サプライズなんてものは


 今日はウチ来る?珍しくイブからメッセージが届いたから、何か思惑でもあるのか?と思った。といっても、期待するのはほんの1ミリ程度だけにした。
 そういえば、合鍵を渡されたのもなんでも無い日だった。「メッセージくれたらインターホン鳴らさんくていいから」と突然渡された合鍵を使って言われた通りにメッセージの既読だけ確認してインターホンを鳴らさずに部屋に入ったら、部屋着のままゲーミングチェアに踏ん反り返ってゲームをしているこの家の王様が偉そうにおー。と声を上げた。やっぱり、期待はしなくて正解だったな。


「こんー」
「こん、ご飯とか食べた?」
「まだだけど」
「んじゃどっか行く?」
「んや?今日はいいや」


 何となくと言う感じを出して伺った少しの非日常の提案は、バッサリと却下される。普段の日常と1ミリも変わりない姿に安堵というか、なんというか。夜景が綺麗な美味しいディナーなんて贅沢は言わないからランチだけでも良かったんだけど。
 付き合う前はよく食事に行ってたけれど、きっと頑張ってたんだろうな。なんて1年前の事を思い出して少し微笑ましくなったり、切なくなったりしながらお昼ご飯はカップ麺を2人で食べた。たまに食べるのがうまいよなーとか、あーだこーだと喋りながら食べるカップ麺は、悔しいけど1人で食べるよりは美味しかった。


「あり〜」
「カップ麺の汁捨てるのめちゃくちゃ躊躇する」
「え〜いいんじゃね?」
「そう言うとこ適当よね」
「だって飲み切れねぇし捨てるしかないじゃん」
「そうだけどね、薄めたりはしようね」
「そこはね、流石にね」


 テーブルを拭き終わって、ソファに座っているイブの隣に収まって、イブに倣ってスマホを取り出した。特に何かを話すわけじゃない空気が心地良い。たまにおもしろ動画を見せあったり、アイドルの結婚とか、ビッグニュースに驚いたりしながら、文字通り何でも無い時間を一緒に過ごす。そういえばいつぞやの配信で、記念日は気にしないみたいな事言ってたなあ、いるよね。そう言う人。かくいう私だって1年目だから覚えてるけど何年も経ったら覚えてないかもしれないな。なんて、当たり前のようにイブとの未来のことを考えている自分が恥ずかしくて、そこからは記念日のことは考えるのをやめてイブにもたれ掛かりながらネットニュースを流し読みする。


「1年って短えなぁ」


昼下がりのまったりとした沈黙を破ったのは、思いもよらないイブの一言だった。なんだ、分かってたんだ。と驚いて目を丸くしてイブを見つめると、そりゃね。と得意げな顔を返された。得意げな顔をしたって、行動とか態度で示してくれなきゃ何も伝わらないんですけど?と説教をかましてやりたいけど、イブはそう言うタイプじゃ無いから効かないことは明白なので、すでに諦めはついている。


「お祝いのサプライズはもちろん無いんだよね」
「……と思うじゃん?」


嫌味まじりにプレゼントをねだってみると、あれ、それどっかで聞いたな。残念ながらそんな空っぽのサプライズでキュンとしてしまうどっかのチョロい英雄とは違うので、至極真顔で無いんだよね。と答えると、バレた?といたずらに笑った。


「そ、無いんだよねぇ」


おもむろに私の頬を両手で覆って、ぐにぐにぐに。歪められた口から情けない声が出て、イブがまたガハハと笑った。


「たかが1年で祝う意味なくね?」


まだまだこれからっしょ。と当たり前のように言うイブの描く未来にも、私が存在していることが嬉しくて、つい口元が緩くなる。
そう言うこと言うと彼女って怒るもんなんだよ、照れ隠しに言ってやると、お前怒ってないじゃんと頬をこねくり回して余裕の返事。悔しいので私も両手で私より幾分薄い頬を覆って、ぐにぐにぐにとやり返す。同じように歪められた口から情けない声が出て、2人でガハハって笑った。







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