僕は大野圭吾といいます。


※この話は夢小説ではなく、”大野圭吾”というオリキャラについての話と思っていただければ幸いです。











運動部の一年生は集合が早い。
ネットやボールの準備等、マネージャーや当番がいるとはいえ、先輩に任せるわけにはいかないからだ。
烏野高校排球部も例に漏れず、一年生たちはHRが終わると急いで着替えて体育館に向かう。
そして今日も今日とて月島・山口と協力してネットを張っていると。


「「大野!」」

「はっひぃ!?」


バァン!と盛大な音を立てて扉が開き、二年生の熱い二人組みが飛び込んできた。
飛び上がって思わずネットから手を離すと、ネットをポールにくくりつけていた山口が急に緩んだ力に「うわっ、」と声を上げる。
はっとしてもう一度ネットに手を伸ばしたが・・・ズンズンと大またで近づいてくる田中と西谷に、大野は思わず月島の影に縮こまった。


「・・・ちょっと、僕を壁にするのやめてくれる」

「ご、ごめ・・・!」

「「大野!!」」

「ふひぃ・・・っ!!」

「・・・先輩方も、なんなんですか」


ここで大野から離れるために月島までネットから手を離したら、山口が紐を結べなくなってしまう。
その場から動くわけにもいかず近づいて来た二人に面倒くさそうに問えば、月島が大野を逃がそうとしていると勘違いした二人は真剣な表情で拳を握りこんだ。


「邪魔するな月島!俺達は、使命を果たすためにここに来た・・・!」

「は?」

「大野!お前に聞きたいことが、いくつかある!」

「っ・・・!?」


その異様な剣幕に、一体自分は何をしでかしてしまったのだと戦々恐々とする大野。
月島も山口も、流石に何事かと様子を見守った。
のだが。


「お前の誕生日は!」

「・・・は?」

「・・・へ?」

「だから、誕生日だよ!」

「え、あ・・・と、・・・く、9月13日・・・」

「血液型は?」

「・・・AB、です・・・」

「好きなものとか、教えてくれ!」

「好きなもの・・・?好きな、もの・・・」


突然始まった平和な質問攻めに、一年生sは揃って疑問符を浮かべる。
好きなものと聞かれて返答に詰まった大野に代わり、月島が訝しげな表情を隠しもせずに先輩を見下ろした。


「・・・一体何なんですか?」

「部室にこんな手紙が入ってたんだって」


けれど、それに対する返事は思わぬところから帰ってきて。
声のした方を山口と揃って振り返れば、苦笑した菅原と澤村が手紙のようなものを持って近づいてきた。
山口が紐を結び終わったことを確認してネットから手を離し、差し出されたそれを受け取る。
月島が怪訝な表情のままそれを開き、山口が横からそれを覗き込めば、二人は似たような角度で首をかしげた。


「・・・『大野の細かいプロフや容姿について、語ってください』・・・?」

「・・・なんですか、コレ」


一年生二人の当然の疑問に、菅原は「それがよくわかんないんだけどな?」と頭をかきながら非があるわけでもないのに申し訳なさそうに言う。


「これ見た二人が「俺達全然大野のこと知らない!」って変に燃えちゃって」

「改めて考えるとプロフィールってなんだって言ってたから、誕生日とか血液型、好きなものとかそんなんじゃないかって言ったら部室を飛び出していってしまってさ。それを追いかけてきて今に至る」


止められなくてな、とこちらもバツが悪そうに眉を下げる澤村に、これじゃこっちが悪いみたいだと月島は眉根を寄せた。


「・・・別にそんなこと、知らなくても困らないと思いますけど」

「知らないとつまらないだろ!」

「・・・・・・」


ぼそりと言い捨てたそれは西谷に拾われ、その当然と言わんばかりの言い方にイラッとして青筋を立てる月島。
目ざとくそれに気付いた山口は慌てて話題を変えようとして、未だ悩んでいる大野に気付いた。


「・・・大野、好きなもので悩みすぎじゃない?」

「ぅ・・・え、と・・・何の“好き”か、わからなくて・・・」

「・・・食べ物でいいんじゃないの」

「あ、なら、ケーキ全般・・・?」

「まぁ、それは知ってたな」

「常識だったな」


月島の投げやりな助言を受けて答えれば、うんうんと頷きあう田中と西谷。
大野が地味にショックを受けても、他の面子も特に否定する様子がない。
「は、はは・・・」と力ない笑いを漏らしている一方で、遠くで準備をしながらそっと耳を傾けていた東峰と縁下が「へぇ・・・」と驚いたような声を上げた。


