「野菜も必要だよな!」と木兎先輩が乗せてくる野菜も、きっと・・・きっと・・・!


「ちょっと、大野が困ってるじゃないですか」

「っ・・・け、京治せんぱあぁい・・・!」

「ちょうどもうちょと食べたいと思ってたんだ。それ、半分くらいもらってもいい?」

「はっはいぃ!」


天の助け・・・!
三主将に大変失礼なことを考えつつ、「赤葦まだ食い足りねーの?」「何だ、結構食うんだな。去年はそんなイメージなかったけど」「遠慮してたんですよ」と会話しながらもぼくの皿からひょいひょいと肉や野菜を持って行ってくださる京治先輩を、尊敬のまなざしで見つめる。
さりげなく半分以上引き受けてくださった上、「・・・ここは俺が相手しとくから、静かなところでゆっくりしておいで、」なんてボソリと耳打ちされて。
申し訳ないのと情けないのとで涙が出そうだったけど、何とか堪えて「ありがとうございます・・・っ!」とお言葉に甘えさせていただくことにした。
本当なら先輩からいただいたものはぼくが食べるべきなんだろうし、三年生の先輩の相手を二年の、しかも他校の先輩に任せるなんて、失礼にも程があるという話なのだろうけど・・・いかんせん本当に、もはや肉の匂いだけでこみ上げてくるものがあった身としては、本当に申し訳ないが、申し出をありがたく受けたほうが身のためだと察してしまったのだ。
近いうちにお礼をしなきゃな・・・と思いつつこっそりと主将の輪から離れ、それでも右手にずっしり乗るおにぎりをどこで食べよう・・・とあたりを見渡す。
まだ半分くらいの人がバーベキュー台の傍に立っている中、少し離れて体育館の入り口の階段に腰かけている数人。
座っている人たちの顔触れを見て、あそこなら、と断られないかドキドキしながら近づいた。


「あ、あの・・・月島君、こ、孤爪先輩・・・ここ、一緒に座ってもいいですか・・・?」

「・・・え、・・・うん・・・」

「・・・別に僕らで独占してるわけじゃないんだけど」

「ご、ごめん・・・」


邪魔じゃないか、という意味で聞いたつもりだったけど、悪い意味にとられてしまったらしい。
言い方に気を付けないとな・・・と反省していると、月島君がぼくの右手を見て嫌そうな顔をした。


「・・・それ、さっきも見た。大地さんに押し付けられたの?」

「えっ!?あっ、いや、お、押し付けられたわけじゃ・・・」

「・・・食べれるの?」

「う・・・・・・」


合宿中はよく食事を一緒にとっていたから、お互いに食が太いほうでないことは承知している。
そこからしたら明らかにキャパオーバーなサイズに、何かを察した月島君がはぁ、とため息をついた。


「・・・僕も丸々一つは無理そうだったから、手、出さなかったんだよね。少しもらってもいい?」

「あ・・・う、うん!う、上はもう僕、齧っちゃったから・・・」

「見ればわかるよ」


僕の手元のほうに手を伸ばし、端から三分の一ほど軽く割って取っていく月島君。
それだけでも一気に軽くなった右手にほっとしていると、「・・・俺も少し頂戴、」と孤爪先輩がさらに反対側から三分の一ほど持って行ってしまった。
身の丈に合ったサイズになったおにぎりを思わずぽかんと眺めていると、そんな僕の様子を見て孤爪先輩はコテリと首を傾げた。


「・・・ダメだった?」

「いっいえ!む、むしろありがとうございます・・・」


先輩たちのことを考えるとあまり大きな声では言えないけれど、助かったと思ってしまったのは本当だ。


「・・・大野はNOを言えるようになるべき」

「あぅ・・・」


もっともな孤爪先輩の言葉に若干萎れると、月島君もプスッと笑ったのが聞こえてきてますます小さくなってしまう。


「・・・まぁ、“らしい”んだけどね」


かすかに耳に届いた声に「ぇ、」と顔を上げても、月島君はもうおにぎりを食べることに集中しているようで、こっちを気にする様子もない。
聞き間違いだったかな、と首を傾げていると「・・・いつまでぼーっと突っ立ってるのさ」と厳しい声が聞こえてきて、慌てて階段に座り込んで両手のおにぎりと肉たちを食べ始めた。
・・・聞き間違いじゃ、ないなら。
僕のことを少し認めてもらえたような気がして、ちょっと嬉しいなぁ、なんて。
夏の日差しにやられたのか、月島君の赤くなった頬を見ながら勝手な想像を膨らませた。


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リクエスト:天兎様 ありがとうございました!
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