きっとここから始まる
「今日も綺麗だなぁ…姫さん」
「姫さん、おはようございます!」
「おはようございます、みなさん」
にこり、と微笑めば大抵の男は顔を赤くするか見惚れるかどちらかだった。
自分の容姿が優れていること、それを損なわないように成績も常にトップを目指した。
仕草も美しく見せる練習をし、性格も悪くならないように周りに気を配った。
誰もが私を称賛した。
女の子にとって憧れ、男の子にとって高嶺の花でいた。
なのに。
「きゃー!!!!綱吉くんよ!」
「はぁ…今日もかっこいい…!!」
ざわめく校門に少しだけ気分を害す。
…そう。この学校には王子様がいる。
男の子にとって憧れで、女の子にとってはアイドル。
「おはよ、姫」
「…おはようございます。沢田くん」
「綱吉でいいって」
愛想笑いで誤魔化すが、沢田くんは無駄に整った顔でふわりと笑うと私の腰に手を回す。
本来なら叩き落としたいところだが、そんなことをしてはイメージがよくない。
ゆっくりと沢田くんから離れると「美しい女性のエスコートは基本だと思うけど」と再び引き寄せられる。
…っ、こういう完璧ながら気障なところが気にくわない。
男はみんな私を高嶺の花として扱ってくれるのに、この人だけ気安く…他の女の子たちと同じように扱ってくる。
「エスコートは結構です。学校ですから」
「オレが一緒にいたいだけなんだけど、ダメ?」
甘い甘い笑みを浮かべてそんなことを言うから、周りで女の子たちがきゃーきゃーと騒ぎだす。
あぁもう本当にやめてほしい。
でもここで迷惑そうにしては、やはりイメージが、
「ね、もっと姫のこと、教えてよ。…その完璧な皮の下が、知りたい」
「……っ」
耳元で私にしか聞こえないように囁かれた言葉に思わず息を飲む。
…この人は見抜いている。
私がキャラクターを作っていること。周りの目をすごく気にしていること。
だけど、そんな簡単に私を晒すわけにはいかない。
何て言ったって物心ついたときからこうやって生きてきたのだから。
今度こそ沢田くんから離れると極上の笑みを浮かべる。
「私は私だわ。それ以上でもそれ以下でもない。…では、失礼します」
ふぅ…言いたいことは、言えた。
ここまで言えば沢田くんもしばらくは私に構わないでしょ。
さて、早く教室に行って生徒会の仕事をしなくては。と、考えているといきなり腕を引かれる。
突然のことで驚く暇もなく振り向かされたかと思えば、
ーー唇に柔らかい感触。
目の前には沢田くんの美しい顔。
伏せられた睫毛に長い、と妙な感想を抱く。
きゃー!!!!という女子の悲鳴。
まさか、私、キスしてる?
「……っ!!!!」
あまりのことに思わず私は沢田くんの体を押すと、勢いよく彼の頬にビンタする。
パシッ、いや、バシッ!とかなり痛そうな音。
だけど、私の怒りと戸惑いはおさまらない。
「な、なに、してっ…!!」
「…やっと表情崩せた」
してやったりとばかりにニッと笑みを浮かべる沢田くん。
頬が真っ赤になっているのに、その不敵な笑みに思わず少しだけ見とれる。
「もっと、姫のことが知りたい。…オレ、姫が好きだから」
「っ、はぁ!!??」
あなた馬鹿なんじゃないの!?と罵ってやりたかった。
だけと、今までの私が微かな理性を精一杯働かせて黙らせる。
いや、は!?とか言ってしまった時点でかなり私のイメージから離れている気がするんだけど…それはもう仕方ない。
少しずつ近づいてくる沢田くんから、逃げることはできない。
じっと彼を見つめて(いや、睨んで)いると沢田くんはふわりと笑った。
「これからガンガンアプローチするから、覚悟しててね?お姫様」
きっとここから始まる
「…っ、望むところよ」
この勝負、一体どうなることやら。
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