「大野ってAB型だったんだな・・・A型かと思ってた」

「確かに、そう言われてみるとO型の要素はほぼないですよね。気にしないってことほとんどないし」


O型が大らか、というのは偏見かもしれないが、意外とマッチすることが多い組み合わせだ。
大野が大らかな性格というには、100歩どころか万歩計が必要な距離は譲らなければならないだろう。


「あ、でも9月13日ってことは乙女座だろ?そっちはしっくりくるなぁ」

「・・・(星座覚えてるんだ)」


さらりと言われた言葉に、縁下はそうですねとも言えずに返答に詰まる。
東峰先輩って星占いとかやってそうだな、と想像ではあれガタイのいい先輩の乙女チックな趣味に、若干乾いた笑いが出た。


「あとは・・・容姿、か」

「容姿っつったって、見たまんまだろ」

「いや、ノヤっさん。話せって書いてあったんだ。あの紙を信じて、俺達は進まなければならないのだ!」

「龍・・・!ああ、わかった!」

「っ・・・!?」


ギュルン!と二人の目が大野を見て、大野の肩がビクリと跳ねる。
頼みの月島もあっさりとどこかへ行ってしまったため、大野は既に半泣きになりながらジャージの裾を握り締めるしかない。
大野が硬直しているのをいいことに、田中と西谷はじっくりとその姿を眺め始めた。


「上から行くぞ!髪の毛!」

「黒!少しだけ癖あるけどわりとストレートで硬さも長さもフツー!」

「顔!」

「見慣れればイケメン!困り顔がデフォ!」

「体格!」

「普通!そういえば身長いくつだ!」

「・・・・・・っえ、あ、し、4月の身体測定では、た、確か・・・177,4cmだった、かな・・・?」

「体重は!」

「ろ、68kgです・・・」

「普通だな!」

「・・・は、い・・・」


繰り返される“普通”に、大野の頭上には暗雲が立ち込め始める。
それを感じ取ったのは、直接話しているはずの二人ではなく、後から様子を見守っていた成田と木下だった。


「あー別に落ち込まなくていいだろ!」

「でも、見慣れればイケメンって・・・結構失礼だぞ二人共」

「でも確かに、大野って徐々にそのよさが分かっていく感じの顔立ちだな」

「美人は三日で飽きるって言うし、大野はそのままでいいんだよ!」

「「だから泣くなって大野!」」


フォローのはずのそれは、どうにもわざとらしすぎたというか、何と言うか。
既にほぼ限界だった大野の涙腺に、最後のきっかけを与えるには十分な威力をもっていた。


「う゛ぇっ・・・!は、はぃ゛・・・っ!」

「!?お、大野!?」

「どうした!?なんで泣く!?」


何故泣きはじめたのかまるで理解できていない田中と西谷。
あーあ・・・と雰囲気で語る、部活の準備を始める他のメンバー。
そして。


「・・・それで、大野泣かせてまでこれに答えて、何かいいことでもあったか?」


澤村の、絶対零度の微笑みがそこにあった。
ぽろぽろと涙を流す大野に慌てていた二人は、背後からの気配にピキンと固まる。
ギ・ギ・ギ・・・とブリキの人形のように振り返ると、その微笑みは徐々に無表情へと変わっていって。


「だ、大地さん・・・」

「そ、それはその・・・」

「田中、西谷、集合までにランニング10周!」

「「ウッス!!」」


般若の表情で告げられたペナルティに、二人は条件反射でその場から駆け出した。
よくわからないけど、後で大野に謝ろうと心に留めながら。










「・・・覚えたか?」

「・・・何の話だ?」


そんなやり取りの一部始終を、準備をしながらずっと見ていた一年生が二人。
日向は察しの悪い影山に「バカ!」と小さく怒鳴ると、見つからないように大野を指差して見せた。


「大野の誕生日だよ!」

「あぁ?・・・ちっ、確か、9月13日って言ってた」

「もうすぐだろ!サプライズでお祝いするぞ!」

「は?・・・大会間近だぞ。そんな暇あるのかよ」

「うぐ・・・でも!せっかく知れたんだし・・・!」


中々折れない日向に、影山もチラリと大野を見て考える。
別に、祝いたくないわけじゃない。
けど、そういうのをどうやっていいのか、まるで想像つかないというのが正直なところだった。


「・・・大体、お祝いって、何するんだよ」

「・・・ケーキ!皆でケーキ買って渡そうぜ!」

「・・・9月13日って確か、平日だぞ。買いに行くのも渡すのも、いつするんだよ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


果たして、サプライズは実行されるのか。
烏野のバカ二人の双肩にかかっている時点で、それは半ば答えがわかっているようなものだった。


=〇=〇=〇=〇=〇=
リクエスト:ルラキ様
「へなちょこの細かいプロフィール+容姿について話す」
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