価値観


「君さあ、弱くなっちゃったの?」

「・・・は?どういう意味?」


呆れたようなため息と共に吐き出された言葉に、チャキリと左手でトンファーを構える。
他の連中なら血の気を引かせて引き下がるその脅しも、彼女に効果がないことは重々承知だ。
それでも言われた言葉にすんなりとは引き下がれず、その体勢のまま続きを待つ。
案の定手元から目を逸らさないまま、かやは軽いため息を吐き出した。


「んー、血の気が多いところは相変わらずなんだけど・・・怪我、多くなったよねぇ」

「・・・・・・」


この間もこうして包帯巻いたなぁ、と呟くかやの手で、雲雀の右手にクルクルと白い包帯が巻かれていく。
その下に貼られたガーゼには血が滲んでおり、その傷が真新しいものであることを伝えていた。


「私言ったじゃない。雲雀のは見ないほうが精神的に安定するって」

「君の都合で世界が回ってるとでも思ってるの?」

「少なくとも、君がこんなに血を流す世界、私は望んじゃいない」

「・・・・・・」

「しかも、こんな足手まといを庇って、だとか。ほんと、君らしくないし、嬉しくもない」

「君に喜んでもらおうなんて、これっぽっちも思ってないからね」

「そういうこと言うくせに、突き放さない辺りが中途半端よ」


的を射た言葉に、一瞬返答に詰まる。
こういうところは、中学のときから変わることなく厄介だ。
そのくせ、本人に自覚がないんだからたちが悪い。


「・・・そもそも、君が戦場に来るのを止めればいい話じゃないか。大して強くもないくせに、僕の周りをうろちょろして」

「あら、離れると怒るのはどちらさま?」

「目の届く範囲にいないと君、今日みたいに殺されそうになるだろ」

「・・・定期的に血を見ないとおかしくなる人間なんて、死んだほうがマシかもしれないけどね」

「・・・・・・」


ボンゴレファミリーから逃れられなかったかやは、医療班としてファミリーに所属している。
だが、比較的平和なボンゴレで、怪我人が出ることはあまり多くない。
耐え切れなくなったかやが輸血パックを部屋中にぶちまけるくらいのことは、まだ可愛いものだった。


「はい、治療おしまい!早く治して、また私を戦場に連れて行ってくださいね?風紀委員長サマ?」


死地への案内を求められたように、聞こえるそれ。
ポン、と軽く叩かれた腕に巻かれた包帯の白さが、かやの腕のそれよりも白く感じて目を細めた。


「・・・僕から離れないって、約束できるなら考えてあげるよ」

「・・・それは・・・、」

「勝手に死ぬのは、許さない」


ボンゴレは、仲間が傷つくのを嫌う。
いや、たとえボンゴレが許しても、その守護者たちが黙っていないだろう。
かやが仲間にまで手を出してしまう前に。そしてその、制裁を加えられる前に。
君が絶対に傷つかない状況の中で、真っ赤な血を、見せてあげるから。


「君は、僕がいつか直々に咬み殺してあげるんだからさ」


それまでは、だから。


「・・・じゃあ、綺麗な血しぶきを、期待しておかなきゃね」


泣きそうに顔を歪めて、それでも笑みを模る口元。
咬み付きたい衝動を抑えて、そっとそれから目を逸らした。




(君の“綺麗”と僕の“綺麗”は、どうやら大分違う)


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リクエスト:舞様
「雲雀夢「鼻を利かせて」続編」
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