昔の話だよ
「東峰君って見た目そんななのになんか弱いよねぇ
・・・って、クラスの女子に勝手にがっかりされた・・・」
「ははっ!見る目ねぇなその子!」
学校帰り、いつからか習慣になっている圭吾の家での愚痴り会。
今日あったガラスのハート破損事件を体育座りでため息と共に吐き出していると、「そっかぁ」と聞いていただけだった圭吾が不意に笑い出した。
どうやらクラスの女子が言った言葉が引っかかったらしい。
聞いてくれるだけで十分だったぼやきに思わぬ返事が返ってきて、戸惑いながら伏せていた目を圭吾に向けた。
「えぇ・・・?でも、事実だし・・・」
「だとしても、旭の魅力はそこじゃないだろ?」
真っ直ぐ見つめ返されて、少し気まずいような気になりながらもその目を見つめる。
その続きを聞きたいような、聞きたくないような。
おずおずと期待していると、圭吾の薄い唇が弧を描いた。
「俺は、お前のいいところはそういう優しくて思慮深いところだと思うけど?」
「・・・っ!」
想像以上に歯の浮く台詞に、どうにも目を合わせられなくなってそっぽを向く。
クックと聞こえる抑えた笑い声は、俺の耳が赤くなっていることを示していた。
俺と、圭吾が付き合いだして暫くたつけど・・・どうにも、こういうのには慣れそうにない。
こんなへなちょこじゃ駄目だから、圭吾に見合う男になりたいんだけどなぁ・・・
「で、でも、俺はもっとこう、ワイルドに・・・」
「バレーしてるときは十分ワイルドだし、カッコイイと思うけど」
圭吾の口から出たバレー、というキーワードに、ふと中学時代を思い出す。
中学時代、同じバレー部に所属していた圭吾。
高校でまた一緒にバレーを続けられると思っていたのに、まさかの帰宅部に入ってしまった。
その事実を知ってから暫くの間、圭吾のことを追い掛け回し続けたのも懐かしい話だ。
・・・今でも、諦めきれてはいないんだけど。
「・・・なぁ、圭吾はまたバレーする気ないのか?」
「まだそれ言ってんのかよ!?もう体動かねえって」
「圭吾のトス、また打ちたいんだ」
相手にしようとしない圭吾に向けて何の飾りもない素直な気持ちを言葉にすれば、その目が軽く見開かれる。
そのまま緩く細められたそれに、期待で体が少し前のめりになった、んだけど。
「・・・菅原のトスもいいし、安泰だって」
「・・・・・・」
望みとは違う返事に、自分の肩が落ちるのが分かる。
分かりやすすぎる俺の反応に圭吾は軽く苦笑すると、自分の手を見てスッとオーバーの構えをしてみせた。
そして、見えないボールをトスするように数度腕を上下させる。
「・・・俺のトスを旭に打ってもらえるのは気持ちよかったけどさ。俺じゃ、旭の力を使いきれねえから」
そもそも菅原の方が上手いんだから、俺じゃレギュラーにもなれないけどな、と自嘲気味に言う様子がどこか強がっているように見えるのは、俺の願望なんだろうか。
確かに、圭吾のトスは今思うと上手いとは言いがたいものだった。
ネット際に上げようとすれば、寄せすぎて打ち切れず。
速攻を使おうとすれば、ボールのスピードがばらばらで完璧に合った試しがない。
いつからか、圭吾のネットから離れた高めのトスに俺が助走を合わせるのが普通になっていた。
「悔しい思いしながら同じコートに立つよりも、ギャラリーから旭のかっこいい姿を全力で応援したいんだよ」
ちゃんと毎回行ってやってるだろ?と困ったように笑う圭吾に、小さくコクリと頷く。
練習試合でも、一回戦負けの分かっているような試合でも。
彼は、言葉の通り全力で応援してくれていたから。
試合中ずっと耳に届いていた声は、終わった後はすっかりがらがらに掠れている。
到底敵わない強豪との試合、酷い点差で部員の声すら聞こえなくなっても、圭吾の声だけは耳に届く。
そんな風に圭吾が応援してくれていたから、気持ちの折れそうな試合でも、持ちこたえることができた。
でも。・・・でも。
どんなトスだって、圭吾からのトスなら俺は、それでよかったのに。
そのために、打ち抜ける“強さ”を手に入れたのに。
「・・・そんな顔すんなって」
「・・・・・・」
圭吾の言う“そんな顔”がどんなに酷い顔かなんてことは、自分が一番よくわかってる。
けどそれを「仕方ねえなぁ、旭は」と苦笑するだけで頬を撫でてくれる圭吾に、俺はどうしようもなく情けない気持ちになるんだ。
・・・それと同時にすごく幸せな気分になるんだから、もう本当にどうしようもないんだけど。
「今週末は春高だろ?一回戦目、鉄壁と名高い伊達工じゃねえか。ぶち抜いてやれ!」
「・・・圭吾は」
「当然行くに決まってんだろ?全力で応援してやる!」
ぐっと突き出された拳は、小さい頃から圭吾と俺の約束の証。
絶対に破らない、なんて。子どもじみた願掛けみたいなもんなんだけどさ。
「・・・わかった。俺も、負けないから」
「おう!」
同じように突き出した拳をコツンとぶつければ、君は嬉しそうに笑うから。
またいつか、折を見て誘ってみようとちょっと思った。
From:大野圭吾
件名:すまん
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ばあちゃんが死んだ。
葬式になったから、春高行けねえ。
悪い。
気付いてるか?圭吾。
「旭・・・!?」
恋とか、愛とか。そういうのは、正直よくわかんないんだけど。
「旭さん・・・!?」
俺は、圭吾がいないだけで、こんなに簡単に心が折れるくらい。
君に依存、してたんだよ。
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リクエスト:八代ミウ様
「旭同級生(男)、中学まで一緒のバレー部(恋愛)」
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