物が増えたリビングで


「ただ………え?」
「っはは、タイミング悪。おかー」

リビングのドアを開けると、いつもより上機嫌な声がする。イブはヘラヘラと笑いながらさぞかし楽しそうに笑顔を浮かべてこちらに近づいて来た。
……その端正な顔立ちにはあまりにも似合わない白いヒラヒラしたものを鼻からぶら下げながら。

「え?鼻血?なんで?」
「暑い時とか良く出るんよ」
「ホント?今まで出てなかったじゃん?」
「そうね、久しぶりに出たかも」
「び、びっくりするじゃん…ふ」
「何、笑った?なぁ」
「や?全然?笑ってない。大丈夫?」

心配が一番先なのは勿論だけど、シュールな光景に噴き出さずに堪えているのに必死だ。イブは、そんな私を見て楽しげに、鞄を置いて手を洗って、キッチンに飲み物を取りに行くまでずっと、ぺたぺたと私の後ろをついてくる。

「ティッシュ詰めてたら止まるだろ。大丈夫よ」
「あ、あんま動かない方がいいよ」
「歩くぐらい普通だろ」
「いやほら、すぐ行くから座ってなって、着いてこなくていい」
「なんか冷たくね?」

鼻を触るとその先の白いティッシュがヒラヒラと揺れる。それってヒラヒラさせとくもんなの?と聞いたら、しないでしょ。と真顔で返される。じゃあ何でそのまま出しっぱなしなの。笑いを堪える私を見てまた楽しそうに笑って、ヒラヒラが揺れる。なによりも、鼻血ってそんな楽しいものでは無いだろうに。水のボトルを冷蔵庫にしまってから、ヒラヒラを指であしらうとこそばゆいようで顔を背けた。

「触んな、笑かすな、抜ける」
「抜けたら爆笑」
「やってもいいけど、スポーンって」
「何でそんなノリノリなの?久々の鼻血でテンションあがってんの?何で?」
「は?あがってねぇし、何だよ、やんのか」
「ふふ、もうダメ、怒ってもおもろいってそれは」
「ふは、笑ってんじゃねぇよ、血出てんだから優しくしろよ。おい」
「やめて、ふふ、だからこっち来ないで」

笑ってんじゃねぇよ。って言うイブが一番笑いながら、私をぐいぐいとソファへ追い込んでいく。私が座って顔を背けても、隣に座ってまだ距離を詰めてくる。近づいてくるその顔を見ればまた笑ってしまうのは分かっているから、近寄るイブを両手で押し返そうとするけれど、やっぱり力では敵わなくて。無理やり合わされた視線の先で青と黄色はまっすぐ私を見据えていた。

「にげんなよ、こっちみろ」
「それ、は、ズル……ぶっ」
「うわ、吹き出すなよ!汚ねっ」
「っはは、今のはイブが悪い!」

その状態でキメ顔をするのはずるいでしょ、しかも自分も笑いを堪えきれずに唇はぐにゃぐにゃに歪んでるし。そろそろお腹が痛いから許して欲しい。この人、出会った頃はもっとスマートでカッコよかったのにな、今もちゃんとしてる時はカッコいいのは変わらないけれど、こういう時は徹底的に小学生になってイタズラをしかけてくるし、思ったより怠惰な所もある。こんなに砕けるようになったのも、一緒に住むようになってからだった。あの時より物が増えたリビングで、今日もありのままの時間を過ごす。


return
>>>