STAGE.16
いつものように夕食の買い出し途中。
道端を歩いていると、河川敷の方から何やら声が聞こえたために私は立ち止まった。
「オラ、かかってきてみろよ!」
「お前のとーちゃん、とーちゃんなのにかーちゃんじゃねーか!」
気になって手すりから身を乗り出して覗き込むと、いかにもガキ大将という風体の男の子が木の枝を手に、しゃがみこんだ男の子を叩きつけていた。
これは、世に言うイジメというものだろうか。
一瞬、声を掛けることに躊躇ったけど、今にも怪我をさせてしまいそうな雰囲気だったために、慌てて声をあげた。
『ちょっと、アナタたち‥‥!』
やめなさい、と言い終える前に、いじめている側の男の子たちの頭上にポタポタと青い雫が流れ落ちてきていた。
え、雨?
いやいや、今まで晴れていたし、そんなピンポイントには降らんでしょう。
ブーッという何かを吹き出す音に視線を横へ移動させると、着飾った綺麗なお姉さん二人が口から何かの液体を垂れ流していた。
「ギャアア!」
「うわー!危険な汁が出てるぅ!」
「逃げろー!」
男の子たちは悲鳴を上げつつ、その場を走り去って行く。
きっと、イジメを止めようとした行為だとは思うけど、女性が口から液体を吐き出すなんて。
(手には缶が握られていたから、何かのジュースだとは思うけど)
‥‥‥‥汚ねェよ。
顔を引きつらせた私に気付いた二人のお姉さんと目が合うと、何故か二人ともそのまま固まってしまった。
『‥‥‥‥?』
そんなに変な顔してたかな。
慌てて笑顔を浮かべて首をかしげると、
「‥‥名無しさん」
「‥‥名無しさん殿」
二人のお姉さんは私の名前を口にした。
え、こんな女性の知り合いいたっけ?
いやいや、かぶき町で私を知ってる人なんてほとんどいないし。
『あの失礼ですけど、どこかでお会いしましたか‥‥?』
投げかけた質問に一瞬目を丸くされたけど、いくら記憶を辿ってもやはり思い出せない。
綺麗な銀色の天然パーマを可愛らしくツインテールに結んでいる人と、清潔そうな黒くて長い髪をひとつに纏めている綺麗な人。
こんなに印象深ければ忘れないと思うんだけど。
「おめー気付いてねーのか?」
『え?』
色々と考えていたところでツインテールのお姉さんが逆に質問してきた。
‥‥‥‥気付くって何を?
話が読めないまま困惑した表情でいると、お姉さんは自分の顔を指差して、
「俺だよ俺。銀さん。万事屋の」
‥‥ん?万事屋?
銀さん?え?
言われて、しばしの間、思考が停止する。
万事屋の銀さんと言えば、白い着流しを着て、「洞爺湖」と彫られた木刀を腰に差し、くるくる天然パーマがトレードマークの無気力でまるでダメなおっさん。
男の人だと思っていたけど、それは大きな間違いだったということなのでしょうか。