この世界にきみがいるから



「今日は出航、か…」




ちらり、と姫は壁にかかった時計を見上げてそう溜め息まじりに呟く。
ついにお別れかと思うと本当は淋しくて…悲しくて……見送り、なんてしたくなかった。
…でも、ロー達のことは本当に応援しているから、見送りに行きたいという気持ちが強くて姫は着替えて港へ向かう。
海賊、という半ば犯罪者のようなものになるから見送りに行く人は少ない。
けど、本当は街の人達もロー達の出航を応援しているのだ。

少し歩いていけばもう錨をあげ始めているようで活気ある声が聞こえてくる。
どうやら他の街にいたローを慕う人達もクルーとして乗っているらしく、たくさん人がいた。




「あっ…ベポ、」

「えっ?あ、姫!来てくれたんだね!」




見慣れた白熊、基ベポに声をかけるとベポは嬉しそうに笑ってくれる。
そんなベポにへらり、と笑ってみんなは?と聞いてみた。
呼んで来ようか?と既に足を向きかけたベポを姫は慌て止める。忙しいだろうから、と。
ベポは何か言いたげだったが結局何も言わずにわかった、と頷いた。




「寂しくなるね。みんないなくなると」

「そうだね…姫は、「出航ー!」




どうやらお別れの時間らしい。

姫はまたね、とベポに抱きつくとベポも泣きながら頷いてぎゅうっと抱き締め返した。
泣いているベポに小さく笑ってそっと体を離し、ベポを船へと登らせる。




「(…ロー…)」




小さく、ほんの小さく胸中で彼の名前を呼んで零れる涙がわからないように俯く。

何度も何度もローの名前を呼んで、優しい笑顔を思い浮かべては痛む胸を押さえた。
ローを困らせてはいけない、ただその気持ちだけが姫の気持ちを封じ込めていたが、今はもう誰もいない。


だから、最後だから、




「私も、行きたい…っ」

「なら行くぞ」

「へっ…?っ、きゃっ!え、な、えぇえー!」




突然後ろから声がしたかと思えば急に体が浮き、瞬きの間に視界が変わっていた。…船の上に。
姫!という嬉しそうなベポとシャチの声に流石の姫も呆然とした。

―――何で私も船に乗ってるの、と。




「肝心なことを思い出したんだよ。このクルーに航海士がいねぇってことを」

「は、」

「だが幸いなことにオレの一番近くに優秀な航海士がいることに気がついてな。

…一緒に来てほしい、姫」




振り向けば、大好きな人。…自分を必要としてくれた、人。

ローはにやり、と笑って「まぁ、返事は“はい”しかねぇけどな」と言いのける。
その笑顔に心のどこかが安心して、にっこり笑うと勢いよくローに抱きついた。




「行く!ローの側にいたい!」

「…当然だな」



ふっ、と優しく微笑んだローは姫を抱き締めて、小さなキスを姫の唇に落とした。




この世界にきみがいるから

(きみがこの世界にいる限り、叫び続けよう)

((愛してる、と))

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