息をするのと同じくらいに
息をするのと同じくらいに…なんて表現、大袈裟な。と思っていたけれど、実際にそんな表現をする時が来る時がくるとは思わなかった。
1週間ほど実家に帰る用事があって、久しぶりに離れ離れの生活になったのだけど、ぼんやりしていると、ココアを2人分入れてしまうし、夜中にふと目覚めた時に隣に居なくて、まだ寝てないのか…と思う時もあった。他にも何度か、名前を呼びかけたり、色々。思っているより彼との生活が自分の身体に染み込んでいることに気付かされた。つまり何が言いたいかって、寂しかったって事。
1週間ぶりに見る端正な横顔はいつもよりカッコよく見える。髪も少し伸びた?風呂上がりで少し湿って重くなってるせいか。見慣れた白いソファに偉そうにふんぞり返る褐色の肌はいつも通り綺麗に映えている。
「んで、配信中に飲み物取りに行く時さあ…聞いてる?」
「あぁ、ごめん。聞いてる聞いてる」
「それ絶対聞いてないよな、まあいいけど」
今日のイブはいつもよりテンションが高い。いつもなら、もういい。と拗ねて話を止めちゃうところだったと思うけど、今日は私が傾聴していない事はさほど気にならないらしく、そんでさあと話を続ける。久々の彼の観察は程々にして、話に耳を傾ける。
「リビングにお前いなかったから、寝たんかとおもって、寝室あけちったわ」
「居なかったでしょ」
「居るもんだと思ってた。おらんかったねぇ。」
「真っ暗だったねぇ」
「そだねぇ」
んでさぁ、と言いながらふんぞり返った上に足を組んで、さらに偉そうな格好になっている。
「最初の方は朝もさ、俺より起きるの早いの珍しっ、とか思った時あった」
「あーわかる。夜中目覚めた時、まだ寝てないのかと思った時あったわ」
「それそれ、そんな感じよ」
「寝ぼけてるから余計にね。」
思わぬ同意に、わかる?と嬉しそうにこちらをみて笑うイブが愛らしい。会えない間も、考えていることが一緒で嬉しくなって、同じだね。と言うと、満足げに彼が微笑んだ。
「空気みたいなもんだなって」
「空気?わるぐち?それ」
「ちげーよ、今のはどう考えてもいい意味だろうが」
言葉の意味はちゃんとわかっていたけど、なんだか続きの言葉が欲しくて返事をせずに黙ってみた。今日の彼なら愛の言葉のひとつくらい落としてくれそうな気がする。なんてね。
「当たり前に居るもんだって思ってたけど、居なかったら困るなって話」
「お、おう」
愛の言葉でも、なんて言ったものの、彼の口から出た素直な言葉に思わず少し狼狽えてしまった。彼自身も最初はなんだその反応。と不満げだったのが、自分の言ったことを思い返して、あー…と照れくさそうに頭を掻いた。
「あれ、今の恥ずくないか?うん、恥ずいな」
「恥ずいねぇ」
「ね、忘れる?」
「こんなレアイベント、忘れるのは勿体ないね」
あーそ、別にいいけど。とバツの悪そうにスマホに目を逸らして、まーそう言うこと。と付け加える仕草はどこかぎこちない。素直なイブにつられて、私も素直になってみる。
「私も同じようなこと考えてたよ」
「マジ?」
息をするのと同じくらいに、当たり前に存在しているし、当たり前に必要。そんなことはもっと前からわかっていたつもりだったけれど、この1週間が存在の大切さを痛いほどに教えてくれた。
「つまりさ、寂しかったってことでオッケー?」
「ま、オッケー、かな?」
「素直でよろしい」
イブの方へ向き直って、腕を広げてそう言うと、うるせ。と言ってスマホを置いて、私の広げた腕を押さえ込んで、上から抱き込まれる。少し湿った銀髪が首元に触ってくすぐったい。いつもより強めに抱きしめられると、じわじわと2人の境目が分からなくなっていく気がした。いっそ溶け合ってしまえ。と思って私も強く抱きしめ返した。
「おかえり。」
「ただいま。」
肩口に顔を埋めて、すぅ、と大きく深呼吸。大好きなイブの匂いだ。帰って来た実感が身体中に溢れる。少し遅れて同じように大きく息を吐く音と肩口に暖かい吐息を感じて、考えていることが一緒なのが嬉しくなった。
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