力を合わせて


もみの木を取に行った部隊と、料理とケーキに精を出す面々。
ガランとしてだだっ広く感じる広間の中、秋田は乱・五虎退と一緒にべにの面倒を見ることになった。
いち兄に「任せたよ、」と言われて張り切って返事をしたものの、本音を言えば自分たちだってべにのためにクリスマスの準備を手伝いたい。
なんとなく気もそぞろなのがべににも伝わってしまったのか、さっきから一人遊びに集中してしまって・・・こういうときは下手に構おうとすると逆に怒ることを知っているから、ますます手持無沙汰だ。


「・・・何か、できることないかなぁ・・・」


ぽつりと乱が漏らした言葉に「うん・・・」と空返事をしながら、紺野にもらった写し絵をなんとなく手に取ってみる。
本丸の屋根以上の高さがありそうな三角の木に煌びやかな装飾が施されていて、とてもきれいだ。
木のてっぺんには大きな星がついていて、主役の存在を主張している。
枝に吊される装飾は、光を反射してキラキラと光るものや、雪のように白いもの。それから、色とりどりの・・・


「・・・これ、何が飾ってあるのかな・・・?」


小さいけれど細かく作られているらしいそれらにふと目が留まって、思わず疑問が口をついた。
つまらなさそうに髪の毛をいじっていた乱と、寂しそうに仔虎を撫でていた五虎退が同時に「「え?」」と顔を上げる。


「ほら、これ・・・七夕みたいに色紙で飾るのかと思ってたけど、もしかしたら、ちょっと違うのかも」


そう言って紙を渡せば、乱と五虎退が顔を寄せて覗き込んだ。
視線が紙の上を行ったり来たりして、「本当だ・・・」と五虎退が呟く。


「うーん・・・なんだか、家みたいな・・・?ものが、あるけど・・・」

「家・・・?」

「ほら、ここ・・・」


そう言いながら乱が指さすところをのぞき込めば、確かに形は家みたいで、ますます何を飾ればいいのかわからなくなってしまう。
これでは、木があっても肝心の飾り付けをすることができない。
でも、木を採りに行った面々がこんなカラフルな飾りを見つけてこれるとも思えないし・・・


「・・・!なら、この飾りを僕たちで作ろうよ!」

「え・・・?・・・あ・・・!」

「・・・!そうだよ!それならべにを見ながらでも準備できるし!」


名案!とばかりに全員で頷きあって、さっそく三振で改めて頭を寄せて紙をのぞき込む。
緑の青々とした木に付けられた色とりどりの飾り付けを今から自分たちの手で作るのかと思うと、なんだかとてもワクワクした。


「どんなのがあるかなぁ。七夕みたいに紙で作ると、雪で濡れて破れちゃうよね?」

「このキラキラしたのは何でできてるのかな・・・」

「キラキラ・・・玉鋼とか?」

「うーん・・・でも、もっとカラフルな感じだと・・・?」


“素材”というさっそくの難問に突き当たって三振でうーん、と唸っていると、後ろから「うー?」という声とともに腰のあたりに軽い衝撃が。
振り返ると、さっきまで少し向こうで遊んでいたはずのべにがすぐそこでこちらを見上げていた。


「べに様!こちらまでいらしたんですか?」

「あーい!」

「すごいですー!」


目が合っただけで嬉しそうな表情をする、最近かなり重たくなってきたべにの身体を膝の上に抱き上げて、「今、クリスマスツリーの飾りを考えているんですよ」と写し絵を見せる。
手を伸ばしてはっしと掴んだそれをじっと見つめるも、べには動くわけでもない紙にすぐ飽きたようで。
何もなかったかのように紙をぺっと捨てると、秋田によじ登ろうと手足をかけてきた。


「わわっ、べに様!危ないですよ!」

「んっ!ふんっ!」


身体をいっぱいに使って秋田の肩にまで登ろうとするべにに辟易しているのに、おろおろと心配するのは五虎退だけで、乱は「べにって最近飽き性だもんね」と向こうでほかられているおもちゃに目を向けている。
さっきまで遊んでいた、べにの顔ほどの大きさの人形・・・加州が手に軽傷を負いながら作った、よくわからないモノ。
本人曰く猫らしいけど、正直・・・。
まぁ、あげると割と長いことそれで遊んでいるから、気に入ってないわけではなさそうだし、それならそれでいいのだけれど。
べにが気に入らなくて、ほとんど使われずに箱の中に仕舞われたおもちゃもたくさん・・・


「・・・!そうだ!べにのモビールの飾りを参考にしたらいいんじゃない?軽いし、べにが口に入れても大丈夫なようになってるし!捨てるのはもう少し考えようかって押入れの奥に仕舞われたぬいぐるみがいくつかあったよね?」

「あ・・・!それならカラフルにできるね・・・!」

「それに、確か前頼んだ荷物の中に仕切り紙があったよね?あれ丈夫そうだったし、あれに絵を描いて吊るせばいい感じじゃない?」

「じゃ、じゃあ僕、鍛刀場で小さいキラキラを作ってみるね・・・!」


五虎退が水を得た魚のようにぴょんっと立ち上がって、「行こう、虎くんたち!」と仔虎たちを引き連れて部屋を飛び出していく。
その勢いに、思わずべにに上られていることも忘れて目で追ってしまって、パタパタと遠ざかる足音に乱と目を見合わせる。
きっと大量の玉鋼を持って戻ってくるであろう五虎退を想像して、乱と一緒に小さく笑い合った。


「絵は僕が描くよ。任せて、可愛いのたくさん作ってあげる!使われてないおもちゃも持ってきてあげるから、ちょっとべにをよろしくね!」

「はーい」

「あー!」


腕の上に落ち着いたべにの手を持ってばいばい、と振れば、嬉しそうに振り返して部屋を出ていく乱。
確か前に歌仙が「まだ早いだろうけど、」と紺野に頼んでくれた、クレヨンという色とりどりの線が描ける筆がある。それを取りに行ったんだろう。
それなら綺麗な絵が描けるだろうし、べにが近くにいても床が汚れる心配もない。
手を取られたべにが、秋田の指をぎゅっと握ってじっと見つめるのでぴこぴこと指を動かしてみせれば、はっと目を見開いた後恐る恐る反対の手を伸ばしてきた。
べにの反応に思わず笑うと、今度はこちらを見上げてきて、秋田が笑っていることに気付くとべにもニコッと笑って見せる。


「乱くんが帰ってきたら、べに様も一緒に描いてみてはいかがですか?」

「あーう?」

「きっと楽しいですよ!手を動かすと、そのまま紙に線が残るんです!」


こうやって、と握られた指をクレヨンに見立てて空中に丸や線を描く仕草をしてみせれば、真剣なまなざしで自分の手の動きを目で追うべに。
そうだ。べに様にも描いてもらえば、ますます最高じゃないか。
出来上がりを想像して、それに手を伸ばすべにを想像して、自然と頬が緩むのを感じる。


「楽しみですね!」

「たい!」


きっと世界に一つだけ、君だけのクリスマスツリーになる。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
リクエスト:うさ様
「粟田口短刀(薬研除く)だけでべにの世話」
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