「近藤さんはお元気ですかィ?」 「はい。でもここ最近はお忙しいようで。それでも私を見ると必ず総悟は元気かと聞かれて、とても気に掛けていらっしゃいますよ」 「あの人は相変わらずだなァ」 「それに副長も局長と同じくらい気に掛けておいでです」 「一言余計でさァ。久し振りに顔出しに来たんなら手土産に土方の首でも持って来るもんだぜィ」 「不器用な方ですから顔こそお出しにならないけれど、隊長のことを慮っておいでです」 「チッ、んなバカなこと言ってる暇あればテメーも仕事しろよ。一番隊の仕事ほっぽったら承知しねえぞ」 「生憎、以前から隊長がサボリ倒していたおかげで平隊士も散々尻拭いさせられましたのでね。今更大したことなどありませんよ」 そう切り返せば減らず口の隊長も分が悪くなったのか、何も言わずにまた私に背を向けてしまった。少し意地の悪い言い方をしてしまったか。いつ見てもその姿は、さながら叱られて拗ねる子どものようである。いつも、私はその形の良い美しい頭部をずっと見てきた。 私には背を向けてばかりで、振り向いてくれたことなんか一度も無い。だから私がその美しい栗色の髪をずっと見つめていたことをこの人は知らないのだ。 「……相変わらず可愛いくねェ女」 「可愛い女に真選組の仕事は務まりませんのでね」 枕元には疎らに散る毛髪。それを一本ずつ拾いながら思う。見慣れない長さになった襟足は最早肩まで届きそうだ。拾った髪を数本まとめて撫ぜる。隊服を纏っていた当時は嫌味なほどそれに映えていた明るい髪の艶は褪せて、手触りは粗く細くなった。薄い皮膚の下には骨が透けて見えるかのようにはっきりと浮き出ている。薬が合わないとか栄養が足りないとか、もう、そういう問題ではないのだ。この人の体は外から与えられる養分を吸収することが難しくなって来ている。 摂っても摂っても、摂った分だけ外に出て行ってしまう。もう、そういう体なのだ、この人は。 局長も副長も、隊長に会いたくない訳がないのだ。けれどあの人たちが会いに行けば隊長は己の命運を呪わずにはいられないだろう。感染のリスクもある。それに此処で養生させるに至るまでの数々の悶着を考えると、やはりお互いの為にも会わない方がいいのだ。会いに行くのなら、面識の薄い私くらいが丁度いい。ただの部下で、ただの平隊士に過ぎない大勢の中の一人。隊長の穴を埋める為に寄せられた一掴みの土。そんな私が感染した所で、それならまた他所から新しい土を持って来ればいいだけのこと。ゆえに隊長が落伍して以来、彼の見舞いはずっと私の役目である。 ただ、その役目を直々に申し付けたのは副長であったので、恐らくあの人は気が付いていたのだと思う。私がずっとこの人の栗色の髪を目で追っていたこと。突然呼び出され二人きりとなった副長室にて「嫌なら断ってもいい」とご丁寧に前置きをしてまで私に見舞い役の話を持ち出したのは私に選ばせる為だったのだろう。自分のこととなると不器用なくせに、部下には一層優しいのだ、あの人は。 「オイ」 「はい?」 「仕方ねェから、オメーにだけは言っときまさァ」 相変わらず私に背を向けたままだったので、まさか隊長から話しかけてもらえると思ってもいなかった私は我ながら随分と間抜けな声で返事をしてしまった。 「近藤さんの側にいて土方のヤローの息の根を止めるのは俺のはずだった。けどもう俺ァながくねェ。だから俺の代わりに近藤さんの面倒見と土方の死に際拝むのはテメーに任せまさァ。ビビって逃げたら承知しねェからな」 捲したてるように早口で喋るのでその意味を理解するのに時間を要した。にも関わらず、私の頭ではなんと返したらいいのか分からずに結局気の利いた一言も言えないまま、ただ息を吸う度に時間だけが過ぎて行くのを感じながら、なお背を向ける栗色の形の良い頭を見つめていた。 「あーあ。つまんねェ人生でさァ」 それは穏やかな春の夕暮れのことだった。 花としとど 20170906 |