おやすみの口づけを







 先に眠ると告げて寝室へ向かって、常夜灯だけを付けて毛布に潜り込んだ。今日は一段と眠気が来ていたのもあって、ひんやりとした毛布の感触を確かめてすぐに意識を手放してしまった。それからどれぐらい経ったのか、隣で動く気配と毛布の擦れる音にやんわりと意識を引き戻される。目を閉じたまま音が収まるのを待っているうちに、少しずつ意識が覚醒していくけれど、目を開ける元気もなくて寝たふりをした。

 イブは偏ったままの私の毛布をそっと広げて、はみ出た足を仕舞い直してから、だらりと伸ばしたままの手をふに、と握る。もうだいぶ眠いのか、イブの手はぽかぽかに暖かい。ふにふにと硬さを確認するように何度か握られた後、また毛布の擦れる音がしてイブの気配がすぐそこまで近づく。寝たふりがバレたと思って目を開くと、鼻先が触れ合うほどの距離まで近づいた顔に驚いて少し声が出た。


「…起きてんじゃん、言えよ」
「…えへへ」
「いつから」
「ごそごそし出した時から」
「はぁ、全部じゃん」
「そういう事してくれるキャラだったんだねぇ」
「うるさ。まあ起こしたのはゴメン」


 ううん、と首を振って、離れようとするイブを引き止めて胸の中に転がり込む。腕を誘い込むように頭を少し上げると、首の隙間に腕が挟まって、もっと2人の距離がなくなるようにぎゅうとしがみ付けば、応えるように抱きしめ返してくれる。顔を上げれば、幸せそうに目を細めるイブの輪郭がうっすらと浮かんでいた。


「明日どっか行ったりする?」
「んー、牛乳切らしちゃったから買い物行かなきゃ…」
「りょーかい。んじゃ昼からでいいな」
「何時まで寝る気?」
「さあ?」


 明日の俺に聞いてよ。なんて適当なことを言うイブ。用事は出来れば早めに済ませておきたい派だけれど、きっと2人して起きるのは昼頃になるんだろうな。ふわぁ、とあくびを漏らせば、おやすみ。と髪を撫でられる。まどろみ始める意識の中で微笑んだイブと、今度こそ、おやすみの口づけを。







return
>>>