僕たちには君の笑顔が


結局“朝起きたら枕元にプレゼント”作戦は失敗してしまったわけだけれど、べには手作りのどんぐりおもちゃを結構気に入ってくれたようだった。
勿論、独楽もやじろべえも、一人で遊ぶことはできないんだけれど。


「べに様、いきますよ?」

「あー・・・!」

「せー・・・のっ!」

「きゃーっ♪」


畳の上で回せば、畳の目に引っかかってコロコロと軌道を変える独楽を楽しそうに目で追って、時折はっしと掴みにかかる。
手の中に収まったそれがもう回っていないことに気付くと首を傾げて、「止まっちゃった」と言いたげな目で見上げる。
それに笑ってもう一度回せば、やはり目を輝かせて歓声を上げる、というのを飽きもせず繰り返していた。


「秋田!もう一回勝負勝負!」

「もちろんです!負けませんよー!」

「たーいっ!」


浅く広い皿を台所から持って行って、何を始めるのかと思えば今度はどんぐり相撲。
二つのどんぐりを皿の中で同時に回し始めて、ぶつかってもなお回り続けるのはどちらかという勝負だ。
よくそんなにいろいろと思いつくな、と爪の手入れをしながらぼんやりと眺める。
加州の作ったどんぐりは曲芸に関しては誰にも負けていないけれど、そういった勝負には残念ながら弱かったようで、すでにべにの興味からは外れてもうどれが加州のかもわからない。
ならば、とたくさんのどんぐりを糸でつなげた首飾りは、気に入らなかったようですぐに外そうとしてあっさりと千切れてしまったし。
むしろ、千切れた時にどんぐりが飛び散った様子が楽しかったようで目を輝かせて笑ったときは、笑えばいいのか悲しめばいいのかわからなくなってしまったのだけど。


「ちょっと複雑な気分」


ぼそ、と口の中だけで呟いてみると、いっそう自分が寂しい者のような気がして眉間に皺を寄せる。
しかも、近くで茶を啜っていた安定には聞こえてしまったようで、「弱かったもんね」なんてチクリとくる一言までもらってしまった。
事実安定の作った独楽には何度やっても勝てなかったし、何も言い返せなくて聞こえなかったフリでまた爪に集中する。


「やっちゃえみーちゃん!」

「うーっ、頑張れ!秋田号!・・・って、あっ!」

「あー!もー、勝負を邪魔したら駄目だよ、べに!」

「ぅ・・・?」

「独楽が欲しかったの?それならこっちにもたくさんあるのに」

「あい!」

「え?くれるの?ありがとう♪」

「きゃっあ♪」


声だけでなんとなく状況がつかめるあたり、べにも行動が読みやすくなったというか、突拍子もない行動が減ってきたというか。
チラリと横目で確認すれば、短刀三振りが再び大皿を囲む一方で、べにがまだ何も細工をしていないどんぐりが入った容器を真剣にのぞき込んでいる。
・・・あれは、ちょっと何やってるかわからないかも。
がらごろと音を立ててどんぐりを探っているようだけど、どれだけ探ってもどんぐりしかないのに。
少し観察していると、目当てのものでも見つけたのか、べにが容器から顔を上げて一番近くにいた五虎退にはいはいで近付いていく。


「あいっ!」

「え・・・?あ、はい・・・!」


突然拳を突き出された五虎退は一瞬戸惑ったようだったけど、すぐにべにが何かを渡そうとしていることを察して手を差し出す。
その手のひらの上でべにが上手に手を開くと、ぽとん、とどんぐりが一粒転がり落ちた。
目を瞬かせた五虎退は、べにが満足気な顔をしているのを見て、ぱぁっと顔を輝かせる。


「い、いいんですか・・・?っありがとうございます・・・!」

「あーっ♪」


返事を聞いて満足したかのように、べにはもう一度容器へ。
そしてさっきと同じようにがらごろとどんぐりを探すと、お眼鏡に叶ったどんぐりを手に、今度は秋田の元へと向かった。


「あい!」

「べに様、僕にもくれるんですか?ありがとうございます!」

「きゃーっ」


パチパチと手を打ち合わせて喜んでいるべには、また容器に手を突っ込もうとして容器のふちに手をかけ―――

ゴロゴシャァ!コロコロコロ・・・


「うわぁ!?べに様!?」

「っちょっとべに!大丈夫?」


思い切り容器をひっくり返して、どんぐりのシャワーを浴びてしまった。
驚いて固まっているべにに怪我はないようだけど、こうやって固まった後は号泣と決まっている。
案の定くしゃりと歪み始めた表情に、あぁきた・・・!と駆け寄って抱っこの構えをしたのだけど。


「ふぇ・・・!・・・?」

「・・・?」


あれ・・・もしかして、泣かない?
散らばったどんぐりの一つをじっと凝視したかと思えば、それに勢いよく手を伸ばしてしっかりとつかむべに。
そして近くで様子を見守っていた加州と大和守に気付いて。


「きぃー♪あいっ!」

「・・・・・・!!っありがとう!一生大事にするからね、べに!」

「重いんだよ・・・」


さっきまでの泣きそうな顔は幻だったのかと言わんばかりの笑顔に、安定の嫌味も右から左に抜けていく。
ペンダントにしようかなぁ、でも壊れちゃったら嫌だよね、でも常に身に着けておきたいしなぁ・・・!と一人悦に浸る加州に大きなため息をついた安定だったけれど、それもべにの手にかかれば一瞬。


「あい!」

「・・・ありがとね、べに」


自分がどれだけ柔らかい声と表情をしているのか、安定は気付いているんだろうか。
べににだけ向ける、優しい優しい声と顔。べにもそれに応えるように、かわいらしい笑顔を向けてくる。
はたと気付けばなんの細工もしていないただのどんぐりが一番のおもちゃになっていて。
どんなおもちゃよりも、それを介して遊んでくれる相手が一番のプレゼントなのかな、とか思ってみたりした。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
リクエスト:時永様
「べにとあった家族なクリスマス」
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