あんまり綺麗だったから


 放課後、二人きりの教室。だいぶ暖かくなったから、冬用の肌着が少し熱い。その分窓から入る風が心地いいんだけど、カーテンが揺れると隙間から西陽が入って眩しい。窓を閉めようかと問題集を進める手を止めて顔を上げると、机の向こうで頬杖をついてイブがぼんやりと私を見つめていた。
 
「なあ、付き合わん?」
「…え。」
 
 帰りタピオカ寄らん? ぐらいのテンションでイブから飛び出て来たあまりにも突拍子な言葉に、一瞬呼吸が止まった。真に受ける前に今日の日付に気づけて良かった。そうか、今日はエイプリルフールだもんな。嘘とかそう言うの好きじゃないと思ってたんだけど、イベントごとは大事にしたいとかこの前言ってたような気もするなあ。
 
「いいよ、オッケー」
「…おう」
 
 月並みな驚き方も面白くないかと思って、少し虚をついてみると、もっと驚かれると思っていたのかイブは少し不満そうに眉を顰めて私を見た。席を立って、隙間が空いてしまったカーテンを閉める一連の動作をじいっと見つめられて、少し動きがぎこちなくなる。
 
「いや、軽くね?」
「そう?」
「そんな感じでいいんか?」
「いいよ。ところで宿題なんだけど」
 
 問題集何ページまでだっけ? と聞いても答えは返ってこなかった。腕を組んで怪訝な顔をして私を睨んだままだ。あまりにも深刻そうなので、エイプリルフールでしょ? と答え合わせのために質問をすれば、はっと驚いた顔をして、顰められていた眉は見開かれた目と一緒に大きく開かれた。
 
「…そういえばそうだったわ。」
「忘れてたの?」
「ぉん。」
 
 いや今日、見事に叶先輩に騙されてたよね、あれは嘘が上手すぎるし、何もかも信じ切っちゃうイブに盛大に笑っちゃった。流石にあそこまで弄ばれてたのに、忘れるなんてある?
 ってか、エイプリルフールを忘れてたってことは、さっきの私たちの会話って…? 二人して顔を見合わせて、同時に口を開いた。
 
「じゃあ返事、嘘だったってこと!?」
「じゃあさっきの、本当だったってこと!?」
 
 ポカンと口を開けて数秒間見つめあって、恥ずかしくて逸らした。いや、いつかはそうなるとは思ってたけど、こんなに突然告白されるなんて思ってなかったから、なんて言ったら良いか分からん。イブの顔なんて見れなくて、問題集をじっと眺めていると、イブが観念したように沈黙を破った
 
「そう、さっきのは、本当。タイミング最悪で悪かったな」
「本当にそれ、悪すぎ。なんで今日なの」
「知らんって、つい、言っちゃった」
「何それ。どうなったらつい告白しちゃうのさ」
「ゴメンってば。んで、返事は嘘って事なん、なぁ。」
 
 自分で聞いておいて、段々不安そうに眉が垂れて来るのが可愛い。こっちも嘘じゃないですって言うの、恥ずかしいんだけど、驚きが落ち着いて、段々状況を理解してくると、顔に熱が集まっていく。
 
「いや…最初の、が嘘だと思ってノリで返事したけどさ…」
「おう」
「本当だったら、もっとちゃんと喜ぶし驚くし、じゃん…」
「…ほぉん」
「ほぉん、じゃなくない? ねぇ」
 
 そもそもさあ、雰囲気とかシチュエーションとかあるよね? 急すぎん? と説教を垂れたけど、イブはあんまり聞いてなかった。さっきとは一転、嬉しそうに私の表情の変化を楽しんでいた。
 
「ね、もう一回、ちゃんとしよ?」
「ちゃんとって何、俺はちゃんとしたし」
「お願いお願い!! お願いします!」
「えー、どうしよっかな」
 
 勿体ぶったように微笑んだところに、風が吹いた。また隙間の空いたカーテンから光が漏れて、いたずらな表情を見せるイブをキラキラと彩るみたいでとっても綺麗だ。
 あー、好きだな。つい口から漏れそうになった言葉に、突然の告白の理由も何となく分かった気がした。
 
「じゃ、私から言う」
「待って、それは違くね?」
 
 もぉー。と照れ臭そうに一度俯いて、ため息をついてから私を見る。
 
「…好きだよ。付き合え。」
「偉そうすぎ」
「っ〜〜…付き合ってください!! これで良いか!?」
「はい、よろこんで!」
 
 これ、ちゃんとしたって言う? 変わらんくね? と首を傾げながらキラキラ笑っている。また自然と浮かんできた「好きだよ」をそのまま溢せば、それ以上言葉を交わす必要はなくて、近づいてくる混ざり合いそうに揺れる青と黄を受け入れるように目を閉じた。


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