優しい毒に溺れていたい


◆セフレ、🚺彼氏持ち




 手と足をうんと伸ばして伸びをする。寝返って天井を見上げると、小洒落た照明の灯りが視界に入って眩しいからまたテレビの方へ体を転がした。私がソファを占領しているから、イブはソファの足元にもたれながらサイダーを飲んでいた。
 伸ばした足の甲にシャツの裾が当たったから、そのまま二の腕をなぞると、うざ、と一言放って振り向きもせずに片手で叩いてあしらって、またゲームに集中してる。1対1の格闘ゲームはそろそろ決着がつきそうだ。画面に見入っていれば、携帯が震えて、どうでも良いメッセージが来る、ハートで飾られたおやすみなさいのスタンプだけを返して少し渋い顔をしている時に限っては丁度よく振り返られてしまった。


「いや、顔よ」
「なんで、ゲームしてたじゃん」
「おかげさまで死んだし」
「あらまぁ、でもそれは私のせいではな…いてて、ごめんなさいって!」


脚をつねられて謝れば、宜しい。とつねった所を撫でる。その手は何処へ向かうでもなく私の足の上で留まった。ゲームの画面はYOU LOSEと表示されたまま、セクシーなお姉さんのキャラクターがポーズを決めていた。


「まぁた上手く行ってないんか」
「上手くは行ってるはずなんだけど、なんかね〜」
「贅沢言うなよ。いい奴そうだったじゃん。今回」
「好きなんだけどね、全然」


イブに隠していることなんて一つも無いから、優しくて、カッコよくて、何でも許してくれる彼氏の惚気は全部筒抜けだ。そう、彼に対して不満なところなんて何一つないんだけど、どんなに素敵な彼が出来ても、いつだって乗り越えられない壁があって、困っているのだ。その壁はじゃあ何でよ。と銀髪の奥に隠れた茶色い眉を心配そうに顰めた。全部分かってやっているのか、分かっていないのかは、私にも分からない。


「イブと会うなって言われ始めると、やっぱ面倒いんよな」
「それは言われて当然なんよな」
「え〜いいじゃん。別れちゃおっかな」
「今回逃したらマジでもう彼氏できんぞ?」


毎回俺が理由で別れられるの困るんですけど。と他人事のように言いながら、彼氏が出来たって報告しに来た私を追い返さずに平気で家に入れたのはイブの方だし、会わないほうがいい、なんて言葉は一度も聞いたことがない。狡い男だよな。来るもの拒まず去るもの追わず。いや、どっちも狡いって話は一旦置いておいて。


「てか言うなよ、俺の存在を」
「嘘つけないので、私」
「それが嘘なんよ」
「本当だしぃ〜」
「はいはい、よく言うわ」
「てかさ、気付いてしまった」
「何を」
「イブが彼氏になれば解決するんじゃね?」
「……」


突拍子もない私の言葉を、聞き流すでもなく律儀にちゃんと顎に手を当てて考える顔をして、少し黙り込んだ後にうんうんとゆっくり頷きながら、無いわ。と一言。本当にその気がないことを再確認して、普通に凹む。生意気な男は私の悲しむ顔をみてさぞかし楽しそうに、そりゃそーじゃんと言って立ち上がった。


「彼氏居んのに他の男の家泊まる女とは付き合いたくねぇわ」
「はは、たしかにそう」


ぎしりとソファが揺れて、覆い被さった綺麗な顔が影を落として重なる。私を組み敷いて満足げに口角を上げるその勝手な笑顔が憎らしくて、愛おしくて。まだしばらくはこの生暖かい場所からは抜け出せないんだろうな。


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