美味しいものは幸せになれる


「ここ、だよ!」

「・・・すごい人だね」


大野に連れられてたどり着いた駅前のケーキショップは、予想をはるかに超えた混雑具合だった。
十分充実しているはずのイートインスペースがほぼ満席で、レジも回転は早いものの10人近くが並んでいる。
しかも、ほとんどが女。
ちらちら見かける男もわかりやすくカップルの片割れで、べたべたと見ていて不快になる主張っぷりだ。
・・・こんな中で、長身の男二人連れはさぞ目立つだろう。
ちらちらと感じる視線とこそこそとした話し声に、来たばかりだというのにさっさと帰りたくなった。
でも持ち帰りにすると何処で食べるんだって話になるから、食べていかなきゃいけないし。
限られた選択肢に、思わず舌打ちが出る。
こっちはこんなに不機嫌さ丸出しだというのに、大野は普段の敏感さはどこへやったのか。
自分たちに視線が集まっていることにも、舌打ちにすら気づかず、その視線はショーケースに釘付けだ。


「あっ、新作出てる・・・!僕、これにするね!」

「・・・決めるの、早・・・」


思わぬ即決に思わずそう呟いても、耳に届いていないらしい。
「あっでもこっちのタルトも前食べれなかったんだよなぁ・・・!前食べたイチゴショートも美味しかったからまた食べたいし・・・!」と決めたにも関わらずショーケースの前でキョロキョロする姿は普段の言動とはかけ離れている。
オブラートに包んでも“幼い”といわざるを得ない様子に、「ちょっと、」と思わず腕を掴んだ。


「っ?」

「・・・イチゴショートは僕が食べるから、それ以外のにしなよね」

「・・・!うんっ!」


普段なら、「え・・・わ、分けてくれるの・・・?」とか恐る恐る確認しに来るくせに。
嬉しそうに店員に声をかける後頭部を、はぁ、とため息をついて見つめた。
まぁ、普段みたいにずっとオドオドしっぱなしよりはましか。


「ありがとうございました!」


決まり文句に顔を上げれば、丁度前の客がレジの前から離れたところで。
大野と一緒に前に踏み出せば、ニッコリと見事な接客スマイルで迎えられた。


「お待たせいたしました。ご注文はお決まりですか?」

「・・・イチゴショート一つ」

「えーと、とろける黒糖プリンと蜜柑チーズタルト、それからチョコナッツケーキと・・・」

「!?」


流れるように出始めた注文の数に、いくつ食べるつもりだと思わず目を剥く。
店員はてきぱきと注文されたケーキを取り出すと、気を利かせて二人の注文したケーキを軽く分けて置いた。
でも、そうやって分けて並べられると、自分の分と大野の分の差が如実に現れるわけで。
自分は厳選して一つに絞ったのに、という子どものような不満と共に、隠しきれない羨ましさがむくむくと顔を出した。


「以上でよろしいですか?」


店員の口から、マニュアルどおりの言葉が放たれて、大野が「はい、」と小さく言いながら頷く。
そしてそのままこちらにも確認を取るように視線を向けた店員に、思わずぐっと言葉に詰まった。
日本人的な笑みと共に視線を向けられただけで、特に何か特別なことを言われたわけじゃないのに。


「・・・生チョコ&イチゴ、追加してください」


大野と店員の無自覚の戦略に、完敗した気分になった。










「おいしいねぇ」

「・・・まあね」


ほわほわと幸せそうにケーキをほおばる大野を横目に、イチゴショートをゆっくりと崩していく。
確かに、大野が絶賛して、これだけ人が集まるだけはあった。
甘すぎない生クリームは大野の言うとおり苺の酸味をよく引き立てていて、くどく舌に残らない感じが次の一口を誘う。
「一口どうぞ!」と差し出されたプリンやらタルトやらをもらってみれば、これもまたそれぞれ特徴を生かした味が出ていて美味しいし。
代わりにと手元にあるケーキを「これも悪くないよ、」と押し出せば、大野は本当に嬉しそうに「ありがとう!」と言って一口分持っていく。
その口に運ばれていくケーキを見送って、口に含んだとたん全開で幸せそうな表情を見せる大野に、耐え切れずプッと噴き出した。


「ちょっと、顔緩みすぎじゃない?」

「ぅ・・・ご、ごめん・・・でも、本当に美味しいから・・・!」

「まぁ、それはわかるけど」


ケーキも美味しいし、店の雰囲気も悪くない。
また時間ができたときに来ようかな、と次の休みを思い出しながらケーキの上にちょこんと乗ったクリームをフォークですくった。


