青城での生活


厄介な後輩ってのは、どの学校に行ってもついて回るものなんだろうか。
中学時代の飛雄ちゃんとは別の意味で厄介な、可愛くて可愛くない後輩。


「ホンット、圭吾ちゃんはいつまでも自信不足だね〜?もっと自信もちなよ!ほら、及川さんみたいに!」

「ぁ゛はっ・・・ひ・・・!?」


ゆるく弧を描く背中を遠慮なくバシッと叩けば、肺から空気が押し出されたような音が聞こえてくる。
振り返った顔は青ざめてて、なんとも加虐心をそそられるんだけど。


「聞く必要ねぇぞ大野」

「あんなやつに穢されちゃだめだからな」

「まともなおにーさんたちとの約束だ。いいな?」

「え、えっと・・・っ!?」

「ちょっとぉ!俺がまともなじゃないみたいじゃんその言い方!?」

「自覚もないとは・・・救いようのない奴」


酷くない!?とプリプリ頬を膨らませて怒っても、俺の扱いに(嫌な方向に)慣れてしまった三年生たちはうっとおしそうな顔をするばかり。
その三年生たちが壁になるように守る圭吾ちゃんだけがオロオロしてるあたり、ホント、いい子だよね〜と頭を撫でてやりたくなる。
ま、実際伸ばせば壁どもに叩き落されることが目に見えてるから、そんなことはしないけどさ。


「こらそこ、何遊んでるんだ!さっさとポジションにつけー!」

「やばっ」


溝口クンの罵声に、慌ててそれぞれのポジションへ走る。
しれっとすでにポジションについている狂犬ちゃんにひくりと頬が引きつったけど、申し訳なさそうにしてる金田一を見ると文句も言えないし。
いつも通り、セッターポジションに立つことで気持ちを切り替えて、ネットの向こうに視線を送る。
国見と二人、他の連中と反対の方向に向かった圭吾。
・・・ホント、普段は自信ないくせに、さ。


「おーし。じゃあサーブカット練習、始め!大野、国見、頼んだぞ」

「ハイ。・・・大野先どーぞ」

「はっ、はい!・・・―――いきます」


エンドラインを超えたとたん、がらりと変わっちゃうんだから。


「っ及川!」

「はいはいーっと」


これには中々慣れないね・・・と、顔に出さないように心の中で呟いて、ほとんどロクに俺のところに戻ってこないボールを追いかけた。











威力だけがサーブじゃない。そう思い知らされた、この4月。
フローターサーブの存在は知っていた。けれど、ほとんど変化のかからない“フローターサーブもどき”を見るたびに、その重要度は下がっていっていた。
その認識が間違っていたのだと、彼のサーブを見た瞬間に鳥肌が立ったのを覚えている。
毎日受けても、攻略できない圭吾のサーブ。
当然、レシーブする側が下手なわけではない。証拠に、圭吾以外がサーブを打てば十中八九自分の真上にボールは届く。
もし、圭吾が他校の生徒だったら―――


「・・・考えたくもないね」


今度は上手くレシーブされたボールを軽く上げながら、アレを受け続ける試合を想像する。
圭吾はそのときの状況次第で出す手を変えるけれど、一本目はおそらくフローターだろう。
圭吾がピンチサーバーとして出てくるときにはすでに自分がサーブを打っている可能性が高いし、そうなれば圭吾のドライブサーブは自分のそれよりは威力が低い。
その分“穴”に落とす精度は数段上だけれど、それは確実な“穴”が相手コートにあればの話。
そこそこの実力者が相手―――例えば、ウチが相手ならば、ウチには打ち手の居ないフローターを使って様子を見るだろう。
それがハマればそのまま続けて、相手が警戒し始めたところでネットインか。


「・・・は、」


そこまで想像して、不毛なそれに小さく頭を振る。
結局、どの手を出すかなんてその時の状況次第で、圭吾の思惑次第なのだ。
だったら圭吾をもっと観察して、プレイスタイルを研究した方が参考になる。


「(主将が味方の実力を把握しきれてないなんて、かっこ悪いだけだもんね)」


ドライブサーブも、威力は低くても精度は抜群。
フローターサーブは完全な無回転で、こちらも狙い通りの場所に向かう。
さらにネットインを使いこなして、そのうえ最近、嫌な覚えのある―――そう、牛若ちゃんのようなサーブまで使い始めている。
一体サーブだけでどこまで行く気なのか。
・・・でも。


「オイクソ川、大野睨んでんじゃねえよ!ビビってんだろうが!」

「!?睨んでないよ!?ちょっと国見ちゃん、圭吾ちゃん隠さなくていいから!」


及川さんの目を舐めないでね?
最近レシーブにも力を入れ始めたこと、ちゃーんと知ってるから。
コーチのスパイク拾えるようになってきてるの、時々見かけるんだよね。
その力、たとえスパイカーじゃなくたって。俺と一緒のチームにいる限り、上手に使ってあげるからね。


「矢巾ちゃん!及川さんと代わってよ〜俺も圭吾ちゃんのサーブ受けたい!」

「え・・・あ、はい」

「何その露骨に嫌そうな顔!?」

「大野がサーブの時走り回るからじゃねえの?」

「ご、ごめんなさぃい・・・!」


だから、その力。全部見せて?


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リクエスト:かな様 ありがとうございました!
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