いい後輩だな!


「大野!サーブのアドバイスくれよ!」

「田中先輩・・・はサーブ、左に流れるくせ・・・ありますよね」

「・・・マジ?」


打って返すような反応に、思わずそんな言葉が口をついた。
内容にもだけど、まさか大野からこんなあっさりとアドバイスがもらえるとは。
虚空を見てたから暇なのかと勝手に思ってたが、もしかして何か考え事でもしてたのか?
ぼんやりとした表情のまま振り向いた大野の口からぽろりと出た発言は“思わず”という言葉がぴったりで、珍しい反応に思わず足を止めてしまった。
驚いたのは言った本人もだったようで、目に光が戻ったと思ったら一気に顔色が真っ青になる。
おぉ、いつもの大野だ・・・と思っちまっても、別に変じゃないよな?


「・・・!!すっすみません・・・!わかったような口利いて・・・!!」

「は!?ちっげーよ!!つうかその通りでだな!!」

「ごめんなさいいいい・・・!!!余計なこともう言わないように気をつけます・・・!!」

「っだー!!!」


思うようにいかないやり取りに、頭を掻き毟って一度言いたいことを整理する。
突然の大声に大野はビクリと肩を揺らしたが、まぁそれもいつものことっちゃいつものことだからな。
ふぅ、と気合を入れて顔を上げれば、恐る恐るこっちを伺っていた大野と目が合った。
・・・と思ったら逸らされた。
入れた気合が抜けていく感覚がして、今度は音に出ないようにため息をつく。


「あのな、大野・・・」

「はっ・・・はぃ・・・」


スミマセン、と小さく続ける大野は、きっとこれ以上謝っても逆効果だとわかってはいるんだろう。
それでも口をついて出てくるそれは、もう口癖と思うしかなさそうだな。
あのな、と言いそうになるのをぐっと堪えて、愚痴るように頭をかいた。


「・・・確かに俺、意識しねえとサーブが左に流れるくせがあるんだわ。一応掌外に向けるように気をつけて打ってんだけど、たまにアウトになっちまうしよぉ」

「そ、そうですよね!お、親指意識すると、右に向かいますよね・・・!」

「親指?へぇ、そういう考え方もあんのか」


コクコクと頷きながら弁解するように言い募る大野は、焦っているのかいつもより口数が多い。
ポロリと漏れた一言に普通に感心して真面目な顔で頷けば、まるでまずいことを言ったとでも言わんばかりにその首がプルプルと横に振られた。


「あっでも右にリベロがいるときは左に向かうサーブ、いいですから・・・!どうしても狙ってる場所を見ちゃいますから、相手にとっても予想外の方向に来ることになるというか・・・!いい一歩遅れるだけでも、十分レシーブは崩れるっていうか・・・!」

「お、オウ?」

「あっ・・・ご、ごめんなさい・・・!も、ほんと余計なことばっかり・・・!!」


思わぬマシンガントークに一歩圧されて少し頭を引けば、はっと口を押さえた大野が今度は真っ赤になった顔を伏せる。
さっきから珍しい顔の連発に、とうとう驚きが通り越した。


「・・・ブフッ」

「!?」

「だーっはっは!!なんだよ大野、サーブのことになるとほんとすげえな!!」

「!?そそそそ、そっ、そんなことは・・・!!」

「どもりすぎだっつーの!」

「す、すみません・・・」


慌てて手を振る大野の背中を叩きながら笑えば、困ったような顔をしながらもほっとしたように少しだけ笑顔を見せる大野。
さっきまでの緊張しきった感じから少し肩の力を抜いた様子に、お、と軽く目を見張った。
・・・やっぱり真面目な顔より軽い感じのほうが話しやすいのか?
こうやって背中叩いたりすると、普段ならほんとに困った顔するしな。


「でも助かったぜ!親指に意識だな!」

「う、うぅ・・・た、多分・・・ですけど・・・」


自信なさ気な大野はいつものことだから、「おう!」と軽く流して近場のボールを拾い、サーブポジションにつく。
俺だって、大野がいつも通りじゃなかったらちょっと「お?」ってなる。
気にしいの大野なら、それをどんどん悪いほうに考えても不思議じゃない。
親指を意識してサーブの構えをつくりながら、ふむ、と考える。
大野の考える“普段の俺”が、常に笑顔なやつなら。

・・・大野は、俺が笑顔ならほっとできるってことか?

ぽん、と軽くサーブトスを上げて、親指を意識!と念じながら中心に手を当てる。
バシン!といい音を立てたボールが思った以上に真っ直ぐ飛んでいく感覚に、「よっしゃ!」とガッツポーズを取ってから、様子を伺っている大野に向かってVサインを作って見せた。
ほっとしたように笑ってぺこりと頭を下げる大野は、そっと目を逸らして自分のサーブに移る。
いつも通り勢いよくコーナーに飛んでいったドライブサーブを見送ってから、次のボールを拾った。
俺が笑顔だと大野が安心できるっつーなら。
再び親指、と意識してサーブの構えを取って、ニヤリと笑う。
なら、お前の前ではいつでも笑顔でいてやろうじゃねーか!
上げたトスに掌を合わせて、思い切り腕を振り下ろした。





・・・気合を入れすぎたサーブは、盛大にフカして向かいの壁に激突した。


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