「あのー、隣、空いてますかぁ?」

「っ・・・?」


突然、無遠慮に耳に突き刺さる高い声。
その不快感に、自分の表情が一気に不機嫌なものに変わるのが分かった。
チラリと視線だけを声のしたほうに向ければ、化粧が濃くて香水臭い女が二人。


「他の席、埋まっちゃっててぇ〜」


確かにこの席は四人掛けではある。
けれど、他にも四人掛けを二人で座っているところはあるし、そもそも飲食店やテイクアウトのできる店で相席ってどうなの?
話にならない、とあえて無視をしたというのに、どうやらその弱い頭では自分の都合のいい答えしか出せないらしい。


「お邪魔しまーす♪」

「っ・・・ちょっと、」


ドスンと上品さの欠片もない勢いで隣に腰掛けてきた女に、思わず低い声が出たというのに、本当にその耳は聞こえているのか。
当然のようにケーキを食べ始めた女たちに、不快感が嫌悪感に変わっていくのを感じた。


「男の人二人でこういうところ来るのって、珍しいですよねぇ〜。甘いもの好きなんですかぁ?」

「っえ・・・あ、ぇと・・・」

「ていうか、二人でケーキ6つとかすごーい!男の子ってやっぱり沢山食べるんだぁ〜」

「あ、もしよかったら私たちのも一口ずつ食べる〜?もちろん、君たちのももらうけどね♪」

「やだぁりっちゃんってば、がめつくな〜い?」

「えへ〜、つい本音が。あ、ていうか“君たち”って可笑しいよね?名前聞いても・・・」

「すみません、店員さん」


大野も僕も、まだ食べかけだとか。これからどうするのだとか。
そんなもの、考える余裕は一切なくなっていた。


「持ち帰り、今すぐ。お願いします」










スタスタスタスタ


そんな効果音がつきそうなほど速いペースで歩いていけば、身長の差か大野が小走り気味でついてくる。
店を出てから5分ほどそんな調子で歩いていけば、意を決したのか「あっ・・・あの・・・」と控えめな声が掛けられた。


「・・・ご、ごめんね・・・つ、月島、君・・・」

「・・・何で大野が謝るのさ」


口ではそう言いつつも、歩くペースは落とせない。
ケーキが美味しいのは確かだったけど、あんなウザいのに絡まれるなんて最低だ。
二度とあそこで食べていくことはしないだろうな、と小さくため息をつくと、謝るだけかと思っていた大野が続けて声をかけてきた。


「・・・あ、あの・・・、っも、もう少し・・・時間、あ、ある、かな・・・?」

「・・・まだ何かあるの?」


正直もう、さっさと家に帰って音楽でも聞いていたい。
そうすれば多少気もまぎれるだろうし、と思っていたから、大野の問いかけには少しうんざりした気分で問い返した。
普段どおり、敏感にこちらの機微を察した大野が、軽く肩を揺らして言葉を詰まらせる。
けれど、ぎゅっと腹の前で服を握ったかと思うと、意を決したように顔を上げた。
・・・すぐ、目は逸らされたけど。


「その・・・うちの近くに、紅茶の美味しい喫茶店があって・・・っあの・・・っ!も、持ち込みOKだし、よく行くから、紅茶も美味しくて、その、・・・人もっ、普段そんなにお客さんいないし・・・!」

「・・・・・・」


その必死な様子に、多分仕切りなおし的なことをしようとしているんだろうと予想がつく。
それと同時に、大野もやっぱりあの女たちに多少なりとも不満を感じていたのだと、感じ取れて。
ただそれだけなのに、どうしてだろう。
少し気が、軽くなったような気がするのは。
それと悟られないよう眼鏡を上げようとして、ふと自分の右手にケーキの入った箱があることを思い出す。
まだ食べかけのケーキがいくつか、適当に詰められただけのそれ。
ここまで持ってくるのにも、中身が無事な保障はできないんだけど。


「・・・そういえば、箱。一つしか作ってもらってないね」

「・・・!こっち、だよ・・・!10分くらいで着くから・・・!」


言い訳のように箱を持ち上げれば、ケーキのこととなるとやけに察しのいい大野がぱぁっと顔を明るくする。
ほんと、ケーキのこととなると人が変わるよね。
呆れたような、面白いような感覚でため息をつき、その軽い足取りに続いて歩を進める。
さっきまでよりもはっきりとその存在を感じる右手の箱を、傾けないようにそっと持ち直した。


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リクエスト:匿名様
「へなちょこと月島との絡み」
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