STAGE.19
「名無しさんさん、すまないがお茶を4杯ほど用意していただけますか」
『はい、分かりました。お客様ですか?』
本日、女中の仕事は非番につき私はとある場所に来ていた。
町外れの廃寺。
その家主である和尚、道信さんに頼まれ、淹れたお茶を客間へ運んでいった訳だけど。そこには、よく見知った人物がいました。
『銀さんと新八くん?』
「名無しさん?!…お前、どうしてここに」
『銀さんたちこそ…』
仕事の依頼だろうか。
すでに道信さんとは何やら話をしていたようで、どういうつもりだとか、付けてきたとか言っていたけど、全部は聞こえなかったから詳しい内容は分からない。
机の上にお茶を差し出しながら尋ねてみたけど、「ちょっと、野暮用」とだけの曖昧な返答しかなかった。
「お知り合いですか?」
そんな私たちの様子を見て、道信さんが声を掛けてくる。
知り合いというか、友達というか、パシリにされて困ってるというか。よく分からない関係なので、私はコクリと頷くだけに留めた。
そこへ、別の部屋で遊んでいた子どもたちが近付いてきて、私の手を引くと嬉しそうに一緒に遊ぼうと誘ってくる。
「あのチャイナ服のお姉ちゃんスゴイんだよ!」
「名無しさんお姉ちゃんも一緒に見ようよ」
子どもたちが指差す方に目を向ければ、銀さんたちと一緒に来たであろう神楽ちゃんが傘をくるくる回して、その上にはお手玉が落ちずに器用に跳ねていた。
思わず拍手を送り、近くで見てみたいと子どもたちに手を引かれるまま付いていった。
その後、銀さんたちは神妙な面持ちで何か話していたようだったけど、遠くにいる私には聞こえなかった。
「(オイィィィ!何であいつがいんだよ?!絶対ややこしくなるよっ、面倒事間違いなしだよっ)」
「(落ち着いてください、銀さん。まだ名無しさんさんが闘技場や鬼道丸のことを知ってるとは限らないでしょう)」
「…知りませんよ、彼女は」
ヒソヒソと話す二人に道信が答える。
その言葉に、「では何故ここにいるのか」と新八が尋ねると、隣の部屋で子どもたちと遊ぶ名無しさんの姿に視線を移し、道信は話を続けた。
「先日、子どもたちが町の公園に遊びに行きまして…」
その際、ケガをしてしまった子がおり、偶然通り掛かった名無しさんが手当てをし、この家まで送り届けてくれたと。
「それ以来、留守がちな私の助けになればと仕事が休みの日には時々ああやって、子どもたちの相手をしにきてくれる」
「名無しさんさん…優しいですね」
「えぇ、あんな女性は他にいません。私がもう少し若ければ、嫁にしたいくらいだ」
「オイ、何言ってんだエロ親父」