狼と仔羊・後編
「…圭吾って意外と恥ずかしいこと言えるよな」
「ぅっご…ご、ごめんな、さ…」
「けなしてねぇよ」
いいんじゃねえの、と言われて、そんな、と言いかけて、卑屈すぎて腹立つと前に言われたことを思い出して口をつぐむ。
そうするとすぐに烏野のサーブが始まって、自然と注意はコートの中へ。
京谷先輩を狙われたサーブは、マッキー先輩が獲って。
京谷先輩が、スパイクに入るための助走距離を、確保して。
ぐわり、と効果音がつきそうなほど、反り返る身体。
三日月のようなそれから、一気に逆に折られる身体から繰り出されるスパイクは。
「っしゃあ!」
−−−本当に、強烈で。
「…かっこいいなぁ…」
自分には逆立ちしてもできそうにない。
それはもう、努力とかそういうのじゃなくて。
あんなかっこよくはなれないっていう、自明の理、みたいな。
ーーー僕にもあれができたら、コートに立てていただろうか。
いやいや、先輩を差し置いて、自分が出ようなんて、烏滸がましいにもほどがある。
ーーーでも。
「山口10点獲れ!」
向こうのコートから、激励が聞こえてくる。
ピンチサーバーを使うんだ。
「ーーーいいな」
思わず口から出た言葉を、はっとして口をつぐむ。
そんなこと、言ってもしょうがない。
僕の実力ではピンチサーバーとしても実力不足、それが現実。
ーーーでも。
ステージに立ちたい。あの、全てが集まるステージへ。
エンドラインから見る景色を。高揚を。息苦しさを。張り詰めた、世界を。
あの一瞬を、感じたい。
…でも、足りない。そのためにやらなきゃいけないことが、つけなきゃいけない力が山ほどある。
まだまだ、あの先輩たちの背中は、遠くて、大きいのだから。
「…ーーーよく戦った」
ーーーそれでも、負けた。
先輩達が泣いてないのに、こんなにボロボロと泣く自分は変なのかな。
せめて、と声を堪えながらしょっぱいラーメンをすする。
鼻が詰まってむせて、先輩達を笑わせられたのは、いいことだったんだろうか。
泣きすぎて目がもったりしてきた頃、ようやくラーメンも食べ終わって解散の流れ。
「じゃあなー」と手を振る先輩達に頭を下げて、母さんにこんな顔見られたくないな、なんて考えながら自分も帰路について。
「…お前」
「ひゃいっ!?」
振り返った先に居た、先に帰ったはずの京谷先輩に、心臓が飛び出るんじゃないかってくらい驚いた。
普段出せないような声で返事しちゃったから、驚かせてしまったようで京谷先輩も目を少し見開いている。
悪いことをしてしまった、と再び口を開ければ、ギン!と目が鋭くなって。
「…ごめんなさい…」
「…来い」
蚊の鳴くような声になった謝罪はあっさりと空気に溶けて、聞こえなかったのかすぐに歩き出す京谷先輩に、無視して帰るなんていう選択肢は初めから存在していなかった。
「久々に来たと思ったら荒れてんな〜…で、そいつ誰?」
「ぁっ…!?す、すみませ…っ!?あ、ぇ、あ、…っ!?」
「は?おいおい、お前舎弟でも作ったのか?」
「…っち。おい」
「はぇっ!?」
顎をクイ、と動かせば、少し戸惑った後、対人の位置にポジションを取る。
転がってたボールを拾って、大野に放る。
キャッチした大野に舌打ちをすれば、慌てて投げ返してきて。
アンダーで返して、大野がトス。
そうだよ。最初からそうしてりゃいいんだ。
いい具合に上がったそれを、全力で大野に向かって叩きつけた。
「…っ!!!」
構えたはいいが、バチィン!と皮膚の弾ける音を立てて、二の腕辺りに当たったボールは明後日の方向へ飛んでいく。
さっさと取りに行け、と睨みつければ、ピッと飛び上がった大野が、腕を抑えながら走っていき。
泣きながら戻ってきた大野に、本題を切り出した。
「俺のスパイク取れるようになれ」
「えっ…えぇっ…!?」
それ以上、話す必要なんてない。
「やーやー諸君。新チームでうまくやれてるかね?」
「ステップ遅え!さっさと動け!」
「ふぇぇえっ!」
先輩ガン無視、阿鼻叫喚。
せめて圭吾ちゃんは尻尾振って迎えに来てくれると思ったのに、金田一も「あ、お疲れ様っす」って、扱い雑じゃない?
…まぁ、みんなが見てるモノ見れば、それも察しがつくんだけどね。
「…何アレ。狂犬ちゃんの最近のブーム?」
「スパイク練に付き合わせるんすよ」
少し苦々しそうに言う金田一に、へぇ、といろんな意味の声が出る。
あれじゃイビリだ、と聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟く国見ちゃんにおや、と見れば、声の通り不服そうな表情。
…成る程ねぇ。ま、狂犬ちゃんがそんなことわざわざ言うわけないか。
「…素直じゃないねぇ」
「え?」
ここはひとつ、先輩として橋渡ししてあげましょうか。
「烏野のピンサー君が身体に当ててボール拾ったことあったでしょ。極端な話だけど、あれができれば圭吾ちゃんが“穴”になることはないからね」
きっと狂犬ちゃんが考えることなんて、そんなところ。
説明せずにスパイクを打ち込まれ続けるあのへなちょこ君がどう考えるかなんて、二の次。
でも、まぁ。
「オラァ!」
「ひいいぃっ…!!」
ガチ泣きしながらもボールに向かう圭吾ちゎんは、マイナス思考と感謝することについてはピカイチだから、きっと卒業前にはお前を慕うようになってるよ。
不思議そうに顔を見合わせる二人をよそに、また見に来よう、と今後の二人に想いを馳せた。
=〇=〇=〇=〇=〇=
リクエスト:藤盛様 ありがとうございました!
if “もし青葉城西高校に入学していて烏野との試合に出てたら”
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