感動をくれる人


最近、困っていることがあります。
それは一見迷惑で、皆は「相手にしなければいい」というのだけど、それも難しいんです。


「かやー!行くよー!」

「だから、どこに行くのか、おっしゃってからに・・・って聞いてます!?」

「まーまー、着いてからのお楽しみ!」


こちらの方は以前たまたま保健室で鉢合わせて、それ以来何かとこうして私を連れ出そうとする、尾浜先輩。
私は絶望的に体力がなくて、無理をしてはしょっちゅう伊作先輩にご迷惑をかけるような人間なので、保健室で知り合いになる人も少なくはないのだけど。
こんなにその・・・付きまとわれるようになった人は初めてです。


「・・・体力考えてあげてねー?」

「わかってますって」

「(薄情もの!)」


以前は私がまた倒れることを気遣って尾浜先輩を引き止めてくださっていた伊作先輩も、今では呆れた顔でこの調子。
いつものように保健室に入り浸っていた私の平穏は、瞬く間に強い日差しの下塩をかけられたナメクジのように消滅していくのです。


「・・・いつもいつも、せめて行き先を教えてくださればこちらも心の準備というものができるのですが?」

「えー?だって知らずに行って驚いたほうが、感動って大きいと思わない?」

「・・・それは、わかりますけど」

「だったらほら、走って走って!」


ぐい、と手を引かれて少したたらを踏みつつ、渋々足を動かす。
別に、体を動かすことが嫌いなわけではないんです。ただ、動かした後熱を出したり、物が食べられなくなって苦しい思いをするのが嫌なだけで。
行き先までの距離を教えていただかないと、ペース配分も難しいのです。
・・・まぁ、尾浜先輩の腕を引く力は強いけれど、痛くはないし、走り始めもゆっくりで、こちらに気を使ってくださっているのは十分伝わるのですけど。
はじめの頃はただただ腕を引かれ半ば引きずられるようにしてたどり着いた目的地で、感動も何もなくただ嘔吐を繰り返していましたが・・・最近は私に体力がついてきたのか、先輩が私のペース配分を理解してくださったのか、そこまでのことはないんです。


「(これは、感謝すべきことなんですよね)」


この手を振り払えないのは、それが私に体力をつけさせようとしている彼の優しさからくるものだと知っているからでして。
早くも乱れてきた呼吸を落ち着けつつ、足元から視線を目の前の藍色の背中に向けた。


「・・・っは・・・おは、ま、先輩、」

「ん?どうしたの?」

「・・・いつも、ありがとう、ございます、・・・はっ」

「んー?なんのこと?」

「・・・こちらの、こと、です」


まぁ、彼ならそう言うでしょう。気づかなければ、なにごともなかったかのように去っていくような人だということも、知りました。


「・・・今日はそんなに遠くないよ」

「・・・珍しい・・・先輩が、目的地に・・・っついて教えて、くださる、なんて・・・っはぁ」

「かやが珍しくしゃべろうとしてるからねー。俺も珍しいことしちゃった」


向こうについたら話そうよ、と前をむいたまま諭されて、それもそうだ、と口を噤む。
案の定ひどく乱れた息を整えるのは難しかったけど、先輩がペースを落としてくださったおかげで徐々に落ち着かせることができました。
あとはもう、足元に注意して走り続けるだけです。






そして、視界が開けた先には。


「さて、今日のはお気に召すかな?」

「・・・最高、です」


たった一本ではあれど、途方もない年月を生きたであろう桜の木が、満開の花をつけている光景がありました。
迷惑ではないから、困っているんです。
先輩はいつも、素晴らしいものをくださるから。
あるときは甘味、あるときは風景。先輩は決して私を後悔させてくれない。


「・・・いつも、わざわざありがとうございます。私なんかを気にかけてくださって・・・」

「俺がしたいことしてるだけだよ、気にすることないって!」

「ですが、」


ふと桜から視線を外し、振り返る。
こんなに素晴らしい景色だというのに、彼は私を見ていて。
その目は、優しげに細められていて。


「だって、同じ感覚を共有したいでしょ?」

「・・・そ、」

「俺が抱えてきてあげてもいいんだけど、それだとかや、あんまり楽しめないでしょ」

「・・・」

「また、一緒に来ようね」


そんな瞳で見つめられて、頭を撫でられて。


「・・・・・・はい」


恋に落ちない方がおかしいと思うのは、私だけですか?




(「兵助〜今日はかなり手応えあったよ〜」「流石だな」「慣れてるもんね」「いや、百戦錬磨に見せかけてアイツは白いぞ」「え、マジ?」「そこ、なに話してるの?」「絶対うそだ!真っ黒だ!」)


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