裸の窓から差し込むオレンジの薄い西陽で時計を見なくともうっかり寝過ごしたのが分かった。先日新調したラグがあまりにも肌触りが良くて、ちょっとした昼寝のつもりがそろそろ夕方だ。今日は天気が良くてベッドシーツもカーテンも丸ごと一式洗ったのでそろそろ取り付けなければと思いつつ、何となくまだ眠気が取れずそのまま剥き出しの窓を見つめる。カーテンはレールに掛けてそのまま干せば楽だったんだなぁとぼんやり思う。自分の生活力の無さに呆れつつ、いつの間に掛けてくれたのか、私の体にはやわらかなブランケットが掛かっていてそれが余計に私をラグに縫い付けるのでなかなか体を起こせない。 (あと、もう少しだけ…) 肩までのブランケットを首元まで引っ張り目を閉じる。それと同時に玄関のドアが開く音がする。そして鍵を掛ける音と靴の踵が擦れる音、愛用のエコバッグが床に置かれた音が続け様にしたので佐助が帰ってきたのだと分かった。きっと夕食の買い出しに行って来てくれたのだろう。その足音はキッチンへ向かうとエコバッグを開ける音と冷蔵庫の開閉音に変わっていく。几帳面な佐助はいつも帰宅と同時に直ぐに食材を冷蔵庫へしまうのだ。 そろそろ食材を仕舞い終えたのであろう、数分後にはバッグを畳む音が聞こえる。その間、ちょっとした悪戯心が芽生えた私はその足音がリビングへ近づいてくるのを待った。私の側まで来たらその首に両腕を回して抱きついて驚かせてやろう――と思っていたのに。 「美雨、起きてるでしょ」 「……」 「俺様に小細工しようったってムダだよ」 「……御見逸れしました」 「何を今更」 私、今でも気配を馴染ませるの上手いと思うんだけどなぁ。寝たふりだって例に漏れずだと思うんだけど。そんな風に少し残念に思いながらゆっくりと仰向けになる。いつの間にか、当の佐助は丁度私の顔を覗き込むように後に腰を下ろしている。 「ブランケットありがとう」 「どういたしまして」 「それと、買い物も」 「気持ちよさそうに寝てたからねぇ。なんだか起こすの忍びなくてさ」 まるで子どもをあやすかのように私の額を撫でるその手には大きな傷も古傷の痕も爪が大袈裟に割れる事もない。それはただの一般的な男性のキメの粗さの手であるので、少しだけ、ほんの少しだけ落ち着かない。それでもその手のひらの大きさと鋭い感性だけは今も変わらぬまま。 その手のひらが頬に降りてきたかと思ったら、そのまま屈んだ佐助にキスをされた。私の顔を覗き込むようにして屈むものだから私の視界は佐助の喉元で埋め尽くされる。 「本当、相変わらずだね、佐助は」 「別に特別すきって訳じゃあ無いんだけどねぇ」 「じゃあわざわざ逆さまじゃなくてもいいのに」 「へへっ、昔のクセが抜けないだけ」 そうしてへらりと笑い、私の隣に寝そべる。やはりと言うべきか、私と対になるように添ってくるのがおかしかった。確かにあの頃の佐助は忍隊の長という肩書きもあって、余計に人目を忍び、いつも突然逆さまに現れて私に口付けしては早々に去って行ったものだ。けれど今の時代、少なくとも今の私たちには誰かの目を盗んでキスする必要なんてありもしないのに。 「このラグいいね、ふかふか。ごろ寝にぴったり」 「じゃあ夕飯まで寝ててもいいよ」 「あ、でもカーテンも付けなきゃね。眩しいし」 「一緒に付ける?」 「もう、仕方ないねぇ」 よっこいせ、となんともジジくさい声と共に隣にあった温度がじわじわと消える。急に肌寒くなった空間が何ともさみしくて、つられるように身を起こす。カーテンもシーツも付けるのは面倒だけど、私がサボれば苦笑しつつも文句も言わずに佐助が済ませてくれるのが目に見えているので、やはり私も参加しない訳にはいかないのだ。 取り込んでおいたカーテンを持って窓際へ行く。日差しのほんのりとしたあたたかさとふわりと漂うお気に入りの柔軟剤のいい香り。今夜の寝室は特別に心地が良いはずだ。 「なんか、いいねぇ。こういうの」 途中、レースを広げて黙々とレールに掛けていた佐助が沈みかけの西陽を見ながら言う。あなたにそんな事を言われるのは、あぁ、なんともこそばゆい。 わたしたちのおだやかな生活 20180517 |