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あれから雲雀さんと一度も会わず、私はいつも通りの日々を送っていた。
たまに郁織と会ったりしたけど挨拶も交わさない。…あっちも猫を被るのが面倒になったみたいだ。
早朝、珍しく早く起きた私はボンゴレの屋敷に向かった。
任務の報告書も出さないといけなかったから、仕方なく。
密かに気に入っている庭を通って(ボンゴレの庭は悔しいけどすごく綺麗)玄関に向かった。
…その、途中。ひゅんっという鋭い空気を切り裂いたような音に私の足が止まる。
今の音は…間違いない、私が間違えるはずない。
――――刀が振られた、音。
いつものように相棒である翡翠は私の背中に静かに横たわっている。
私はそっと庭の中に入り、音の根元を見つけた。
…山本武。ボンゴレでも二大剣豪と呼ばれる人物の一人。
剣士らしく、着物を着て一心不乱に刀を振っていた。
綺麗な型、と見惚れつつも勿体ない、とも思う。…もっと純粋に刀を極めればいいのに。
かさり、とわざと草の音を立てると鋭い殺気が私を貫く。
「誰だ」
「私」
「…あれ?翠徠?」
はよー早いのなーとのんきに笑う彼。
さっきまでの鋭さなんて全く見られない態度…さすが、というか、なんというか。
おはよう、と無難に返しつつ私の視線は彼の持っている刀に釘付け。
やっぱり綺麗な形してる……これなら翡翠といい勝負だわ。
じっと見ているものが自分ではなく刀だとわかったのか山本武は首を傾げる。
「この刀がどうかしたのか?」
「…綺麗な刀ね」
「サンキュー!そういや翠徠も刀使うって聞いたぜ」
それだろ?と山本武の視線が私の後ろ…正確には私の背中に向かう。
私の翡翠は黒い鞘に収められていて、金の金具のついた長剣。
山本武が持っている刀より少し長いと思う。
…私が女で対格差があるからって先代が長めに作ってくれたものだ。
私はこの子が大好きで相棒でもあるからとても大切にしている。
山本武にわからないように翡翠を一撫でして、それにしても、と考えを始める。
私が刀を使うことは一部の人間しか知らない。
ボンゴレならリボーンと骸、…多分綱吉も調べて知っていると思う。
それに…獄寺隼人。彼はこの前の任務の時に見られてしまった。
リボーンと骸、綱吉が簡単にヒットマンの獲物を人に言うはずない。
…と、なると…やっぱり、獄寺隼人か。
「獄寺隼人?…見た目に寄らずおしゃべりなのね」
「ははっ!まぁなー」
「……ねぇ、山本武」
「武でいいって!元クラスメイトだし」
「じゃあ、武。貴方、本気で刀をやる気はないの?」
「本気だぜ?」
そう言った武の顔は笑っているけど、笑っていなくて。
それで本気でやっているつもりだということはわかった。
ふぅん、と呟いて私はすらり、と翡翠を鞘から抜き去る。
チャキッと翡翠が綺麗な音を出して朝日を浴びて鈍い光を放った。
武に対しては……ニッと不敵な笑みを浮かべて。
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