触れれば壊れる


俺には幼馴染ってやつが一人いる。
小中と同じ学校で、何の因果か高校まで一緒になっちまった。
もはや腐れ縁ってやつだな!

小学校のときはよく一緒に遊んでた。
中学生になったらなんか向こうが距離置くようになった。
なんだよ、って思って俺も男友達と遊ぶようにしてたんだけど、やっぱりなんかつまんなくてよくアイツにちょっかいかけにいった。
最初は困ったようにしてたけど、だんだん前みたいに笑うようになってきて、すげえ嬉しかったんだ。

ただ、中学生ってやつは男と女が一人ずつでいるとどうしてもカップルに見えてくる生き物でな。


「アツイねー!」


なんてはやし立てられて、


「バーカ、ただの幼馴染だっての!」


って返すのがお決まりのやり取りになってた。
そのたびにアイツは、恥ずかしそうに顔を伏せてたのを覚えてる。

それが、中学までの話。

高校になって、アイツは髪型を変えた。
化粧も、少しだけどするようになった。
幼馴染が、いきなり知らない女になった。
俺の幼馴染のはずなのに、他の女性に話しかけるときみたいにどもっちまう。

今度は、俺が距離を取るようになった。
けど、今度はアイツがそうさせてくれない。

高校という新しい環境に慣れてくると、アイツは俺を探して声をかけてくるようになった。
昨日のテレビ見た?今日数学あるけど宿題大丈夫?ボタン取れてる、直すから貸して。
まるで母親みたいなことを言うけど、どうしたって母親には見えない。


「熟年夫婦ねー」


そんな風にクラスメイトがからかうのに、


「やだ、ただの幼馴染よー」


と答えるその言葉が胸に刺さる。

そう。幼馴染だ。ただの。

堂々と隣に立つには、その言葉が順当。
それ以上近づくには、別の言葉が必要だってことは知ってるけど。

・・・足場が崩れるのが恐くて触れられねえ、なんて。

馬鹿げてると思うのに、どうしても手が伸ばせないこの距離はきっと。


「お前、大学行くのか?」

「うん、夕は就職だよね」


時間じゃ、どうにもならないんだろう。



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