CP名、大谷地!
「うん、それからこのxの値をこっちに代入すれば・・・」
「あ、わかった!」
「ほんと?よかったぁ」
ほっとした顔をみせる大野君は、自分が解いたわけでもないのに本当に嬉しそうにしてくれる。
答えを教えるばかりじゃなくて、ちゃんと自力で解けるようにヒントを出すだけの大野君は中々の教え上手だ。
そりゃテスト前になると大野君と谷っちゃんの机の周りにバレー部が終結するわけだわ、と変なところで納得して、「じゃあ、次の問題もやってみる?」と小首を傾げる大野君に頷いた。
・・・ここに、ちゃんと谷っちゃんがいれば何の問題もないんだけどなぁ・・・
ため息をつきそうなのを何とかこらえて(絶対滅茶苦茶気にされる)、ひとまず問題文に目を落とす。
でも、昼間の出来事が頭をよぎって、どうにも問題の内容が頭に入ってこなかった。
『あれ、谷っちゃん休憩しないの?』
『うーん・・・さっきの授業、ちょっとわからないところがありまして・・・百華ちゃん、わかる?』
数学の授業が終わった休み時間。
席に遊びに行けば、教科書とにらめっこしてる谷っちゃんがいた。
へへ、と困ったように笑う谷っちゃんに、自分の目がキラリと輝いたのを自覚する。
日ごろから、大谷地を推している身としてはまたとないチャンスだわ・・・!
隣の席で大野君が本を読んでいるのを横目でチラリと確認して、谷っちゃんにはあえて少し大きめの声で返事をした。
『うーん、私もわかんないなぁ。あっ、大野君ならわかるんじゃない?ねぇ、大野君ここわかる?教えてくれない?』
『『えっ?』』
『あ、もう授業始まっちゃうね、そうだ、二人とも部活前の放課後時間ある?そこで一緒に教えてもらえると嬉しいな!』
『あ・・・えと、ぼ、僕でよければ・・・』
『お、おぉう!?お、お願いシャス・・・!』
二人して目をまん丸にする表情に笑いそうになりながら、「よろしくねー!」と谷っちゃんの教科書を閉じさせる。
大野君が数学得意なのはクラスで周知の事実だし、よくバレー部の面子に教えてるし、何もおかしくはないはず。
ちょっと強引すぎた気がしなくもないけど、そんなもの大谷地クラスタにとったら無問題!
どんな口実を使って席を離れようか、うきうきルンルンで何通りも作戦を立てたのに!
「あの・・・大丈夫?何を聞かれてるのか整理すれば、大丈夫だと思うんだけど・・・」
「あっうん!ごめん!」
長いこと固まってたのか、大野君が不安そうに声を掛けてきて慌てて問題文を見直す。
・・・うん、さっき教えてもらった問題と似てる。
使えそうな公式を片っ端からノートの隅に書き出していけば、安心したのか大野君もノートを机の縁に立てかけてカリカリとシャーペンを動かし始めた。
始めの頃に何をしているのかと聞いたら、同じ問題を解いて、教え方を考えるんだと恥ずかしそうに教えてくれたそれ。
「教えるの、得意じゃないから」と申し訳なさそうに言っていたけど、だったらすごく助けられてる私たちは何なんだって話なんだけどな。
シャーペンの動く音が比べ物にならないくらい速いことにすごいと思いながらも若干引きながら、書き出した公式の中で使えそうなものをピックアップして代入していく。
着々と定着していく数学力に、頭を過ぎるのはたった一つの思い。
どうしてこうなった。
私は谷っちゃんと大野君のもどかしくも甘いいいぞもっとやれな空気をドアの隙間から覗きたかっただけなのに!
何で谷っちゃんってばこんなときに限って先生に頼まれごとされちゃうの!?
授業の準備係なんてものになってる谷っちゃんが先生に声をかけられたのを聞いたとき、多分私が一番ショック受けてたと思う。
先生に「何でお前がそんな顔するんだ」って言われたし。
だって先生。大谷地ですよ?生ですよ?じれったくって一番楽しい時期ですよ??
見逃したくないじゃないですか!
