STAGE.1
『不束者ですが、何とぞよろしくお願いします』
真選組屯所。
風情豊かな庭に面した客間にて、その組織の局長である近藤勲と向かい合い、深々と頭を下げる少女がひとり。
顔を上げるように促されると、その少女は幼い顔を覗かせて薄らと笑みを浮かべた。
「こちらこそムサイ連中ばかりだが、よろしく頼む」
ガハハと豪快に笑う近藤につられて『はい』と笑顔で返事をする。
巷ではチンピラ警察などと称されるこの真選組の女中として今日から働くことになった、その少女の名を名無しさんと言う。
何故、働くことになったかという経緯なんかを説明するのは面倒なので、そのまま話を進めることにしまーす。(手抜きだなぁオイ)
「いやー、それにしても大人になったもんだなぁ。昔はこーんなに小さかったのに」
「こーんなに」を顔と手で表現しながら、近藤が言うと、クスクスと笑いながら『そうですね』と名無しさんは答える。
昼時の静かな時間帯。
他愛のない会話をするそんな2人を襖の隙間から見つめる人物が、ひとり、ふたり、さんにん‥‥の、先頭にいる山崎退が口を開く。
「誰ですかね、あの女の子」
「局長の女にしちゃあ、若すぎねェか」
「いや、あんな若い子を局長がゲットできるはずはない」
ゲットって古ぃよ、誰だよ言ったの。
隊士たちがやいやいと問答を繰り返していると、その後ろから低い声が響いてきた。
「何やってんだぁ、お前ら」
ギクッとして隊士たちが顔だけ振り返ると、そこには隊服のポケットに両手を突っ込んで立つ、真選組副長 土方十四郎の姿があった。
ヤバイ、さぼってたのがバレてしまう。
そう考えた隊士たちは、何とか雷が落ちるのを阻止するため、取り繕うように襖の向こう側に居る来客の話をした。
局長が女を連れて来ていると言うネタに食い付かない訳がない。
「あぁ?女だぁ?」
焦って説明する様に土方はイラッとしつつも、その単語に興味を引かるのもまた事実で、とりあえず一番近くに居た山崎だけを殴ってその場を退かせた。
「何で、オレだけェェェ?!」と小声で叫んで悶える山崎に対し、「うるせェよ」と心の中で舌打ちをすると、開いた襖へと目線を移動させた。
土方が隙間の先の人物を目に捉えようとした、瞬間、
ドゴォォン!!
「ぼげふ!!」
凄まじい爆音と共に強い衝撃が土方の背中を襲い、その勢いのまま襖を破って客間の中央に位置する机に顔面からダイブした。
ガン!という盛大な音を響かせると、前と後ろの両方からの激痛に声も出せずに悶える。
突然の仲間の来訪に、「え、何?何?」と驚くしかない近藤と、呆気にとられる名無しさんと隊士三人。
そして立ち上がる煙の中から、その爆音を作り出したであろう人物がゆっくりと歩を進めて来た。
自然と視線がそちらに向かうと、
「皆さんお揃いで、どうかしたんですかィ」
真選組一番隊隊長 沖田総悟はさも平然とそう言い放った。
いや、お前がどうしたんだよ。
と、心の中でその場にいた隊士がツッコミを入れるが、口にしないのは自分の命が惜しいから。
肩に凶器を担いで客間へと進むと、机に頭を突っ込んでのびている土方、ではなく、その上で頭を押さえながらうずくまっている人物に目線を向けた。