君を想う幸せ


「・・・寝た?」

「・・・みたい」


布団の敷かれた温かい部屋の中から、聞こえてくる寝息は2つ分。
べにを寝かしつけて一緒に寝てしまったらしい大倶利伽羅に気付かれないよう、静かに襖を閉める。
そっと部屋の前から離れて、冬の夜特有のひっそりとした静寂の中、加州と燭台切はひっそりと言葉を交わした。


「クリスマスのイベント、残るはプレゼントかぁ・・・」

「いつも必要だと思うものは何とかして手に入れてるから、改めて贈り物って考えると困っちゃうね」

「私めは美味しいお稲荷がいただければ、これ以上の幸せはございま・・・むぐぅ」

「・・・声、大きい」

「鳴狐」


ひょっこりと広間から顔を出した相手の名前を呼べば、寡黙な本体からコクリと首肯が返ってくる。
室内の静かな気配に「片付け終わったの?ありがとね」と礼を言えば、今度は左右に振られた。
大方「気にするな」という意味だろう。
首の動きだけで大抵の意思疎通をこなす本体の分まで張り切るお供は、口をふさがれてもぶんぶんと尻尾を振って意思表示をしようとするのだから、ある意味バランスが取れているのかもしれない。
隣で「うーん」と唸っている燭台切は、お供の狐に言われた提案を真面目に考えているらしいが。


「美味しいもの・・・は、ケーキを用意しちゃったし、夕飯の残りもいっぱいあるから・・・」

「第一、枕元に置いておくんだよ?それが食べ物ってどうなの」

「はうぅ・・・」


近侍とその右腕に却下されて、お供の狐はしおしおとその尻尾を萎えさせる。
へたりと耳まで垂れ下がる姿には同情を禁じえないが、それとこれとは話が別だ。
うーん、と二振りで頭をひねらせていると、お供を撫でていた鳴狐がチラリと視線を向けた。


「・・・なら、おもちゃはどう」

「おもちゃ・・・おもちゃ、かぁ」

「まぁそれが無難だよね」

「無難で終わりたくない気持ちも、わかる。けど、準備の時間も考えないと」


鳴狐の言葉は正論で、実際、クリスマスが終わってしまうまであと何時間もない。
べにが起きるまでにできていればいいのだけど、それを含めても残された時間はあとわずか。
少しだけ手を尽くし損ねた感は否めないけれど、それで行くしかないか、と小さくため息をついた。


「それもそうだね。おもちゃなら、急いで紺野に頼まないといけないし・・・」

「あっ、あのっ!」

「・・・ん?」


まだ連絡つくかな、とこんのすけを呼び出そうとしたとき、鳴狐の後ろ、広間から五虎退が飛び出してきた。
「あっ、あのっ!ああああの・・・っ!」と緊張で目を回しかけている様子に「なーに?」と気楽に問いかければ、ごくりと喉を鳴らした五虎退が決死の思いで口を開く。
そんなに緊張しなくても・・・と思いつつ言葉を待って、その提案に軽く目を見開いた。


「て、手作りのおもちゃにしませんか・・・!?」

「・・・手作り、おもちゃ?」

「僕たち、秋に拾ったどんぐりでいろいろ作ってみたんだ」

「僕たちだけじゃ上手くできなかったので、まだ使ってないどんぐりと一緒にしまってあるんですけど・・・皆さんが手伝ってくれたら、きっといいものができるんじゃないかな、と思って」


援護射撃のように五虎退の後ろから出てくる乱と秋田。
独楽とか、やじろべえとか。
お馬さんもできたんですよ!と熱弁する様子に、ちょっとした興味もわいてきた。


「手作りのおもちゃか・・・」

「今から頼んで紺野がすぐに動いてくれるとも考えにくいし、とりあえず今年はその線でいこうか。クリスマスは毎年来るんだし、来年はもっとしっかり準備しよう」

「・・・そーね。よし!じゃあみんなで作ろっか!」

「「おー!」」「はっ、はいっ!」


燭台切の言葉を後押しに、さっそく全員でプレゼント作りに取り掛かる。
短刀たちが持ってきたどんぐりは本当に大量で、よくこんなに手に入れたな、と思わず感心してしまった。
一抱えもある大きな容器に並々と入ったどんぐりは、ただ手を突っ込んだだけでもゴロゴロとあちこちに転がって不思議な感触が楽しめる。


「こ、これ、僕が作ったんです・・・!つまようじを刺すのが・・・あの、あの、む、難しくて、ぼ、僕が上手く作れたの、これだけでぇ・・・っ」

「へぇ〜。よくできてんじゃん」

「・・・!はいっ!」


嬉しそうに差し出された独楽は、どんぐりの傘があった部分に爪楊枝を刺しただけの簡単なもの。
それでもクルクルと回る様はべにの目を引くだろうし、違う形のどんぐりで作ればまた回り方も違うだろう。
試しに、と丸いどんぐりで一つ作ってみれば、何故かひっくり返って爪楊枝の部分を軸に回ってしまったし。


「これは・・・逆にすごいな」

「一体どういうカラクリを仕組まれたのですか?」

「俺が聞きたいよそんなの!」

「面白いけど、長く回すのには向いてないね」

「はぁ?ならお前も作ってみろよ。どうせ大して回らないやつしか作れないくせに」

「・・・は?少なくともお前よりは回る自信あるね」

「こらこら二人とも。作るのは独楽だけじゃないんだよ?」


燭台切が呆れたように笑ってるけど、ちょっとこの勝負は負けらんない。
独楽作りに熱中し始めた俺たちを横目に、他の面々はやじろべえや人形を作り始めた。


「うーん・・・流石に二本足では難しそうだね」

「うわっ、この虫みたいなの何?」

「・・・ハイハイするべに様を表現してみたのだけれどね・・・」

「・・・!あっ、え〜っと!あ、頭をつけてみたらまた変わるかもね!?あっ、歌仙すごー・・・すごっ!?」

「ふっ・・・雅を求める者、これくらいは作らないとね」


一体どうやったのか、どんぐりをつなげにつなげて大きな花のようなものを作ってみたり。
やじろべえのバランスがうまく取れず、悪戦苦闘してみたり。
あーだこーだ言いながら作っていたらみんないつの間にか眠ってしまっていて、翌朝べにを抱いた大倶利伽羅に呆れた顔で呼び起こされる羽目になった。



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リクエスト:匿名様
「子育奮闘記で一話」
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