君らの見守り隊
揺れるロウソクの火。降り積もる白雪。涼やかな鈴の音。
聖なる夜、由来はキリストの誕生日だけど、今ではまさに恋人たちのための夜!
すれ違う人たちはカップルばかりで、物陰に隠れてこそこそと移動する私を変質者を見る目で見ているけど、今はそれどころじゃないんですよみなさん!
今度こそ!いや、今こそ!!大野君と谷っちゃんの間に恋のキューピッドが舞い降りるときでしょう!
クリスマスなんて大イベント、お互いを意識するなって方が無理な話だよねー!
『ご、ごめんね?せっかくのクリスマスイブなのに、僕なんかと一緒に・・・』
『う、ううん!こちらこそ!むしろ、私は嬉しいですし・・・!?』
『えっ・・・や、谷地さん・・・!』
『あっ!い、今のは!えっと!』
『ぼ、僕も・・・』
『え・・・』
『僕も、嬉しい、です・・・!』
『大野君・・・っ』
『谷地さん・・・!』
みたいなね!?あってもいいよね!?
そんな妄想を繰り広げる私、二人のクラスメイトで谷っちゃんの友人である百華は、前を行く二人の姿を見失わないよう、こっそりと尾行を続けた。
ことの発端は、昼休みに大野君が小さなメモとにらめっこして困っていたのに声をかけたことから。
「何でもないよ!」と遠慮する大野君にあの手この手で詰め寄って、何とか聞き出した困りごと。
「親がクリスマスケーキを予約したらしいんだけど、都合で行けなくなっちゃって。僕が代わりにとりに行くことになったんだけど・・・、その、スマホ・・・忘れちゃって・・・お店の名前と電話番号は、メモをもらってたからわかるんだけど・・・」
これなんてビックチャンス!
きっとこのときの私の目は、キラーン!という効果音が付きそうなほど輝いていたに違いない。
「これ、やっちゃんの家の近くのお店じゃない?ほら、前に一緒に食べに行ったところ!」
「えっ?あ、そうかも・・・」
「案内してあげなよ!ここって確かイートインもあるし、一緒に食べてくれば?」
「えっ・・・えぇっ!?で、でも百華ちゃんと・・・」
「あー私予定入っちゃったんだよー。残念だけど行けそうにないんだよねー」
「え、えええええ・・・」
相当な棒読みだったかもしれないけど、こんなときにそんなこと気にしてらんないよね!
大丈夫!根拠はないけど大丈夫!
「大野君もいいよね!これで安心してケーキ買いに行けるんだからさ!」
「そ、・・・そう、だね・・・谷地さん、申し訳ないけど、お願いしても・・・いい、かな?」
「ファッ!?わ、私でよろしければ・・・!!」
なんて、大野君も乗り気だったしね!
このカップルばかりという状況の中で、意識するなという方が無理な話でしょう!
案の定大野君もやっちゃんもずっとそわそわしてて、ぎこちない雰囲気がザ・秒読みカップルじゃないですかあーもーやだー!にやにやしすぎて頬っぺた痛い!
これだけでご飯何杯かいけるけど、このかなりお膳立てられた状況でどこまでもつかな?
学校を出てしばらくはなんてことない世間話をとぎれとぎれに続けていた二人だったけど、繁華街に入ってますます周りがカップルだらけになったせいか、会話も止まって・・・
「ご、ごめんね?せっかくのクリスマスイブなのに、僕なんかと一緒に・・・」
うおおお!?キタ――――!!!
「う、ううん!こちらこそ!むしろ、私は嬉しいですし・・・!?」
や、やっちゃん!?マジで!?
完全に口滑らせた感じだけど、素直なことはいいことだ!可愛いは正義!
「えっ・・・や、谷地さん・・・!」
えっ?ホントに?なんか私の妄想の通りに話が進んでるけど、これって夢?
大野君、そこで感動顔なの?それってつまり!?
「あっ!い、今のは!えっと!」
「ぼ、僕も・・・」
キタ―――o(゚∀゚)o―――!!!!!
「え・・・」
「僕も、嬉しい、です・・・!」
「ここのケーキバイキングに参加できる日が来るなんて・・・!」
「・・・へ?」
・・・はい?
「諦めてたんだ・・・!カップル限定だったから、月島くんと来ることもできなかったし、母さんじゃ歳が離れすぎててカップルとは認めてくれなかったし・・・!」
「お、大野くんにとって、カップルとは・・・」
「?あ、あれ・・・?同じ年くらいの男女、ってことだと思ってたけ・・・ぁ、もしかして、違った・・・?」
「あっ!イエッ!いいと思います!ハイッ」
目に見えてしょんぼりする大野君に、谷っちゃんがあわててフォローを入れる。
ほっとして嬉しそうにする大野君と、気が抜けたような、いや、どこか恥ずかしそうな谷っちゃんがケーキ屋に入っていくのを、へなへなと手近な看板に身体を預けながら見送った。
「んなこったろうと・・・思ったけどさぁ・・・!!」
これは、あまりにも・・・谷っちゃんかわいそうでしょ!
ていうか何!?カップル=年の近い男女って、小学生か!
どうしてくれよう!?と頭を抱えていると、注文を終えた二人が窓際の席に座ってケーキをつつき始める。
・・・あーあぁ、幸せそうな顔しちゃってまぁ。
・・・いいよ、もう。その笑顔、美味しいケーキを食べてるから、ってだけじゃないでしょ?
ならもう少し、ゆっくり見守ってやるか・・・なーんてね。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
リクエスト:胡蝶様
「「クラスメイトとへなちょこ」設定のクリスマス」
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