我らが母上!


「「はぁ・・・」」

「どうしたんですか?二人とも」


そろってため息なんかついて・・・と聞けば、二つの幼い瞳がくるっと振り返る。


「聞いてくださいますか?副委員長!」

「聞いてください、かや先輩!」

「あぁうん、わかったから一度筆を置きなさい」


今にも墨が垂れそうな半紙は今期の予算案ではなくて?
戒めるようにそう言えば、慌てて筆置きに戻してから姿勢を正す二人。
まぁ、今は委員長もいないし、田村君は神崎君を探しに行って居ませんし、少しくらい息抜きとしてもいいでしょう。
こちらも筆を置いて二人に向き直れば、少々不満げな様子の二人。
何かあったのかな、と首を傾げつつ口を開いた。


「それで、どうしました?」

「それが、先ほど・・・」

「委員長自慢をされたんです!」

「あっばか僕が言おうとしたのに!」

「何だよ、いいだろ!」

「喧嘩するなら放り出しますよ」

「「・・・ごめんなさい」」


ぴたりと言い合いを止めてしおしおとなる二人は大層愛らしい。
それで?とにこりと笑って続きを促すと、少し肩の力を抜いた二人は再び良い子の返事をする。
そして、滔々と流れ出す不満げな声に、柄にもなく目を丸くしてしまった。


「体育委員長は、いつでも全力で遊んでくれるって」

「委員長は遊ぶことなんて考えてなくて、いつでもギンギンに鍛錬なのに」


「保健委員長は、とってもやさしいって」

「委員長は寝る時だって池の中ってくらい厳しいのに」


「用具委員長は、下級生に危険な仕事はさせないって」

「委員長は僕らに平等に仕事をさせるのに」


「火薬委員長は、仕事を丁寧に教えてくれるからわかりやすいって」

「委員長はこっちが聞かないと教えてくれないし」


「学級委員長は、勉強を教えてくれるから役に立つって」

「委員長は机に向かっているより鍛錬した方が身に付くって」


「作法委員長は、うまく罠が発動したり、上手な設計図が描けると褒めてくれるって」

「委員長はきれいな字が書けてもひとつ頷くだけで、「よくやった」なんてほとんど言ってくれません!」


きっと私は今、ぽかん、という表現が一番妥当な顔をしているんでしょうね。
しかしそれも少しのことで、ぶっすーと頬を膨らませてしまった二人に、ふつふつと笑いがこみ上げてきた。


「・・・副委員長?」

「せんぱーい・・・僕ら本気で相談してるんですよ?」

「あぁ・・・ごめんなさいね。それで、二人は会計委員会が嫌いなの?」

「「まさか!」」


ぴたりとそろった声に、廊下の気配が揺れる。
あらあら、私なんかに悟られるようでは、まだまだですよ?


「だって委員長は、僕らが立派な忍者になれるように鍛えてくれてますから!」

「それに、仕事をくれるのだって、僕らができると信頼してくださっているという証拠です!」

「あんまり褒めてくれないからこそ、たまに褒められるのは本当によくできたんだなって実感できます!」

「「だから、僕らは委員長が大好きです!」」


あらまぁ。
今度こそ耐え切れなくて、クスクスと笑いを零してしまう。
絶対、顔、真っ赤でしょうね。
ほんの少し漂ってくる甘い匂いは、立花先輩にでももらったんですか?
きっと、渡すタイミングどころか入るタイミングさえ失ってるんでしょうけど。


「・・・ところで、何で不機嫌な顔をしていたのかしら?」

「あぁ、だって・・・」

「委員長のすばらしさを、語りきれなかったことが悔しいんです!」

「あ、お前また僕の台詞とったな!?そ、それにそのせいで委員長のよさを皆に理解させられなかったのが悔しくて!」

「あー!それも僕が言おうとしてたのに!」

「ふんっ!さっきの仕返しだ!」

「何を!」

「やるか!アホのはのくせに!」

「二人とも、私が先ほど言ったこと忘れてますね?」

「「・・・あ」」

「頭冷やしてらっしゃい」


ポイッと廊下に放り出せば、傍らに立った委員長と目が合って。
あとはよろしくお願いしますね、という意味をこめてにっこりと微笑んで見せれば、元々赤かった顔がさらに赤みを増す。
こちらに火の粉が掛かる前にピタンと襖を閉めてしまえば、しばしの沈黙。
いつの間にか投げ入れられていた饅頭の包みに流石と感心して、帰ってきたときには熱いお茶を用意してあげようと思います。きっと池にでも入って体ごと冷えてくるでしょうからね。
机に戻る頃に聞こえてきた子どもたちの驚く声と、委員長の照れ隠しの怒鳴り声が響き渡る。
それにクスクスと笑いながら筆を執り、暫くは戻ってこないであろう人たちの仕事に手をつけるのでした。



(「(まったく、素直になりなさいな)」)
(「かや先輩って、母上みたいだよな」「あの人は会計の母上だからな」「じゃあ父上は潮江先輩?」「・・・・バカタレエエェェェエエェ!!!!」)



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