甘くない現実なんてくそったれ!


「さぁ!材料は何でもお申し付けくだされ!」

「いや、あの・・・」

「むっ、人手が足らぬか?なれば是非!某にも手伝わせていただきたい!」

「ちが、そうじゃなくて」

「?ご安心召されよ!佐助の菓子作りの腕は俺が保証する!」

「そうそう。安心して作ればいいよ。失敗しても後始末はちゃーんとするからね」


その佐助さんの目が俺を本気で殺しにかかってんだよ!!










元はと言えば、俺がパティシエだった前世の記憶なんか持って産まれてしまったのが間違いだったんだ。
その上産まれた先が戦国時代で、さらには婆娑羅なんてものが存在するはちゃめちゃな世界。
日の本中に響きわたる武将の名前はオールスターで、俺は生後一年にして色々と諦めた。
人ってものは一度死んでも性格ってのは変わらないみたいで、色々とものが足りないなりに相変わらず大好きな菓子作りをして育ち、まぁちょいとオファーもかかったりして、あれ、もしかして天才って全員前世の記憶持ちなんじゃないかとか考えたりもしたけど。


「(やっぱり、身の安全を優先しときゃよかったかな・・・)」


自分で店を持つことになったとき、真っ先に候補が上がったのは堺と上田。
堺はわかる。貿易の中心だし、あそこに店舗を構えられるのはそれだけでブランドものって看板が立つ。
でも、こと甘味に関しては、より競合区なのは断然上田だった。
理由は当然、城主様の甘味狂。より稼ぎ、名を売るのであれば上田に店舗を構えるのは当然。
でも、俺が最初に店舗を希望したのは堺だ。
今世で世話になったお師匠さんにも、俺が上田に難色を示した瞬間すごい顔されちゃったしな。
結局押しに負けて上田に店を開いてしまったのだけど。

・・・だって、上田の城主は真田幸村。真田幸村っつったら、忍隊。

そりゃ、俺だって前世では現代っ子なゲーム好き。戦国時代を駆け巡るアレだって大好きで、ミーハー心だってある。
時折城下にお忍び()で遊びに来る城主様にはテンションが上がったし、目立つ髪色のイケメンにだってハァハァした。
特に佐助とは、たびたびご主人のおつかいだと言って大量の甘味を買いに来るたびに慎重に親交を深めた・・・つもり、だったんだけど。


「・・・わかってると思うけど、少しでも怪しい素振りがあったら、サイナラだからね」


あの気さくな笑顔はやっぱり仮面だったんですかねそうですよね忍ですもんね!
さっきの“失敗したら後始末は任せて”ってのも、俺が暗殺に失敗したときの後始末って意味だよね!?背後関係とか動機とか、その辺りまでしっかり調べ上げて根も残さずに処理してやんよって意味だよね!?
そして今の「サイナラ」ってのも、胴体と頭が、ってことでファイナルアンサーですよね!?
サラバ俺の楽しいひととき・・・とこっそり涙をこらえつつ、隣で光る目にびくびくしつつ、手だけはてきぱきと身に馴染んだ作業をこなしていく。
まぁ、今回城に呼ばれたのも、要はできたての新作甘味が食べたい!ってことだし。下手なことしなければ、普通に帰れるだろう。
・・・下手なことを、しなければ・・・


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


・・・ワンコの、視線が・・・

仕事を下され!って全身で表現してやがる。大人しくじっと座っているはずなのにめちゃくちゃ煩い。
・・・これって、“下手なこと”にならないよなぁ・・・「城主を顎で使うなど」なんて打ち首になったりしないよなぁ・・・?


「あー・・・、城主様、もしよろしければ、お手を借りても」

「勿論でござる!某、役目を全力で全うする所存!」


喰い気味で返事しやがった。
佐助も「しょうがないなぁ旦那は、」ってため息ついてるし、・・・うん、大丈夫。


「ちょっと待ってくださいね。・・・はい、これを全力で振り回して下さい」

「・・・?これは?」

「甘味の材料になります。・・・まぁ、出来てからのお楽しみということで」

「わかり申した!」


うおおおお!と全力でシャカシャカしてくれるから、いい具合に攪拌できるだろう。
実際あんなには要らないけど、余ったら頂けないかな、バター。


「ねぇ、」

「おっふぅ!?」

「・・・俺様のご主人が城主様だって知って、どう思った?」


変な声が出たことには触れず、淡々と質問してくる佐助・・・ん?どういう質問だ?
佐助が幸村に頼まれて甘味を買いに来てたのは想像ついてたから、正直どう思うもなにもなかったんだけど。
それは、言えねぇよなぁ。


「・・・驚きましたよ、そりゃあ」

「正直に」


こ、怖ぇえ〜・・・!
あっさりと見透かされた感に一瞬ビクリと肩が震えたけど、続けて湧いたのは怒り。
・・・だって、今まで“佐助”だったのが、急に“真田十勇士”になったんだよ?
驚いたっていうより、ショックだったんだからな。


「・・・友達だと思ってたやつが、そんなお偉いさんだったら普通に驚くわ」

「お偉いさん・・・俺様忍だよ?」

「真田十勇士は十分お偉いさんです」


俺は今も昔も一般ピーポー。
前世で言えば佐助はお偉いさんのSPなわけだし、そんなんまとめてお偉いさんだ。
“お偉いさん”がゲシュタルト崩壊してきたあたりで、幸村が「奏斗殿!乳がこのようなことに!!」と突撃してきて、話はなんとなくお流れに。
出来上がった甘味を美味い美味いと食べた幸村に直接門まで見送られ、すげえ量の小判と共に平和に送り出された。


「帰り道には気を付けてね。荷物の中身がばれたら恰好のカモだから」


・・・どんな限定クエストだよ。成功したら小判の量は三倍!ってか?
実入りはいいけど、ヘマしたら死亡、リプレイ機能なしはきつい。
無駄に重たい荷物を背負いなおして、城から十分離れたところではぁ、と大きくため息をついた。


「・・・明日は休業にしよう」


十分堪能したし、できれば、もう関わりたくないところだ。










来る時よりも確実に重くなった荷物を抱えて、奏斗がフラフラと帰路を行く。
店まで無事に帰りつくのを見届けた俺様は、尾行していた時と同様ひっそりと旦那の元へ戻った。


「ただいまもどりましたよ、っと」

「おお、佐助。どうだ、疑いは晴れたか?」

「・・・ま、ぼちぼちってとこかな」

「そうか!なれば今後も是非、折を見て招くぞ!」

「はいはい、仰せのままに〜ってね」


美味いものを食べられてか、俺様がほぼ白だと言ったことに対してか、上機嫌になる旦那。
またすぐに呼べと言い出すだろうが、帰りの様子からして、明日は店を閉じているだろう。
なら招くのは季節の変わるころにして、足を運ぶのももう数日してからにするか、と頭の中で予定をたてた。

・・・上田で一、二を争う、どんな老舗よりも早く頭角を現した店の主、奏斗。
実力に反して気さくな性格で、女性客からの人気も高い。
旦那の口に入る物を外の人間に作らせるのは正直、こっちだって心労が絶えないんだけど。


「・・・俺様も、貴重な友人を失うのは避けたいしね」


普段話している様子からして、隠し事や嘘が上手い方でもないみたいだし。
最近旦那のおやつの頻度が増えていることに気付いている身としては、そろそろ客と店主という以外にも会える機会がほしいところ・・・なーんて、ね。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
リクエスト:奏斗様
「武田西洋菓子道場!熱き漢のお料理教室」
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