MEMO
更新状況と後語りなど
▽2022/02/10(Thu)ib
ドライブしようよ
ibの運転姿みたいよね
「BBQとかどう?」
「暑くね?」
「どこ行ったって暑いよ」
「室内で食ったら暑くねぇよ」
「まあね…そうですけど…」
「いや、別にいいけど、行く?」
その言葉は、一字一句違わずに出かけることが決まった時も聞いた。そんなに乗り気じゃないけど、私に合わせるときの優しい問いかけ。別に今日じゃなくてもいいから、明日暑さがマシだったら行こうよ。と言って、差し出された左手にペットボトルのキャップを開けてから渡すと、サンキュ。と前を向いたまま微笑む横顔がかっこいい。
夏だし、ドライブ行こう。とせがんだのは、イブの運転姿を見たいのが8割、残りはなんとなく、夏っぽいことがしたくて。連休だし。頼み倒せば渋々了承してくれて、日帰りでも良いって言ったのに、気付けば宿も決まって、レンタカーの手配も終わってた。何でも頼めば困りながら許してくれるし、そういう段取りも上手なの、損な性格してるね。返ってきたペットボトルのキャップを閉める前に私も一口飲んだら、自分のあるだろ。と咎められる。いいじゃない、飲みたかったんだもん。オレンジジュース。
「流石に海入るって言わんよな?」
「言ったらどうする?」
「そうねぇ、帰っちゃおっかなあ」
「今から?」
「おん、Uターンして帰るわ」
「高速でUターンは死ぬって、そんなに嫌?」
「まぁじで嫌だねぇ〜」
流石に入るとは言わんよ、お気に入りの水着も持ってきてないし。海へ行こうとは言ったけど、目的はそこじゃないから、あんまり日焼けはしたく無いし。
そろそろ海が見えてくる頃だろうか、山に阻まれていた視界が開けて、太陽が顔を出す。真正面で堂々と光る太陽に少し目を伏せてサンバイザーを下ろして、見えてきたぞ。とチラリと海の方を見て私に伺う。正直な事を言えば、見えてきた海よりもこの横顔の方が見ていたい。この男、サングラスも似合うだろうな。海の近くに売っていたら買ってあげよう。
◇◇◇◇
「寝んの、弱いねぃ」
「寝ない…お話しよ、なんか面白い話して」
「いやそういうの良いって、寝てな」
「眠たくないから…」
「嘘つくな、その声で眠くなるわ」
結局、旅館も海もBBQも、最後に連れて行ってくれたライトアップされた綺麗な夜景まで、思っていた倍以上、子供みたいにはしゃいじゃったから、疲れてるみたいだ。会話の途中で一瞬途切れてしまった意識を指摘されて、眠気に抗えなくなっている自分に気が付いた。家に帰るまでが旅行、この時間を最後まで楽しみたいのに。それに、疲れているのはイブも一緒で、だからこそ助手席で寝てしまうなんて、申し訳ない。暗くなった静かな海を眺めながら流れるBGMに合わせて体を揺らしてみたら、さらに眠気がやってきたから、ぶんぶんと首を振って静かなBGMをスキップして陽気な曲に替える。一連の動きを見たイブは、強がってんなよって言いながら笑っていた。
「ごめんね、ほんと」
「なんでぇ」
「振り回してばっかりだったから、昨日も今日も」
「いや今更よ、いつもの事だろ」
「それは…じゃあいつもごめん」
「いや、そう言うことじゃなくて。楽しかったじゃん」
「ほんと?」
「ほんとよ。行くまでは暑いしダルいけどさ、実際行ってみたら全部良いもんよ。旅行ってさ」
そう言うもんじゃね? とガムを咀嚼しながらハンドルを片手で持つ姿は行きよりもリラックスしてゆったりしている。助手席との間にある肘置きに置かれた左手は規則的にリズムを刻んでいて、ご機嫌みたいだ。似合うと褒めちぎって頭の上に乗せたサングラスは、シャツの胸元にかかっている。山々が近づいてきて、このトンネルを抜ければ海とはさよならだ。そして、現実が帰ってくる。家に帰って、またいつも通りの日常が始まるということをまじまじと思えば寂しくなって、左腕にそっと触れてみると刻んでいたリズムが止まった。
「なに、帰っても一緒よ」
「泊まってく事になってる」
「そのつもりだったでしょ」
「ん、イブがいいならそうしたいなとは」
「ダメって言うと思ったん」
「…言わない」
「でしょ、っていうかもうさぁ…」
「…」
「もう寝てんじゃん」
「っ、なんか言った…?」
「いや、いいわ。大丈夫だから寝てろって」
「…ごめん…帰ったらいっぱいありがとうするからね…」
「ふは、そうしてよ」
寂しくなった気持ちに寄り添うみたいに優しい声に安心して更に瞼が重くなる。ついに眠気に抗えなくなって、こくこくと頭が揺れているのを自分の事なのに客観的に感じながら、意識が底へと落ちていく。非日常が終わっても、イブの隣に居られる幸せを感じながら。
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跳ねる春の泉