つっきー!
高校に入って教室が分かれた圭吾は、昼になると僕たちのクラスに現れる。
片手に弁当をぶら下げて伺いを立てるように恐る恐る顔を覗かせるから、いつも返事の代わりに三つ目のイスを用意してやるのが僕の役割のようになっていた。
今日は山口が授業が終わると同時にわざわざ「ちょっとトイレ行ってくるね!」と宣言して教室を出て行ったから、何となく音楽を聞いて時間を潰す。
ああ言われちゃうと、先に一人で食べ始めるのも馬鹿みたいだしね。
2曲目が終わりに差し掛かった頃、「お待たせ!」という山口の声がヘッドフォンの隙間から聞こえてきて、「遅い」と不満を言いながら顔を上げる。
その隣に相変わらず自信なさ気な表情の圭吾がいて、少しだけ驚いた。
「ごめんツッキー!廊下でちょっと圭吾と話してて」
「・・・僕おなか空いたんだけど」
「ご、ごめん、つっきぃ・・・待っててくれて、ありがと・・・」
「・・・・・・別に」
ふにゃりと気の抜ける笑みと共に素直な感謝を告げられて、どういう顔をしたらいいかわからなくなる。
弁当を取り出すことを口実に顔を背ければ、立ったままの二人が頭上で小さく笑いあっているのが聞こえた。
「・・・何」
「なんでもない!」
「ごはん、食べよっか」
牽制の意味も込めて睨みつけたのに、二人して何処吹く風で近くのイスを引き寄せて座る。
この二人・・・最近、揃うと若干強気になるようで、少しやりにくい。
誤魔化したいことが、全然誤魔化せていないような・・・
そんなことを考えながら弁当の包みを開けて、小さく「いただきます」と言うと二人を待つわけでもなく食べ始める。
それを追うように二人も準備をして「いただきます」と口々に言うから、少しだけ安心した。
「ところでツッキー、明日の・・・」
「つっきぃ、あの・・・明日・・・」
「・・・二人して何」
ある程度弁当を消化して、空腹感も落ち着いてきた頃。
二人が見計らったかのように声をそろえたのを聞いて、思わず眉間に皺を寄せた。
「ごめんツッキー!」
「ご、ごめん、つっきぃ・・・!」
「明日何かあるの?」
二人の口癖には大して耳も傾けず、用件を促す。
二人共明日のことを気にしていたから、授業か部活で何かあるのかと当たりをつけていたんだけど。
「うん!見てこれ!」
山口のポケットから出てきた小さく折りたたまれた紙は、その予想とは大幅に食い違った情報が書かれていた。
カラフルな印刷、ポップな装飾。
“友達を誘って来てネ!”と子どもっぽい字で書かれたそれは、いかにも女子どもが好きそうな。
「・・・ケーキバイキング?」
「圭吾が登録してる店から来たんだって!部活終わってから三人で行かない?」
半ば身を乗り出して誘ってくる山口から、少し距離を取って考える。
確かに、圭吾とケーキを食べに行ったことは何度かある。
けど、普段なら圭吾とふたりで、だ。
山口は別にケーキが好きなわけでもないし。
「・・・僕と圭吾はいいけど、山口は別に付いてこなくても・・・」
「寂しい!」
「・・・・・・」
きっぱりと言い切られて、二の句が告げなくなる。
恥ずかしくないの、そんなこと言って。
「あ、あの・・・山口もいると、もっと楽しいかなって・・・」
「僕と二人じゃ会話もはずまないって?」
「ちがう、よ」
からかうつもりで言ったそれに、即座に返されて面食らう。
そういえば少し前から、圭吾はこの手の嫌味に動じなくなっていたな。
・・・また山口に何か吹き込まれたの?
「僕は、三人でおいしいもの、共有できたら、もっとおいしいなって・・・」
「もういい。わかったから」
「圭吾ナイス!」
「黙れ山口」
「ごめんツッキー!」
余計なことを言う山口を睨みつけるけど、きっと蚊に刺された程度にも思ってない。
どうせそうやって圭吾にも適当なこと吹き込んだんでしょ。
「楽しみ、だね」
「バイキングのケーキに質は求められないけどね」
「ん・・・ケーキもだけど、」
どう山口を黙らせようか、と思考を巡らせていると、明るさの隠し切れない圭吾の声が聞こえて思わず捻くれた言葉が口を付く。
けれどそれに付け足すように圭吾が首をかしげたのが見えて、ふと顔を上げた。
「三人で出かけるの、春休み以来だから・・・楽しみ、だよ」
嬉しくて、嬉しくて。仕方ない、という顔。
満面の笑みってわけじゃない、のに。
幸せをかみ締めているようなその表情に、思わず額に手を当てて大きなため息を付いた。
「・・・圭吾がタチ悪くなってる気がするの、僕だけ?」
「ははは・・・俺もそう思う」
「・・・?」
どうやら山口の手にも負えなくなってきているらしい、圭吾の素直すぎる発言の数々。
これからまた頭を悩まされることになるのかと思って、またため息を付いた。
純粋すぎるのは、結構凶器だと思う。
=〇=〇=〇=〇=〇=
リクエスト:yo-ko様
「へなちょこがツッキー・山口と同中だったら」
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