慈愛の目
「あーもー最悪ー!なんでクリスマスに岩ちゃんと買い出しに出なきゃいけないの!?絶対勘違いされるやつじゃん!4足歩行の子達にめっちゃ喜ばれるやつじゃん!!」
「ウルセェ!ジャンケン負けたんだから仕方ねぇだろ!!」
「まーでも?岩ちゃんはクリスマスに予定ができて嬉しいんじゃないの?俺と出かける予定が入らなかったら、家で一人寂しくケーキつついてたんでしょ?」
「八つ当たりしてんじゃねぇよ!」
「クリスマス直前に振られた男にその言葉は凶器!!」
ギャンギャンと騒がしく言い合いながらも、メモを片手に頼まれた品物をポイポイと籠に放り込んでいく。
「「いってらっしゃ〜い」」とゲス顔でヒラヒラと手を振った他の部員たちは今頃それぞれ好きに時間を使っているのだろうと考えるとちょっと青筋が浮かびそうになるが、それくらいはご愛敬ってやつ?
むしろばっくれなかっただけ感謝してほしいね!すぐに必要だからって、何も今日じゃなくてもよかったんじゃない!?
身長も高く顔だちも整っているとなれば普段だって目立つ自分たちだが、周囲がこうも男女の組み合わせばかりだと、今度は嫌な意味で目立ってしまう。
なんでただのスーパーにカップルで来るんだよ・・・!とやり場のない怒りに打ち震えていると、同じように不機嫌面だった岩ちゃんがふっと何かに気付いたように「あ?」と声を上げた。
「・・・オイ、あれ・・・」
「ん?・・・あっれー、偶然。烏野のへなちょこ君じゃ・・・」
何の気なしに声をかけようとして、誰かと話している様子にふっと口を閉じる。
話し相手は棚の向こう側で見えないけれど、普段のおどおどした様子が全くない。
・・・デジャヴって、たぶんこんな感じだ。
岩ちゃんと顔を見合わせて、そっと棚の向こうが見える位置まで移動してみる。
ついでにこそこそと声の聞こえる位置まで移動すれば、相手は案の定―――以前見かけた、大野の年上彼女だった。
「―――あ、これとこっちだったらお父さん、どっちが好きかな?」
「どっちでも喜ぶと思うよ」
「もう、同じ男としての意見を聞いてるんじゃない」
曖昧な返事に不満をもらす彼女に、しょうがないなぁ、と言わんばかりの大野。
家族公認だと・・・!?と高校生の想像の先を行く関係にゴクリと生唾を飲み込めば、岩ちゃんからも「マジか・・・」と小さく漏れる。
参考にした方がよさそうだ、とますます気配を消して様子を伺えば、“お父さん”へのプレゼントを決めたらしい彼女がクルリと大野に向き直った。
「貴方は今年のプレゼント何か欲しいものある?」
「うーん・・・あんまりお金かけなくていいよ」
「なら、今度ケーキバイキングにでも行く?」
「!行く!」
「うわぁ、あのへなちょこ君が即答」
「もうかなり続いてるんだな・・・」
ぱぁっと輝いた顔と弾んだ声に、本当にケーキバイキングが嬉しいんだろうと簡単に想像がつく。
主張らしい主張をまるでしない大野の好みを完璧に把握している様子に、いったいいつから付き合っているのかが少し気になった。
「・・・どうする?突撃してみる?」
「は?バカ、下手に首突っ込んでまた泣かれたらどうすんだよ」
「でも気になるじゃん!あのへなちょこ君の彼女だよ!?」
「あら、あの子達・・・#cho#の」
「・・・?・・・!?」
「(見つかった!しかも覚えられてる!?)はは・・・どうも〜」
「・・・ウス」
彼女さんに見つかって、気まずい感じになりながら棚の陰から姿を現す。
大野は案の定ものすごく慌てていて、でも挨拶もしてないのに逃げるのも、って葛藤がもろばれだ。
・・・まぁこっちも、若干どうしたらいいかわからないんだけど。
「こんにちは、いつも圭吾がお世話になってます」
「ア、イエ・・・」
冷やかしに「デートですか?」と当たり前のことを聞こうとするより一瞬早く、彼女さんにペコリと頭を下げられてしまって岩ちゃんがしどろもどろにペコリとお辞儀を返す。
大人の女の余裕、ってやつなんだろうか。ニコニコと綺麗な笑みを見せる彼女さんと、オロオロと様子を見守る大野の様子が対照的だ。
「・・・確かに、世話になってるといえばなってるけど」
「黙ってろ!」
「痛い!何すんの岩ちゃん!」
「お前が余計な事言うからだろうが!」
岩ちゃんに脇を小突かれて、思わずいつものように噛みついてしまう。
そんなやり取りを何度か見てきたはずの大野がそれだけで涙目だというのに、コロコロと笑う彼女は大物というか、なんというか・・・
「ふふ、仲がいいのね。この間も二人でお出かけだったけど、今日も?」
「いや、そういうわけじゃ・・・」
「部活の買い出しで、ジャンケン負けただけで・・・」
「あら、でもこんな日よ?誰かと代わったりもしなかったんでしょう?」
「それは・・・急いで買いに来ないといけなかったからで・・・」
まぁ、「岩ちゃんならいっか、」と、誰かに代わってもらうことは考えてなかったけど。
いや、そもそもあのゲス顔連中が代わってくれるとも思えないけど。
「いいじゃない、男の友情は色んな方面に需要があるんだから」
「は?」
「(この人!?)」
「まぁ、冗談は置いておいて」
「(この人・・・!?)」
どうしよう、この人に勝てる気が全くしない。思いっきり子ども扱いで、完全に遊ばれてる。
へなちょこ君、こんな人捕まえるだなんて意外とやるね・・・!?と若干顔を引き攣らせていると、急にすごく慈愛に満ちた表情になった彼女さんが、大野の背中を軽く叩いた。
「ぅっ?」
「こんなへなちょこな子だけど、この子なりに頑張ってるの。ちょこっとでいいから、背中を押してくれると嬉しいわ」
「ちょ、あの・・・!も、もういいから・・・!せ、先輩、あの、あの、し、失礼します・・・!」
耐えきれなくなったのか、腰から身体を曲げてお辞儀をしたかと思うとぐいぐいと彼女さんの背中を押して俺たちから離れていく大野。
ざわざわとしたスーパーの喧騒の中、ぽつんと取り残された俺たちはぼんやりとその後姿を見送った。
「・・・すげぇ・・・母性溢れる人だったな・・・」
「うん・・・やっぱり大野みたいな子って、母性本能くすぐるのかな・・・?」
「かもな・・・」
俺たちがそんな会話をしていたことは、大野の耳には届かない。
届いていれば、また何か違ったかもしれないが・・・それはあくまで、“もしも”の話。
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リクエスト:小珠様
「大野、母親とクリスマスの買い物、阿吽コンビと再会、クリスマスデートと勘違いされる」
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