私は教えてもらったからって二人で勉強させる手もあるけど、それだとどこで開催されるかわからないし。
ううぅ・・・と数学の問題ではなく乙女の問題に唸り声を上げながら手を動かす。
えーと、xがここで、この公式が使えるから代入していって・・・
・・・あ、違う違う。こっちかな。
何の気なしに、消しゴムに手を伸ばす。
―――それが、間違いだった。
「っ」
「っあ、ごめ・・・」
完全に、事故。
重なった手は、一瞬で離れる。
けど、その一瞬で出来上がった雰囲気は、簡単には数式に集中させてくれなかった。
そもそも私が手を伸ばした消しゴムは大野君ので、すべてにおいて私が悪いんだけど!
「・・・谷っちゃん遅いね、まだかかるのかな?」
「う、ん・・・手伝い、行ったほうがいいかな・・・?」
「うーん。そだねぇ・・・でもどこにいるんだろ」
適当に話をそらせば、少しぎこちないけど大野君ものってきてくれる。
お互いまだぎくしゃくとはしつつも、何とかまたノートに向かえる空気はできた。
でも、好きとか、そういう目で見てるとか・・・、そういう理由がなくても、心臓は正直に速くなるわけで。
・・・ていうか、普通に良物件なんだよ大野君って!
頭いいし、優しいし、運動できるし!小学校ならヒーローだよ!!
顔だって悪いわけじゃないし、背だって高い!
でも、谷っちゃんだから!あなたのお相手は私じゃなくて、谷っちゃんだから!
お願いだから、こういう胸キュンハプニングは彼女カッコカリとやってください!
そしてあわよくば影から見守らせてください!!
「・・・あ、もう部活の時間だね」
悶々とシャーペンを動かしていれば、部活の時間を告げる予鈴が鳴り始めて癖のように時計を見上げる。
結局戻ってこなかったなぁ、と残念に思いながらそう言えば、大野君も時計を見て困ったように眉をハの字にさせた。
「そう、だね。ごめん、最後の問題、解けそう・・・?」
「うん、大丈夫大丈夫!後は自力で何とかするよ!」
ありがとね!と笑えば、「なら、よかった」とふわりと微笑まれて・・・
だから、そういうのやめろください。
ドキ、と高鳴った心臓が気のせいじゃないことはわかってるから、やめろください!
「私は大谷地主義だから・・・!」
「おおやち?」
「なんでもない!また谷っちゃんにも教えてあげてね!」
慌てて荷物をまとめれば、釣られるように大野君も片付け始める。
少女マンガのようにこの空気を谷っちゃんに見られて、泥沼三角関係なんて絶対に嫌だしね!
大丈夫!廊下を走り去っていく音とか聞こえないから、フラグ立ってない!
「うん、・・・百華さんに一回教えたから・・・、谷地さんには、もうちょっと上手く教えられると・・・いいな」
「・・・んっ?」
「えっ?」
「う、ううん。なんでもない。十分上手いから、大丈夫だよ」
「そう、かな・・・」
何で名前。何で名前呼び!?
い、いや。落ち着け私。きっと谷っちゃんが名前で呼ぶからそっちで覚えちゃって、思わず言っちゃった系だから。
フラグを拾うな。折っていけ私!
かばんにノートを片付ける体で、大野君と目を合わせないように俯く。
これ以上追い討ち掛けないでください、お願いします。
そう、願ったのに。願ったのに・・・!
「でも、僕も、おかげで復習になったし・・・その、よければ、また、やろう・・・?」
照れくさそうに、頬をかきながらそんなこと言われちゃって。
さっきから鳴りっぱなしの胸に、半分くらい諦める覚悟をした。
「・・・そのときは、谷っちゃんもね!」
きっと赤くなっているであろう顔は、深く俯くことで何とか誤魔化して。
詰め込んだかばんを胸に抱えて「ほんと、ありがとう!じゃあ部活頑張って!」と言い捨てるようにして教室から逃げ出せば、廊下には誰もいなくて極限にほっとする。
心臓を落ち着けながら歩いて、頭を抱えたいような気分になった。
・・・谷っちゃん、がんばれ。本気で。
きっと、ライバルはたくさん居る。
大好きな二人だからこそ、二人ともが幸せになれる道を。
どうか、二人に幸せが訪れんことを。
「・・・明日はどんな胸キュンが見られるかなぁ!」
少しだけ重くなる足には気付かない振りをして、次なる大谷地作戦を考えながら帰路に着いた。
=〇=〇=〇=〇=〇=
百華様よりリクエスト、「へなちょこに家庭教師してもらいたい願望」ありがとうございました!
back